おなかすいた
渋谷駅、東急東横線に乗り換える。
駅前のパン屋で、クリスマス限定のコッペパンが売られている。Suicaで買い物をする。財布の中身は知らない。
途中、コンビニに寄る。ここからあと10分歩く。もう3年も続けている。
ぬるいおにぎりを頬張る。鶏五目。冷たい空気が流れ込む。カーテンが揺れて、陽の光を思い出す。いつかはここに居られなくなる。そう言った人達は、必死にまともなふりをしている。ねぎトロ巻き。何度フィルムを開けても海苔を破いてしまう。
週に一度、公園に寄る。たくさんの親子を視界に入れながら、トートバッグの隅で潰れたコッペパンを食べる。コロッケは冷めているし、クリームはドロドロに溶けている。笑顔で走り回る子供たちの、リビングでの姿を想像する。
渋谷駅、ハチ公口を出る。
この世で一番大切なものを集めに行く。たまに拾える。
改装中のPARCOを横目で見る。みんなとご飯を食べる気分になれなくて、サキちゃんに連絡を入れる。スペイン坂のオムライス屋で夕食をとる。
「初めてここに来た子にはオムライスを食べさせる。なぜなら私の得意料理だからね」とサキちゃんは言っていた。そんなオムライスを食べながら、この世で一番大切なものとその集め方を教えてくれたあの子は、2年前にいなくなった。「成人式で振袖を着たいから、今のうちにたくさん稼ぐんだ。あんたにも見せたげる」と言っていたから、私は少しだけ、来月を楽しみにしている。
渋谷駅、山手線に乗る。
サキちゃんとみんながいる場所に帰る。
あと数ヶ月しか居られない場所に帰る。