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📖 忘れられた家

~誰も住んでいないはずの家で~

「この家、さ……誰が住んでるの?」

そう言われた時、俺は言葉に詰まった。
俺が住んでいるのは、ごく普通のアパート。いや、普通だったはずだ。
でも最近、何かがおかしい。

夜になると、廊下の奥の部屋から 足音が聞こえる。
パタン……パタン……
玄関の前を誰かが行ったり来たりしているような音。

でも、その部屋には 誰も住んでいないはず だった。
俺はこのアパートに引っ越してきたばかりだが、契約の時、管理人からこう言われていた。

「その部屋は空室ですからね。間違えてノックしないように。」


不安が募ったのは昨日の夜だ。

シャワーを浴びていると、スマホに 通知音が鳴った。
「こんな時間に誰だよ……」と、風呂を出て確認した俺は凍りついた。

『Bluetooth接続:不明なデバイス』

俺は、何もBluetooth機器を持っていない。
慌ててシャワールームの扉を開けた。
すると、スマホの画面に奇妙な表示があった。

『接続先:301号室』

301号室……?
このアパートにそんな部屋番号は存在しない。
俺の部屋は 302号室 で、向かいは 303号室。
301号室なんて……この建物には存在しないはずだった。


俺は恐る恐る、スマホを手に廊下へ出た。
足元には薄暗い照明が揺れている。

……301号室なんて、あるはずがない。
そう思いながらも、スマホのBluetooth設定を開いた。

すると、そこには奇妙なメッセージが表示されていた。

『301号室の住人が、あなたのデバイスに接続しました』

心臓がバクバクと鳴る。
そんな部屋はない。
俺は恐る恐る 部屋のドアを開けた。

静寂が広がる廊下。
でも、その時だった。

向かいの壁に「301」のプレートが、突然浮かび上がった。
そして、そのドアノブが……ゆっくりと、勝手に回り始めたのだ。


俺は背筋が凍りつき、ドアを閉めようとした。
でも、何かが俺の部屋の扉を内側から押さえている。
出られない。

次の瞬間、俺のスマホが ブルっと震えた。

新着メッセージが届いていた。
差出人の名前を見て、俺は息が詰まった。

『301号室』

震える手でメッセージを開いた。
そこには、たった一言だけ書かれていた。

「やっと気づいてくれたね」


翌朝。

俺は、ふらふらになりながらアパートの管理人を訪ねた。
「301号室って、一体なんなんですか……!」

すると、管理人はきょとんとした顔をしてこう言った。

……301号室? このアパートは302号室からしかありませんよ?

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