ポスティングとはかくあるべき

【はじめに】

 昨今、NPBではポスティングルールの問題が様々議論されている。本noteでは、それらの問題を見つめることで、どのようなポスティング制度が理想なのか、ということについて私なりの解釈を提供することを目的とする。
 また、以前書いたnoteも、一部本noteに関係する部分があるため、読んでいただけると幸いである。


【現状のポスティング制度と問題確認】

  本論に入る前に、まずは現状のポスティング制度についての整理を行おう。現状のポスティング制度の大まかな流れは以下だ。

①選手が所属NPB球団にポスティングの申請を求める
②所属NPB球団が①を認め、MLBへと申請を出す(この時点で、当該選手の保有権を、当該球団が事実上手放す)
③各MLB球団と当該選手が話し合いを開始する
④交渉に勝ったMLB球団が当該選手と契約を結ぶ
⑤当該MLB球団が、当該NPB球団に譲渡金を払う

 そして、現在問題とされている事案が以下の2つだ。

①ポスティング制度によって移籍した選手の保有権を元所属NPB球団が完全に失ってしまうこと。(いわゆる「上沢・有原式FA」)
②25歳未満の選手をポスティングによって手放した場合、25歳ルールの関係で25歳以上でそうした時と比べ明らかに低価格で契約されてしまうこと。(いわゆる「佐々木朗希問題」(あまりこの言葉遣いをする例は見ないが便宜上こう表記する))

 この2つの問題は、やや性質が異なる。というのも、①についてはルール上の問題と球団の姿勢によるもののミックスであるのに対し、②については完全に球団の姿勢によるものだからだ。本noteではここが肝要であるので、どういうことか詳しく説明する。

【ルール上の問題か?球団の姿勢の問題か?】

 表題に掲げた「かくあるべき」というのはつまり、「ルールをどのように改正すべきか?」ということである。であるから、"ルール上は問題ないが、運用する側によって誰かが不利益を被ったケースの場合、それはその判断を下した者の問題"というのが本note及び筆者のスタンスである。
 その観点で行けば、②の「佐々木朗希問題」に関しては(少なくともNPBで変えられるルールのみで考えるのであれば)完全に球団の姿勢による問題と言えるだろう。つまり、25歳ルールが存在しているにも関わらず、認めた球団が悪い(悪いという表現はやや厳しいが、不利益を被ってもその判断を下した球団(今回であればロッテ)に責任があるということ)ということだ。なお、25歳ルールの是非についてはまた別の複雑な問題であるので、ここでは省略する。
 では、①の「上沢・有原式FA」についてはどうだろう。ここには、制度上の問題と球団の姿勢問題の2つが絡み合っているように思う。つまり

A ポスティング制度を活用して移籍を認めた選手に対しては、その過程で保有権を失うため、いかなるケースであっても元所属球団側が交渉の場において(ルール上では)有利になることがないという制度上の問題
B そもそも大きな契約の期待できない選手に対してポスティングを認める事がいかがなものなのか?という球団の姿勢問題

 この2つの問題を考えるにあたって、現行のポスティング制度で忘れてはならない建付けがある。それは、「保有権は譲渡金とトレードオフ」という点だ。
 ポスティング制度の過程で保有権を手放すのは、元所属球団においてただただ不利益を被るというわけではなく、その代わりにその契約総額に応じた譲渡金が入ってくることがルールの建付けとなっている。だからこそ交渉の場において有利になることが認められていなくても、そもそも譲渡金を得た時点で保有権を手放したことに対する一種の補填は受け取っているのだ。ここまで来れば、なんとなく筆者の主張したい事というのも見えてきたのではないだろうか。

【ポスティングとはかくあるべき】

【筆者の主張】

 ようやく筆者の主張へと移る。前章の最後で示したように、NPB球団には、保有権を失うことの補填として譲渡金が渡される仕組みとなっている。であるならば、

「球団が譲渡金を設定できない設計になっているのは不自然ではないか?」

というのが筆者の主張である。幾ら入るか不明な譲渡金を盾に保有権の喪失を認めさせる、というのは制度としてなかなか乱暴なように思う。実務上の話をするのであれば、ある程度の契約総額というのは吉田正尚のケース以外は予測できるだろうし、その観点があるからこそ「球団の姿勢問題」との「絡み合い」だと筆者も表現している訳ではあるが、しかし制度として見たときには歪と表現して差し支えないだろう。
 特に上沢投手のケースでは、上沢投手及び代理人が、メジャー契約を蹴ってマイナー契約を選んだという。上沢本人はともかく代理人はどういうつもりだったんだ。譲渡金を盾に保有権を手放すのであれば、

・譲渡金の下限を球団側が設定できるようにする
・契約総額を見てNPB球団側がポスティングの差し戻しを出来るようにする
・どのMLB球団と契約するかはNPB球団が選択できるようにする

 
 この3つのいずれかであるのが制度としては自然と言えるのではないか?これが筆者の主張である。

【過去のポスティング制度】

 先述の、譲渡金をNPB球団側が設定できるようにする、というルールは、実は過去のポスティング制度のものである。正確には、上限20Mドルまでで設定できる、というルールが2014年から2017年まで適用されていたのだ。当時はMLB有利のルールだ、というふうな批判も多く見られたように思うが、筆者としてはNPB球団側の視点に立ったとしても、このルールを復活させるのが落とし所としては割と丸いような気もしている。
 というのも、2018年以降のポスティング制度で譲渡金が20MMを超えたケースというのは山本投手(譲渡金約50Mドル)のみで、次点として吉田選手の約15Mドル、鈴木選手の約14Mドルといった形で、山本投手のケースでは半額以下になるものの、逆に言えばそれほどの大物でなければ20Mドルを超える事がないのだ。加えて、先述の主張の通り、譲渡金を球団側が設定できないのは制度として歪であるという考えがあるのと、佐々木投手のケースに関しても、この設計であれば少なくとも20Mドルをロッテは得られたはずだ。(事実大谷選手は20Mドルの譲渡金を日ハムに残している)
 これはMLB機構との話し合いも必要になるという前提でのルール変更ではあるものの、過去運用されていたルールということもあって、個人的にはこのルールに戻すのが一番現実的なように思う。(上限だけ30Mドルに引き上げるなどは必要かも)
 また、NPBではないが、KBOにおいては球団による差し戻しも可能であった。いずれにしても、「保有権を失う」というデメリットの対価としての現行の譲渡金の制度は何度かの変遷を経て徐々にNPB球団にとって不利になっていっているように思う。

【有利になったのは誰か?】

 NPB球団にとって不利になった、と記したものの、ではMLB球団にとって有利になったのか?というとそうでもないのでは?とも考えている。適正になった、とは捉えることが出来るかもしれないが、例えば件の山本投手のケースだと、2017年までのルールであれば20Mドルで済んでいるし、佐々木投手が25歳になってからポスティングされた世界線があればこれもまた20Mドルではきかなかっただろう。
 では筆者が思う有利になった者とは、「ポスティング制度で移籍する選手」である。過去のポスティング制度では2014年から2017年までのものに触れたが、その以前のルールではMLB球団が譲渡金オークションを開催し、最も高額だった球団がその選手との交渉権を得る、といったもので、つまり選手には球団を選ぶ権利がなかった、ということになる。2014年から2017年までのルールにしても、制度上は「興味がある球団はあったものの、球団の設定した譲渡金が高すぎたために撤退され、結果MLB移籍が叶わなかった」というケースも考えられる。現行のルールでは、(譲渡金という一種の枷はあるものの)事実上海外FAとなり、選手が自由に契約先を選べるようになっているのだから、選手目線で言えば、過去のルールの良いトコ取りと表現して間違いないのではないか、と思う。少なくとも改定前2つのルールのいずれかであれば、有原投手のケースはともかく、上沢投手のケース(ショボショボの譲渡金で金銭的に低い提示の球団を選ぶ)は発生しなかったことは、ここまで読んでくださった皆様ならお分かりになるだろう。

【まとめ・最後に】

 まず、ここまでで3400字程度読んでくださりありがとうございます。まとめとして、現行のポスティングルールというのは、何度かの改正を経た結果、(そのルールの交渉には直接は関係していなかったであろう)ポスティング制度を利用する選手が最も得をする、というルールになってしまっている、という事がお分かりになったかと思います。私自身の結論・主張としては、先述のように「球団側が何かしらの形で譲渡金に関与できるようにすべき」というものです。
 改めまして、ここまで読んでくださりありがとうございます。感想や意見など、本noteのコメント欄、あるいは私のX(あいうえおおかみ@kyoda555)までお送りいただけるととても嬉しいです!

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