『十二支のはじまり』
むかし、むかしのお話です。
ある山のてっぺんに、楽しいことが大好きな神様が住んでおりました。
もうすぐお正月。
「なんか、楽しいことはないかのぅ」
神様が、悩みながらふと山のふもとを見下ろすと、たくさんの動物たちが見えました。
「そうじゃ!動物たちと一緒にお正月を祝おう」
神様は、とびっきり素敵なアイディアを思いつき、すっかりごきげん。
山のふもとに、こんな看板を立てました。
『動物の皆さんへ
元日の朝、山のてっぺんへ来て下さい。
12番目までにやって来た動物を、1年ずつ交代で、その年の王様にしてあげます。早い者順だから急いでね。
神様より』
それを見て、動物たちは大騒ぎ。
すっかりお正月が来るのが待ち遠しくなりました。
みんなの声で、昼寝をしていた猫が目を覚ましました。
「みんな、何を騒いでいるニャ?」気になりましたが、自分で看板を見に行くのは面倒くさい。
そこで猫は、ねずみに聞きました。
ところが…
「元日の『次の日』に、山のてっぺんまで行けば、王様になれるんだって!」
ねずみは猫にウソをつき、猫はすっかりだまされてしまいました。
そして、大晦日がやって来ました。
山のてっぺんが夕日に紅く染まる頃
「ボクは足が遅いからなぁ。早めに出かけたほうがいいかなぁ…」
真面目な牛は、一番早くから、のそのそ出かけていきました。
それを見たねずみは、「ぴょんっ!」と、牛の背中に飛び乗り、山に着くまで、ぐぅぐぅ眠ることにしました。
夜明け前になると、他の動物たちも出かける準備を始めました。
「私のジャンプには誰も追いつけないわよ!」うさぎはそう言って、ぴょんぴょんと軽快に飛んでいきます。
しかし、後ろから猛烈なスピードでトラが走ってきたので、
驚いて、「ひぇ~っ!」と脇にどきました。
「動物の王様か… 面白そうだな。ひとつ、参加してみるか」
龍は優雅に空を飛び、へびも地面をにょろにょろと這っていきました。
馬と羊の仲良しコンビは、お互いに励まし合いながら走っていました。
その頃、ニワトリがようやく目を覚ました。
「いつもは早く起きられるから大丈夫」と油断して、すっかり寝坊してしまったのです。
犬と猿は、途中までは仲良く走っていましたが、そのうち、負けん気 に火がついて、とうとう取っ組み合いのケンカを始めてしまいました。
ニワトリは、そこを通りかかり「こらー!ケンカなんかしている場合じゃないでしょ!!」と、二匹に言いました。
とにかく、動物が12匹集まってしまうまでに、山のてっぺんに到着しなければならないのです。
と、そこへ、イノシシが、目が回るほどの猛ダッシュでやって来て、三匹を追い越しました。
そのころ。「おぉ~、来た、来た。」 山のてっぺんにいる神様はひたいに手をかざし、遠くを見て、にこにこ笑顔。
さて、1番目にやってきた動物は何でしょう?
「はぁ、疲れたぁ~…」一番早く出発した、真面目なウシ。
かと思いきや
「神様ぁ! ボクが一番ですよぉ!」
牛の背中の上から、ネズミが、勢いよく、「ぴょん!」っと前に飛び出したではありませんか!
「おぉ、ネズミが1番か。よく来たな。よしよし。2番目は牛だな。お疲れ様。」と、神様。
「あれぇ? ネズミくん、いつの間に来てたのぉ!?」牛はびっくりしましたが「まぁ、 いっかぁ…」と、おおらかに、つぶやきました。
「さぁさぁ、次は誰が来るのかな?楽しみ、楽しみ…」神様はわくわくしながら、みんなが来るのを待っています。
3番目は、猛ダッシュしてきたトラ。
4番目は、ぴょんぴょん、うさぎ。
5番目は、優雅に空を飛んできた龍。
6番目は、にょろりん♪と、這ってきた、へび。
その頃、馬と羊の仲良しコンビも、ゴールのすぐ近くまで来ていました。
「この山道には、お化けが出るんだって」ぶるぶると震える羊を、
馬は「大丈夫だって。ボクがひづめでやっつけてあげる!」と力強く励ましました。
こうして羊も、なんとかたどり着くことが出来ました。
「馬くん、ありがとう♪ 先にゴールしてよ。」
「いいのかい? じゃあ、遠慮なく。」
こうして、7番目は馬、8番目は羊になりました。
「コケコッコー!まだケンカしてるの!?そんなことじゃ、間に合わないわよっ!先に行っちゃうからね!!」ニワトリが言うと、
猿はピタリとケンカをやめて「へっへーん!君たちには負けないッキャ!」と、あっかんべーして行ってしまいました。
「私達も急ぐわよ!」ニワトリに急されて、犬とニワトリは同時にゴールに到着しました。
「おお、同時に着いたか。猿が9番目じゃから… ん~と、ニワトリが10番、犬が11番じゃ。猿の次が犬では、またケンカになるからな!」
と、神様。神様には何でもお見通しなのです。
さて。最後は誰でしょう?
ゴォォォォ!! 砂煙を上げながら猪突猛進してきた、イノシシでした。
「いやぁ。間違って違う山に登ってしまったんですわい!」とイノシシは、ほっぺを真っ赤に染めて、神様に報告しました。
王様が決まったところで、みんなで元旦のお祝いをしました。
次の日。
猫は昼寝から目覚め、「そろそろ神様のところへ行こうか」と思いました。隣ではタヌキが寝ています。
「おーい、タヌキくん。そろそろ行かなくていいのかい?
間に合わないぞぉ?」猫が話しかけると、タヌキはのんびり答えました。
「なーに言ってるの、ネコくん。もうとっくに終わってるよぉ…
ボクは途中で面倒くさくなって、寝たふりしてるんだよぉ。」
タヌキに聞いて、ようやくネコは、ねずみにだまされていたことに気が付きました。
こうして『子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)』と続く十二支(じゅうにし)が始まりました。
そして、ネズミのせいで十二支に入れなかった猫は怒って、それ以来、ネズミを見ると追いかけるようになったということです。
おしまい
子(ね)→鼠(ねずみ)・丑(うし)→牛(うし)・寅(とら)→虎(とら)・卯(う)→兎(うさぎ)・辰(たつ)→龍(りゅう)・巳(み)→蛇(へび)・午(うま)→馬(うま)・未(ひつじ)→羊(ひつじ)・申(さる)→猿(さる)・酉(とり)→鳥(とり)・戌(いぬ)→犬(いぬ)・亥(い)→猪(いのしし)