土・肥料・水 ~資源から見た未来予測~
まずはこの絵画をご存知の方、いらっしゃいますか。 これは19世紀フランスの画家、ミレーが描いた「落穂拾い」です。
刈り入れが終わった後の畑に、手前には残った麦の穂を拾い集める3人の貧しい農婦が、背景には穀物がうず高く積まれています。 豊かな地主が馬に乗って監督するもとでの、にぎやかな収穫風景と対比して、労働の重苦しさを描いています。
さてタイトルの土、肥料、水。どこかで見たフォーマットですがお気づきでしょうか。 博識な方はお気付きかもしれませんが、銃、病原菌、鉄をオマージュしています。
この本は「コロンブス達はなぜ、圧倒的人数差があったのにも関わらず、少数精鋭でアメリカ大陸を制圧できたのか?それは銃、病原菌、鉄が決定打になったからである」ということ。
もう一つは「なぜ人種によって優位差が生まれたのか?その究極の要因は大陸間の気候や環境の差によるものである」という歴史的謎解きを追体験させてくれる名著です。
本講義では、土、肥料、水の3つの資源から見た世界情勢。そして国のパワーバランスを決める究極の要因は一体なんなのか。この現代における謎を、一緒に解き明かしていきましょう。
世界の食糧問題
昨今は食糧危機の話を何かと耳にする機会が多いように感じます。なぜ危機的状況にあるのか?その前に今、世界がどうなっているのか。一緒に見ていきましょう。
農林水産省によると日本人一人あたりの年間の食料消費量は、穀物換算すると平均150㎏程度とされています。となると、世界人口80億人に必要な食料は12億トンとなります。 現在、世界の穀物生産量は約30億トン。ここから家畜飼料を引くと、意外と食料に余裕はないのです。
それでは生産上位5か国の現状を見ていきましょう。
・第1位 中国 生産量6億トン以上。現在は様々な要因で生産量が低下中。また、塩害が発生。そして干ばつにより湖が草原化。 しかし、約18億トンほどの穀物備蓄を保有しているので、国民14億人を数年間養うことは出来る見込み。 彼らは歴史上でも飢饉のたびに、子供を食べていた過去があるので、今回もなんだかんだで生き延びることでしょう。
・第2位 アメリカ 生産量4億トン以上。地下水の枯渇、西部では大規模な干ばつ、東部ではハリケーンなどの洪水被害。 度重なる異常気象により、アメリカ全土の乾燥化。加えて森林伐採、貯水装置の削減、河川の固定化、湿地帯の喪失など乾燥化は加速していく。
1971年、イランで調印されたラムサール条約にて、湿地帯を保護を約束したものの、それまでも、それ以降もアメリカは湿地帯を失い続けています。
確かに湿地帯はマラリアの温床になるデメリットもあるが、水のろ過や水の流れの調節など様々なメリットもある。なのにすべてを駆逐していったため、この旱魃は必然的に発生したものだと言えるでしょう。
・第3位 インド 生産量3億トン以上。現在熱波の影響で減産中。2019年時点で国土の4割が旱魃状態。 お隣のパキスタンは洪水により国土の3分の1が水没。多くの農地とすべてのダムを失った。洪水の後は渇水になりやすいのでパキスタンの食糧不足は長引くと予想。最悪のシナリオは食糧を求めて核保有国同士が争うことだが、パキスタンは同盟国アメリカ側が助けられる...と思いたい。
・第4位 ロシア 生産量1億数千万トン以上。天然ガスなど、資源に恵まれている国で、化学肥料生産1位だが以前のようには輸出をしていない。 この国に関しては様々な情報が錯綜しており、正確なことがわからない。ただ、確実に一つ言えることは、全世界の穀物の1割が第二次クリミア戦争で焼かれていることです。
・第5位 ブラジル 生産量1億トン以上。寒波などの異常気象でダメージあり。
実はこの5か国だけで人類に必要な量以上を生産しているのです。 こうしてみると、米中貿易摩擦は人類の穀物生産1/3以上を担う大国同士の争いであることを再認識できますね。
一方その頃欧州では、地獄の熱波の影響により河川の水が不足し始めている。農業用水、家畜用の飲料水が不足して、物流にも支障が出ています。
世界的に異常気象に苦しめられている現状ですが、更に戦争の影響により肥料価格が高騰。世界中で食糧生産量が減少しつつあります。 もしこのまま食料危機が起こるとすれば、しばらくはサプライチェーンの維持は可能ですが、しだいにインフレが加速して食料を買えなくなる人が増えてゆき、社会的混乱へ。
既にこの渦中にあるアメリカはもう手遅れかもしれません。 この危機を乗り越えるためにはまず資源について詳しく知っていく必要があります。
水利権
皆さんは資源、と聞けば何を想像しますか。石油などがまず始めに連想されるでしょう。しかし、石油と同じぐらい、水も重要な資源なのです。
水は資源
より実感を持ってもらうために、地球上に存在する水の内訳を見てみましょう。
水の全総量は13億8600万km3(琵琶湖5040万杯)、内訳は海水が97.47%、淡水が2.53%です。
淡水のうち氷雪が1.73%、利用可能な地下水はたったの0.76%しかない。こうしてみると水は貴重であることがわかります。
この、たった1%にも満たない水が雲を生み、雨や雪となり、湖や河川を形成して大地を削っているのもまた、神秘的だと思いませんか。
サウジアラビアの生存戦略
では、水が資源であることをよりリアルに感じてもらうために、サウジアラビアの生存戦略について解説していきましょう。
ご存知の通り、世界1位の産油国だが、どのぐらいの輸出量なのかを具体的にイメージしてもらうために参考画像を用意しました。
日本では年間4.5億トンを中東からタンカーで輸入しており、このように、線が明確に引けるほどタンカーが行列を成しているということがわかります。
サウジアラビアは大量に石油を掘削し、日本だけでなく、世界へ大量に輸出しています。
しかし、地下水は掘削せずに保全していることが分かっています。
ここでサウジアラビアの小麦生産量の推移を見ていきましょう。
当初は経済的観点から小麦を生産していましたが、2008年以降は小麦生産量が減少。
代わりに輸入が著しく増加しています。
ではなぜ地下水を保全するか?サウジアラビアの地下水は1万年以上前に、帯水層に蓄えられた水であり、砂漠地帯ゆえに一度吸い上げてしまうと、いつ戻るかわからない有限な資源だから。
現在サウジアラビアでは、石油で得た利益を海水淡水化技術に投資し、生活用水を賄っています。
しかしこれだけでは足りない、が、彼らは決して地下水には着手しない。これはなぜでしょう?
もし戦争などの理由により、食料の輸入経路が断たれ、自国領で灌漑農業をする必要になった、万が一の場合に備えているからです。
よって、水は王国存亡の最後の砦と言えます。
一方トルコでは、エルドアン大統領が「20世紀は石油を争う時代だったが、21世紀は水を争う時代だ」と発言しています。
これは中東地域での本格的な水争いが始まった証拠と言えるでしょう。 手始めに、トルコは熱波などの異常気象に対抗するため、イラク・シリア上流にダムを建設。
当然ダムを建設するということは水量の調節も行うということ。
中東全域が干上がってしまう日は近いのかもしれません…。
水の管理は戦争の火種となった
河川の上流を確保することで、様々なメリットが得られます。 例えば水力発電や洪水の対処、そして水の供給を減らすことで農作物や飲料水に影響を与えたり、汚物を川へ投棄することで下流域に疫病を蔓延させたりなど。
実際に歴史上でも春秋戦国時代に、塩の生産や軍馬を抜きにしても、上流を握った秦が最初に中国を統一できたのです。
では、問題です。世界一の水利権を持つ国はどこでしょう?
チベットは世界の給水塔と呼ばれ、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、中国を支えており、およそ30億人がその水源に頼っています。
そしてこのチベットを統治している国は中華人民共和国。現在、ダム発電のみで16万mwを生産目標としている。
下流国の中でも、中国から電力を買っている国は反論できず、下流国間でも優遇差があるので一枚岩になれない。
タイやベトナムなど、著しい経済発展が見込まれる国の水源を、中国が握っているのです。
もし仮に下流域の国が中国と戦争になったとしても、前述の通り中国は下流域の国々の生命線を握っているので水をせき止めれば終戦となる。
中華人民共和国立ち上げの際、なぜチベットを弾圧したか。その答えが見えてきませんか?
そういえば、ひとつ。怖い話がありまして。 実は最近、とある国が日本の領土を買い漁っているそうですよ。一体、なぜでしょうね?
日本も実は水不足?
水が資源であることを決定付ける資料があります。
安全な水がない国は経済の発展が難しい傾向にあります。
この図では「1㎞圏内に飲み水となる水源がない」ことを「安全な水へのアクセスがない」と定義しており、先進国と途上国がきれいに分かれていることが見えます。
先進国と言えど、実は日本も水資源が豊富にあるわけではありません。
確かに蛇口をひねれば飲める水が出てくるのですが、それは浄水技術と水道インフラ設備が充実しているからです。
実際に、水資源が豊富ではない日本は、間接的に水を輸入しています。 日本は一部の食品を他国に依存しています。
この図はある品目を1㎏生産するのに必要な水の量です。 たとえば牛一頭を出荷するまでに必要な水の量は約12000トン。
これは牛の飼料となるトウモロコシ1㎏の生産に1900ℓの水が必要で、牛はこれを大量に消費しているため、大きな数字になります。
他国の水資源を利用して生産されたものを輸入することは、事実上「水」を輸入していることになります。
これをバーチャルウォータートレード(仮想水貿易)と呼びます。
では日本がどれだけ水を輸入してるのかと言うと...
毎年640億m3。とはいえ日本は水不足に陥っているわけではなく、平地が少なく農業や畜産を営む十分な場所が確保できないという理由が大きいでしょう。
さて、この図を見ていて、何かに重要な点に気付きませんか? 日本の輸入総額のうち、ほとんどがアメリカに頼り切っているのです。
内訳で言うと豚肉28%、牛肉43%、小麦48%、大豆69%、トウモロコシ92%となり、アメリカに胃袋を握られていると言えます。
日本料理の決め手は醤油と言いますが、日本の料理の決め手はアメリカでしょう。 しかし、アメリカが転ぶとなれば、そこに依存している日本も他人事ではなくなるのではないでしょうか...。
農業は国の主従関係を決めると言えます。胃袋を掴まれている国には、逆らえない。
これは歴史的にも前例があるのです。
EUは覇権国家をアメリカから取り戻すと言うテーマがあります。
これの達成の為に、EUは農業に投資し続けました。 それまではほとんどをアメリカの輸入小麦に依存していましたが、EU設立以降、毎年必ず年間予算額の40%以上を農業補助を行う共通農業政策(CAP)に費やしています。
お次は、農業にとって欠かせない大事な要素の一つである、土について見て行きましょう。
土壌
さて、いよいよこの講義の本題が見えてきました。
農業には水だけでなく、土や肥料といったカギも重要となってきます。 今日では当たり前に存在する土ですが、地球規模で見ると最近の出来事です。
実は5億年前に誕生しました。
土が出来るまで
土の生成過程は様々ですが、一般的には「岩が風化して出来るのが砂と粘土」で
「動植物が死んで出来上がるのが腐葉土、形がなくなっていくと腐植となり」これらの混合物が土です。
大体10㎝の岩から30㎝程度の土が出来あがります。これを計算式で表すと、土=砂+粘土+腐葉土(+空気+水)となります。
腐植は植物や微生物の働きなど、大変複雑な要素が絡み合って出来ており、現在もまだはっきりと解明されていません。
なので人間が土を作れるようになるのは、まだまだ先の時代になるかもしれません。
土にも種類があって、図のように世界の土の分布は不均一であり、土によって文化の形成も異なりました。 ブラジルとアフリカの赤い土、これはウェゲナーが大陸が繋がっていたことを証明しています。
オキシソルはあまり肥沃な土ではなく、なぜかというと地質的にとても古く、火山などもないため土が新しくならないので栄養分が少ない。
東南アジアは黄色い土、寒いところだと泥炭やポドゾルがあり、日本とニュージーランドの国土に多く見られる黒ぼく土と呼ばれる火山灰土壌は、世界的に見るととても珍しい。 火山活動によって生まれた灰が風化して粘土となり、腐植がくっついて出来上がった黒い土が黒ぼく土と呼ばれています。
良い土の条件は、大きく分けて4つ。通気性と排水性が良さ。これは小さな粒々の集まり、団粒構造があり、腐植によってふかふかしていることです。 次に保水性、肥料の保ちが良い。栄養分は粘土や腐植に引っ付きやすい。
3つ目が中性に保たれていること。乾燥地や水田は雨の影響を受けにくい。
最後は病気にかかりにくいこと。一つの微生物が増えすぎないような、ミミズなどの生物の多様性が高い方が良い。 肥沃な土はチェルノーゼム。逆に砂場のような土はほとんど栄養が吸収されず、肥料効率がかなり悪いです。
こちらは小麦を生産するにあたって、世界の肥沃度を表したマップです。 良い条件を満たす土は世界のどこにあるかと言うと、ウクライナ、北米プレーリー、南米パンパなど、世界の穀倉地帯と呼ばれている部分には肥沃な土チェルノーゼムが分布しています。
人口の多いインドと中国にも、その人口を賄えるほどの肥沃な土があります。 日本は多雨の影響もあり、酸性土壌であるため、肥沃度が低いとされています。
例えばトウモロコシのような乾燥地を原産とする作物は、日本ではカルシウムを追肥しなければ育ちにくい。
そして、かつて肥沃な三日月地帯があった場所は何千年という農業の営みにより、土地が痩せてしまったため、今は不毛な土地になってしまっています。 これがメソポタミア文明の崩壊へと繋がりました。
避けられない土壌劣化
とはいえ農業を行うと、土壌の劣化は避けられません。少しでも土壌の栄養分の流出を防ぐために、先人たちは次のような取り組みをしてきました。
東南アジアでは焼畑、日本では里山。山から資源を持ってきて燃やし、その灰を肥料とする。
江戸時代では糞尿をもらってきて肥料にする。下肥問屋と呼ばれていました。
しかし人口の増加に伴い、自然資源が足りなくなってくると1900年初頭にハーバーボッシュ法によって窒素固定に成功。窒素肥料を生成できるようになりました。
これによって世界人口が約5倍へと膨らみました。これについては肥料について解説する際に深堀していきます。
しかし、土を使い続けると栄養素が足りなくなってくるのでその都度、リンやカリウムなどを補給してきました。以前はペルーのグアノの枯渇が騒がれていましたね。 土壌劣化を防ぐ取り組みは、いずれにせよ昔の時代の資源を使用しています。
こうして人類は土壌劣化に立ち向かってきましたが、やはり元々の土が肥沃である方が望ましいのは当然です。 肥沃なインドはかつてイギリスの植民地であったし、ウクライナの肥沃な土をロシアが手放したくないのもわかる。 黒ぼく土を攻略できなかったかつての日本も満州のチェルノーゼムを求めた。黒ぼく土を開墾できるようになったのは戦後のことです。ではどのように黒ぼく土を攻略したのでしょうか?
黒ぼく土は酸性土壌のため、石灰を与えて中和、あるいはしっかりと堆肥を与えてあげなくてはいけません。 また、火山灰粘土は吸着力が強すぎるため、土が植物の栄養(リン)を独り占めしてしまい、微生物が分解できなかった。現在は十分な肥料を与え土壌を中和させることで吸着力を弱めることができ、農地利用が出来るようになりました。
開墾できた黒ぼく土は腐植をたくさん含むため、肥沃な土とされています。黒ぼく土が分布される代表的な農地と言えば、鹿児島近辺、北関東、東北、北海道の南側など。
このように、日本は黒ぼく土を克服し、農業に適した地となりました。
一方、チェルノーゼムの扱いに失敗した北米プレーリーの土壌劣化の実例を見て行きましょう。
耕しすぎると風が来たら砂嵐になってしまったり、ここ100年ぐらいで、肥沃なチェルノーゼムが半分ほどになってしまっています。その土のほとんどは分解され、二酸化炭素となり大気にも様々な悪影響を及ぼしています。
土の消耗スピードが早い場合は10年で1cm、自然生成される土は100~1000年で1㎝。そして人間は土を作れないという現実がのしかかってきています。
また、土壌劣化に伴ってフザリウムなどの病害も増えていきます。 陸地面積11%で世界人口80億人分の食料を生産している現状、土壌劣化は避けられないのです。
土は人の手で少しずつ変えられる
これに対して、ドイツは「もしも工場で発生している二酸化炭素を地中に閉じ込めることが出来たなら、毎年0.4%土を黒くすることが出来る」という炭素貯留について研究しています。
これが実現できれば二酸化炭素排出も軽減され、土壌劣化も防止できるので各課題の解決に繋がる気がします。出来るかどうかはまだ研究段階ですが。
[図15]一番注目されているのは不耕起栽培で、北米プレーリーの失敗を参考に、慣行農法(よく耕す)ではなく、最少耕起栽培(耕す頻度を減らす)で土の消耗を抑えられるのです。
人の手によって土が変えられる例の一つとして、アマゾン流域に広がるオキシソル土壌が、黒い土になっていることが判明しました。これをテラプレタと呼びます。テラプレタには生ごみや糞尿などが堆積し、栄養が詰まっています。 実は日本でも縄文人がテラプレタを作っていたことがわかっており、少しずつでも行動すれば環境は変化させられるということの証左です。
肥料
有機肥料
有機肥料の原料は、植物性または動物性の有機物であり、肥料の種類によって違いがあるが、全体的に即効性は低く持続性が高い。メリットとしては銅・亜鉛など、植物の微量必須要素の給源としての効果も期待できます。
利用することで土壌が改良されるメリットがあるが、その反面、微生物の働きによって分解状況が変わるので、量の調整が難しい。
デメリットとしては、過程でガスが発生したり、においが強かったりする物もあり、自然の素材を発酵・熟成させて作るので、肥料ができるまでに時間がかかってしまう。
原材料に限りがあるために大量生産は難しく、その分価格は高めです。 家庭菜園程度であれば、ヨモギ(リン多)・チガヤ(カリウム多)・クローバー(窒素多)の利用が望ましいでしょう。
欧州の有機農家は18%なのに対し、日本は農業利用において国からの助成金制度がないため、0.5%程度となっています。
化学肥料
化学肥料の原料は空気中の窒素や鉱物などの無機物で、全体的に即効性が高く、持続性は低い。
メリットとしては、微生物の影響を受けず、植物に吸収されやすい特徴を持つが、有機肥料のような土壌改良効果はない。
臭いやガスが発生しない。工場で大量生産が可能なため、安定した品質のものが安価に手に入る。 デメリットとしては、過剰使用すると「肥料やけ」(根が障害を受け、しおれたり枯れたりすること)が起こりやすい。
植物は窒素を吸収し、たんぱく質を合成する。空気中の窒素はN2の形で存在するが、この形の窒素分子は原子同士の結びつきが強すぎるので空気中の窒素を取り込んでも生物はそれを利用することは出来ない。
植物へ利用するためにはこの原子の結びつきを剥がして他の化合物にくっつける必要がある(窒素固定)。
この化合物がアンモニア(NH3)硝酸(HNO3)です。
これをハーバーボッシュ法(空気からパンを作る魔法)と呼び、1900年代初頭から世界人口が爆発的に増加しました。
しかし、これには大量の燃料が必要となる。
現に窒素肥料の生成には全世界のエネルギーの1%以上を消費しています。
下水肥料
昨今の肥料不足に伴って、汚泥の堆肥化が注目されています。
肥料の原料(尿素・リン酸アンモニウム・塩化カリウム)はほぼ全量中国やロシアから輸入しています(2022年農林水産省 肥料をめぐる情勢より) 肥料高騰対策として注目されている下水肥料ですが、その一例として神戸市東灘区では、消化タンクから来た汚泥(下水)に水酸化マグネシウムを加え、洗浄、乾燥の工程を経て、結晶化したリンを取り出して肥料にしています。
将来的には下水道を利用したリサイクル型の環境都市へ変貌する日も近いのではないでしょうか。
未来予測
農業が国の主従関係を決める。
土と水
チェルノーゼムは栄養が豊富だがその反面、水分がなければすぐに乾燥してしまう(灌漑が必須)。
黒ぼく土は農地開拓のためにコストはかかるが、水分が多く含まれている分、デカン高原(インド)のひび割れ粘土層よりも生産量は高い。
水利権争いによって穀倉地帯が乾燥してしまえば、食糧生産に適した土地が更に減少してしまう。 プレーリーはアメリカ全土が乾燥していく傾向にあるので、食糧生産に限界が来るかもしれない。
食料危機について
日本は水にも土にも肥料にも恵まれているが、仮想水・仮想土への依存度が高い。かつてEUが農業に投資したように、日本も農業に対して投資をしていかなければ、依存したままアメリカと共に沈んでしまう。
食料自給率の向上が急務(現状20%)。資源で言えば日本と大差ないニュージーランドでは2021年時点で食料自給率が400%である。
土は耕しすぎることで風に舞い、異例の速度で消費されてしまうことがわかっています。従って耕起を減らす"最少耕起"を採用することがベストであると考えられる。
また、消費される土を人間の手で作ることによって土壌劣化に対策していく必要があります。テラプレタのように、土に堆肥を入れることで赤土が黒土へと変貌することがわかりました。
肥料価格高騰としては、肥料の利用効率の改善、下水肥料の活用、地域資源(飼料・堆肥)の活用、土壌養分の循環促進などが考えられている。
また、黒ぼく土には土壌内にたくさんのリンを保有していることがわかっているので、生産する植物の組み合わせによって上手く吸い上げていきたい(要研究)。
個人的に一番深刻に感じているのは、フードロス問題です。
世界で生産している食料の約半分が廃棄されているのが現状です。
もしこの廃棄食料を分け合えることが出来れば、世界中から飢餓はなくなるでしょう。
21世紀は食料を大量に作っては大量に捨てる、狂気の時代に見えて仕方ありません。
一方アメリカでは
日本はアメリカの庇護下にあるので、アメリカの動向もおさらいしておきましょう。
国土の乾燥だけでなく情勢も揺れつつあり、諸問題を抱えています。
医学をかじっている私は、オピオイドによる薬物汚染が気になります。オピオイドとはケシの成分を含んだ鎮痛剤です。年間死亡者は6万人とのデータもあり、ゾンビのような中毒者が町中にも現れています。
政治性、貧富の差、退役軍人の年金問題など。共和制ローマとの類似点が多い。今までは暴動で済んでいたが、今回の世界的な悪性インフレがどこまで影響を及ぼすのかは計り知れないのです。
私たちにできること
これまで世界や資源という壮大なテーマでお話ししましたが、ここからは個人単位のミクロな目線で話していきます。
食料危機に対する備えとして、まずは食糧を備蓄することが肝要です。最近は美味しい保存食もたくさん増えてきています。
賞味期限が近付いた保存食は食べて、また買いなおすというルーティンをやるだけでも、有事の際への安心感は段違いですよ。
次に、手軽に農業をやってみませんか?私も家庭菜園をしています。
とはいえマンションのベランダで出来ることは限られているので小さなプランターでトマトやレモンやハーブ類を育てています。
家庭菜園をやるメリットは、例えば嫌いなお野菜であっても、せっかく自分の手で作ったものなのだから、と。工夫して食べようと考えますよね。
甘い考えですが、こうした気付きを得て食品ロスの防止や、はたまた農業の楽しさに目覚めて農家になる人が現れるかもしれません。
家庭菜園、楽しいですよ。ぜひ一緒にやりましょう。
当記事は優秀な方々の文献を読み漁った、ただの凡人が自分なりにまとめたものです。
noteは知識のアウトプットの場所と考えており、自分の解釈が必ずしも正しいものであるとは考えておりません。
従って、誤りや怪しい解釈もあるかもしれませんが、専門家の方々には何卒お許しいただければと存じます。
また、一部は拝借した画像で図示しております。重ねてお許しくださいませ。
参考資料
『水がなくなる日』橋本 淳司
『日本人が知るべき東アジアの地政学』茂木誠
『ビジネス教養 地政学』奥山 真司
『大気を変える錬金術』トーマス・ヘイガー
「ハーバー=ボッシュ法の成立」『比較社会史の諸問題』加来祥男
『人類とイノベーション』マッド・リドレー
『大地の五億年』藤井一至