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川内倫子さんと滋賀

 エッセイ集『そんなふう』で、川内倫子さんにすっかり魅了された私。

 滋賀県立美術館でharuka nakamuraさんと“写真とピアノによるセッションライブ”をされることを知り、
「好きなふたりが共演するらしい、すごい!」
と恋人に話すと、彼は連日Webページをチェックし、セッションライブのチケットを予約して、滋賀旅行を約束してくれた。

 ひとりでは行くことを決められなかったと思うので、彼の行動力(感情の行き先である“行動”を止めない力)に何度も感謝した。

『川内倫子と滋賀』

写真の前で、仕事を辞めようと決めた

 川内倫子さんと滋賀県との関わりが特に深い作品が集まった、特別展示『川内倫子と滋賀』。

『そんなふう』を読んで、川内倫子さんのお人柄やご家族とのエピソードに触れていたからか、写真の前後に流れる時間まで感じることができた。

 その中で、滋賀県甲賀市にある福祉施設「やまなみ工房」を撮影したシリーズ〈やまなみ〉の1枚の写真の前で、動けなくなってしまった。

 この写真をみて、私は「だれしも、どんな仕事をしていても、愛されているんだ。光が差しているんだ。」と感じて、涙がぽろぽろ出た。

「女性として生きる自分のために、自分で自分を大切にするために、今の仕事を辞めなければいけない」と心のどこかで感じながらも、感情を殺して思考をコントロールして働き続け、心身が崩れ始めていた私にとって、この1枚の写真そのものが光に見えた。

「悩みながら働くことを選び続けている私だって愛されていて、私にも光が差し込んでいる」という実感は、確かな救いだった。

 そして、ここで感じたことを無かったことにはしたくないと強く思い、写真の前で、仕事を辞めようと決めた。

泣きながら決意しているからか、
ちょっと偉そうな私

写真とピアノによるセッションライブ

並んで船を漕ぐ、きもちのよい時間

滋賀県立美術館 公式Twitter掲載

 特別展で感じたことをノートに書き留めながら、セッションライブの開演時間を迎え、川内倫子さんとharuka nakamuraさんの姿を目にした時、不思議な安心感があった。

 “表現すること”と“生活(生きること)”との間に境目がない、自然な姿でセッションをされているように感じた。

 おふたりが、15年ほどかけてゆっくりと結ばれた縁を確かめるような時間に、同席したような気分になった。

 haruka nakamuraさんのピアノは、以前から音源で沢山聴いていたので、セッションの流れや次の音を、写真を観ながら想像できた。
 想像と実際に聞こえる音がぴたりと合った時、なんともいえない高揚感があった。

 私は泣き疲れていて、少し眠ってしまった。
 恋人も心地よかったらしく、少し眠っていた。
 並んで船を漕ぐ、きもちのよい時間だった。

セッションライブを観た後、
お腹が空いてパンを食べる私

『M/E 球体の上 無限の連なり』

新しく自覚する

〈M/E〉とは、「母(Mother)」、「地球(Earth)」の頭文字であり、続けて読むと「母なる大地(Mother Earth)」、そして「私(Me)」でもあります。アイスランドの火山や流氷の姿や北海道の雪景色と、コロナ禍で撮影された日常の風景とは、一見するとかけ離れた無関係のものに思えますが、どちらもわたしたちの住む地球の上でおこっており、川内の写真はそこにあるつながりを意識させます本展は、人間の命の営みや自然との関係についてあらためて問い直す機会となることでしょう。

企画展『M/E 球体の上 無限の連なり』開催概要

 幼少期に嫌々自然に触れることが多く、自然に対して消極的な大人になってしまったので、自分自身が自然の何に魅力を感じるのか、分からずにいた。
 また、自分の力が至らないものへ不安を感じやすい性格なので、人間の力を超えた自然に対して、距離を置いていた。

 けれど、企画展を観ながら「雪」「火」「木々の深い緑」は好きかもしれないと、新しく自覚することができた。

 雪の降る場所へ行きたい、火祭りをみてみたい、深い緑がある場所へ行きたい、と初めて思うことができた。

 自分がしたいことを、自分で自覚することは、存外難しいことなので、自覚を得られたことが嬉しかった。


 滋賀県立美術館からの帰り道は、豊かさで満ち満ちていて、ずっと笑っていた。

 川内倫子さんのように、自然でありながら人の感情や思考に光を届けられる人になりたい。

帰り道の私

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