てんかけ エルのお話
※ネタバレ有 です。
てんかけプレイ中の私の考え、エリザ(私)の考え、エリザ(私)たちが導き出したエンディングの世界線、てんかけのキャラシ、てんかけリプレイ動画、などをじっくり味わったらこうなりました。
エルやべぇやつやん、と思ってエルほっぽってヘイグ守るルートにシフトしたのに、最終的にエンディングでエルと結婚して幸せに過ごしてしまったので、私のエルの解釈ととエリザの気持ちと私のエンディングでのエリザに幸せになって欲しい気持ちとを消化させた結果です。
私の中のエルのお話ですのであなたのエルとは違うかもしれませんが、それを踏まえて読んでいただけたら幸いです。
僕は生まれた時から人の心が手に取るように分かった。
人の心の声が聞こえるとかそういう霊能力的な話ではない。単に生まれた時から観察力が人より優れていたのだと思う。
周りにいる大人のして欲しい事、言って欲しい事、欲しているものが、その人の顔、仕草、声から分かってしまうのだ。
だから僕は分かってしまった、僕の馬鹿な母親が、僕に、自分と一緒に死んで欲しいと考えていることを。
父親は浮気性な男だったが、母親はそんな父親を愛していた。同時に、母親は、父親が最後には自分しか愛する人はいないことに気づき、家族3人で幸せに暮らせると信じていた。
そしてそれが実現しないことに気づいた時、僕の母親は自分の理想の“家族”の形を留めるために無理心中を謀った。
このヨルの国では1日に2回カネが鳴る。
太陽が出る時、そして太陽が隠れる時。
何故ならヨルの国の人々は皆、太陽の光を浴びると灰になって死んでしまうからだ。
母親は父親を気絶させ、そして僕に、家族3人でずっと一緒にいよう。と泣きながら言った。僕の髪を撫でる母親を憐れに思った僕は、母親の欲しがっていた言葉を紡いだ。
「大丈夫だよ母さん、僕達ずっと一緒だから」
やがて太陽は昇り、両親は灰になったが、何故か僕だけは灰にならなかった。灰になっていく両親を見て、死がなんと呆気ないものなのかを知った。
両親が死んでしまい、親戚もいなかった僕は孤児院に入れられた。周りの子も親のいない子らばかりだった。
中には親に捨てられ、愚かにも自分を捨てた親が迎えに来ると信じている者もいた。そんな未来など存在しないのに。それでも僕はいつだって優しく、その子の欲しい言葉をくれてやった。
僕は昔から聡い子だったので、周りの無知で可哀想な子たちになんだって教えてあげた。
僕より長く生きていながら僕よりも愚かな可哀想な大人達にも、欲しい言葉をあげたし、知りたい事を教えてやった。
時には盲目の男の子に生きていく術を教えたりもした。施設の人間はみんな優しい僕のことを尊敬し、いつも僕に答えを問うた。
誰もが僕の言葉には耳を傾けたし、やがて僕の言葉はなんだって“真実”になった。
10歳の頃、教会で検査が行われた。
僕は自分が天使なのではないかと思っていた。僕は他の人たちとは違う。
太陽の光を浴びても灰にならず、そして太陽の昇る時間が“分かる”からだ。
僕は昔から太陽が出る前、カネの音が鳴る直前に胸のあたりが熱くなるのだ。そして、もうすぐ太陽が顔を出す、そう直感する。
だから僕は自分が天使だろうと薄々感じていた。そしてやはり僕は天使として選ばれた。
そして天使の部屋に住まい始めると、不思議な夢をよく見るようになった。
2人の天使が微笑み合い、太陽の下で手を取り合い楽しそうに暮らす夢だ。ちょうど、壁にかけられた絵のような。僕はこれは天からの思し召しだと思った。
絵の裏には文字が書いてあった。
どうやらここではない国では太陽が長く顔を出し、太陽の下で暮らしている人々がいるらしい。
もしかして、僕はそこでこの絵のように、もう1人の天使と一緒に幸せな日々を送ることが出来るのではないだろうか。
それは、憐れな僕の初めての願いだった。
そして、僕が大司教になれば、もう1人の天使を見つけることが出来るのではないかと考えた。
天使になってからは、大司教から様々な話を聞いた。僕は直ぐにそれが嘘だと分かった。
僕は大司教の欲しい言葉を並べ、誘導し、あらゆる情報を集め、天使の真実を知った。トケイに捧げられるのではなく、ただ大司教たちの寿命を長引かせるための存在だと。しかし僕はこの馬鹿げた決まりとは別に、天使は本当に存在するのではないかと思った。
死ぬことなどどうでもよかったが、この愚かな男のために死ぬのだと思うと癪に触ったし、そんな下らないことのために死んでたまるものかとも思った。僕は、もう1人の天使と一緒に太陽の下で暮らすのだから。
その頃には大司教は既に僕の思い通りになっていて、逃げ出すことは容易い事だった。僕の吹き込んだ通りに、大司教は僕を後継者にすべく動き始めた。
ある日、大司教からこの国のお姫様がこのトケイ塔に来るのだと聞いた。
お姫様は僕と同じように両親を無くし、憐れにもあと1年も生きられないらしい。大司教はそのお姫様の心臓を僕の心臓の代わりにする事を考えているようだった。
可哀想なお姫様。僕の身代わりになって死ぬのだ。何も知らずに。僕が心臓を食べてあげよう。そして一緒に太陽の下へ連れて行ってあげよう。
僕はお姫様が来る日を楽しみに待ちわびた。
そしてお姫様がやって来る日、珍しく部屋の壁の近くにトケイ技師の女の気配を感じた。
前から知ってはいたが、会ったことも話したことも無い。彼女が西側に来るのは初めてのことだ。
前からずっと可哀想だと思っていた、真実も知らず手のひらで転がされるだけの彼女を。
自分の弟がとっくの昔に無意味に、無惨に、生きたまま心臓を取り出され、食われ、死んだことなど露知らず、自身も意味もなく時計塔に囚われ、犠牲になった弟の仇である大司教の元で、愛弟子と共に馬鹿みたいに時計を整備し続ける哀れな女…
僕ははたと思いついた。
今ならば彼女を、“真実をもって救ってやれる”と。
自然と口角が上がる。僕はなんて優しいんだろう。
僕は部屋にいながら音の反響、振動で廊下の様子が分かる。今は女一人。扉越しでも声が届くことは知っている。
「こんばんは、トケイ技師のお姉さん」
トケイ技師の女はピクリと動きを止めた。どんな表情をしているのかまでは分からないが、想像するだけでわくわくした。
そしてキョロキョロと辺りを見回しているらしい。
「まだ弟がここにいると思ってるの?」
憐れな。会ったことはないが、大司教の話を聞くと、弟もまた憐れな人間だったようだ。
大司教を信じ、姉の為になるならと死んでいったらしい。
可哀想なお姉さんには僕が真実を教えてあげよう。なんといったって今日は僕が大司教になるための大切な日だから。優しい僕からのプレゼントだよ。
どう受けとってくれるだろうか、考えただけで笑みが止まらない。
可哀想なお姉さんは真実を聞くと廊下を走って行ってしまった。残念だ。もっとこの場で泣き叫んでくれても良かったのに。
しばらくすると部屋に訪問者が現れた。
僕の身代わりになる可哀想なお姫様は、僕に会いたがっていると聞いた。聞き覚えのない足音だ、音からして女の子であることが分かる。恐らくお姫様だろう。
扉がギィと開くと、案の定お姫様が現れた。しかし僕は衝撃を受けた。
この子は天使だ。直感でそう思った。
この子が夢の中の、そしてこの絵の中のあの子なのだ。
「こんにちは、可愛いお姫様」
お姫様はエリザと名乗り、エリザと呼んで欲しいと話した。エリザは少し話しただけで、可哀想などではないことが分かった。
悲しみに呑まれず、強く生きるエリザを美しいとさえ思った。
そして話していくうちにこの子が天使であることを確信した。見つけた。この子だ。僕の待ちわびた天使。そうなると大司教に殺させる訳にもいかない。計画変更だ。
エリザはとても優しい子で、僕の事情を話せば直ぐにここから逃げようと言ってくれた。
しかし僕は知っている、どんな優しい人間も、最後には自分が一番可愛い事を。リスクを背負ってまで、他人を救うことなどしない事を。
しかし彼女は僕と同じ天使だ。他の人間とは違うかもしれない。僕の頭の中に夢の中の映像が流れる。人に期待するのは初めてかもしれない。
エリザは僕の欲しい言葉をくれた。それでも僕は信用しきれなかった。言葉ではなんとだって言える。
エリザが一緒に逃げようと言った時、胸のあたりが熱くなった。もうすぐ太陽が上るらしい。
ふとエリザを見ると、胸に手を当てていた。やっぱりエリザは天使なんだ。僕はそう確信した。
トケイ塔の外に出たところで、急にエリザが執事にお別れを言うと言い出した。
僕は止めたが、彼女は行ってしまった。戻ってくるのだろうか。僕には分からなかった。
待っている間、僕は急に孤児院にいた子供たちを思い出した。戻ってくることの無い親を待っている子供たちを。今なら理解出来る。戻ってくると思っているんじゃない、戻ってきて欲しいと願っているんだ。
長い時間が過ぎたが、僕は彼女を待った。
不思議と足が動かなかった。
彼女はもう来ない、やっぱり自分が可愛くなったのだと頭の中では理解しつつも、戻ってきて欲しいと願い留まってしまう。
そうしてどれくらいの時間が経っただろうか、タッタッと走る足音が聞こえ、遠くからランタンの光が揺れているのを見つけた。
エリザだ。エリザが本当に来てくれたんだ。
僕は胸がじんわりとあたたかくなるのを感じた。太陽が顔を出す時とは違った心地よいあたたかさだった。
エリザに手を差し伸べると、エリザが僕の手を取った。エリザの体温が僕に伝わると、僕の心の中の嫌な部分が全て消えていくような気がした。僕達は手を繋いで太陽の方へと歩いた。
エリザの声で目を覚ます。
今日もとても心地が良い。太陽の光がポカポカとあたたかい。
5人の子供たちはまだ眠たそうに欠伸や伸びをしている。とても愛しい。
「おはよう。今日も皆、元気で何よりだ」
おはよう、と返事をした子供たちは少しづつ目を覚ましたらしい。扉を開け、子供たちを先に太陽の下へ送り出す。
朝ごはんの卵をとってくるお仕事だ。
エリザも洗濯カゴを持って外に出てきた。重いから僕が持つといつも言っているのに。
僕はエリザからひょいと洗濯カゴを奪うと、洗濯物を広げた。
子供たちも卵をカゴに置き、それに倣う。
エリザは嬉しそうに笑いながら、一緒に洗濯物を干した。
幸せそうなエリザと子供たちを見て感じるこの感情は、エリザに出会わなければ知ることは無かっただろう。
結局この国では、僕とエリザと同じように太陽の下で生き、太陽が出てくることを感じられる人間が山ほどいた。この国では僕達は天使などという特別な存在ではなかった。
それでも僕はエリザが、天が僕によこした使いであると今でも信じている。そして、天使と僕の間に産まれた、この5人の子供たちも。
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