なぜChatGPTで戦略立案を行うのか？
以下の記事では、生成AI（ChatGPT）を戦略立案に活用するための「プロンプト設計のコツ」を解説します。特に「ChatGPTのアカウントを作ったはいいものの、実際どう使えば効果的なのか分からない…」という経営者の皆様に向けて、基本的な考え方から実践例まで分かりやすくまとめました。新規事業や既存事業の拡大を検討する際に、ぜひ参考にしてみてください。
なぜChatGPTで戦略立案を行うのか？
生成AI・大規模言語モデル（LLM）の代表格であるChatGPTは、驚くほど多様な視点を提示し、短時間で大枠の分析結果を示してくれます。
しかし、「良い質問（プロンプト）」をしなければ、返ってくる回答の質も期待外れになることが多いのが現実です。とりわけ経営者層の方々にとっては、情報の確度や分析の具体性が重要になります。そこで鍵を握るのがプロンプトの設計です。
プロンプトが重要な理由
プロンプトとは、ChatGPTに対する「問いかけ」のこと。ChatGPTは与えられた指示（プロンプト）を解釈して回答を生成します。
• 質の高いプロンプト: 背景や目的が明確、必要とする分析や出力形式が具体的に指定されている。
• 曖昧なプロンプト: ざっくりとした指示だけで、回答が表面的・一般論に終わりがち。
企業戦略の立案は、さまざまな経営判断にかかわる重要なプロセスです。ここであいまいな質問をしてしまうと、「結局よく分からないアイデアしか出てこない」「多くの情報が抜け落ちている」といった残念な結果に陥ります。
逆に、プロンプトを適切に設計すれば、ChatGPTから表面的でない深い洞察を引き出しやすくなります。
効果的なプロンプト設計のポイント
1. 背景・目的（コンテキスト）の明示
まずは「何のためにChatGPTを使いたいのか」を簡潔に伝えます。たとえば、
「新規市場に参入を検討しているので、市場環境と自社の強みを分析したい。」
このように目的を明示すると、ChatGPTも回答の方向性を理解しやすくなります。
2. ChatGPTの役割設定
ChatGPTに「あなたは一流の経営戦略コンサルタントです」といった役割を与えることで、専門的な観点からの回答を期待できます。
3. 具体的な指示（タスクの明示）
使いたいフレームワークや分析内容を具体的に示しましょう。
• 「SWOT分析を使って自社の内部環境と外部環境を整理してください」
• 「競合との比較を重視しながら、PESTEL分析を行ってください」
4. 出力形式・トーンの指定
単なる文章の羅列よりも、箇条書きや見出しを使って整理させると読みやすい結果が得られます。
• 「○○文字程度で要点だけを箇条書きにまとめて」
• 「シンプルかつ客観的なトーンで説明して」
5. 制約条件や除外事項の提示
• 「最新情報を前提に、憶測は入れない」
• 「競合企業の具体名は出さない」
このような制約を明示すると、より実務に使える回答が得られます。
6. 参考情報や例の提供
• 「自社売上高は○○、競合1社の売上高は△△」
• 「下記のフォーマットのように回答をまとめてください」
具体的なデータや参考例を与えると、ChatGPTの回答が現実味を帯び、ハルシネーション（事実無根の情報）が入りにくくなります。
戦略フレームワークとプロンプト例
1. SWOT分析
• Strengths/Weaknesses/Opportunities/Threatsの4つの要素を指定。
• 例:
あなたは一流の経営戦略コンサルタントです。最新の情報に基づいて、当社「〇〇社」のSWOT分析を行ってください。
Strengths (強み): 当社の内部的な強みを3～5点挙げ、それぞれなぜそれが強みとなるのか理由を説明してください。
Weaknesses (弱み): 当社の弱みや課題を3～5点、理由とともに示してください。
Opportunities (機会): 業界動向や市場環境から当社にとっての機会を3～5点挙げ、その背景も説明してください。
Threats (脅威): 当社を取り巻く外部の脅威要因を3～5点、理由と合わせて示してください。
分析結果は見出しと箇条書きを用いて整理し、最後に全体の総括として今後の戦略に活かせる示唆を1段落で述べてください。
2. PEST(LE)分析
• **政治（P）、経済（E）、社会（S）、技術（T）**に加え、**環境（E）、法規制（L）**も含める場合があります。
• 例:
新規事業「△△サービス」を計画中です。これに関連する外部環境要因をPESTEL分析で評価してください。
以下の観点ごとに、現状のポイントを2～3文ずつ述べてください:
Political (政治): 関連する法規制や政府の政策動向
Economic (経済): 市場規模や景気動向、業界の経済的要因
Social (社会): 消費者の嗜好や人口動態など社会的要因
Technological (技術): 該当分野の技術革新や研究開発動向
Environmental (環境): 環境規制やサステナビリティに関する要因
Legal (法規制): 業界に影響する法律や規制の動向
出力は各観点を見出しとして整理し、当社のビジネスへの影響に言及してください。最後に、この外部環境分析から得られる戦略上の示唆を一文でまとめてください。
3. ポーターの5フォース分析
• 業界競争、新規参入、売り手交渉力、買い手交渉力、代替品の脅威の5要素。
• 例:
あなたは経営コンサルタントとして、〇〇業界における「☆☆社」の競争環境をポーターの5フォース分析で評価してください。以下の5項目について、それぞれ現状の状況と当社への示唆を簡潔に述べてください（各項目3～4行程度で):
業界内の競争状況（既存競合他社との競争関係）
新規参入の脅威（新規プレイヤーが参入してくる可能性）
売り手の交渉力（サプライヤーが持つ影響力）
買い手の交渉力（顧客・流通が持つ影響力）
代替品の脅威（代替製品・サービスの存在による圧力）
分析は箇条書きで要点を整理し、専門的かつ客観的なトーンで記述してください。最後に当社が取るべき戦略アプローチに関する示唆を一文で付記してください。
回答精度を高めるテクニック
1. 段階的に指示を出す（Chain-of-Thought法）
• 「まず市場環境を分析 → 次にSWOTを行う → 最後に戦略提案をまとめる」のようにステップを区切ると、より論理的な回答になりやすい。
2. 「質問の言い換え」を求める
• プロンプトの最後に「まず私の質問を要約してから答えてください」と付け加える。
• ChatGPTが一度自分の言葉で整理するため、意図のズレを減らせる。
3. データや事例を具体的に渡す
• 市場シェアや顧客インサイトなどの数字を含めると、回答の精度が向上。
• 逆に情報がないと、ChatGPTは一般論で埋めてしまう。
4. Few-shotプロンプトでお手本を示す
• 「次のような形式で回答してください」と過去の例を1～2個与えると、ChatGPTがそれに近い形式で回答してくれる。
5. 回答後の再質問と修正
• 一度の回答で終わらせず、「もっと深掘りして」「ここを詳しく」など追質問でブラッシュアップできる。
実際のビジネス利用で注意すべきこと
ChatGPTの提案はあくまで**「参考」**です。最終的な意思決定には、人間の知見や現実の情報（法的・財務的側面など）を踏まえて判断してください。また、機密情報の取り扱いには十分注意し、ChatGPT上に出して良い範囲とそうでない範囲を明確に区別することが大切です。
まとめ
• ポイントはプロンプト設計: 背景・目的、役割、具体的タスク、出力形式、制約、参考情報の6つを押さえる。
• フレームワークの明示: SWOT、PEST、ポーターの5フォースなど、必要な分析枠組みを明確に指示することで抜け漏れを防ぐ。
• 精度向上の工夫: ステップを分ける、回答を要約させる、具体データを与えるなど、段階的なやりとりで質を上げる。
• 最終判断は現場で: ChatGPTが示す分析や戦略案は素案として活用し、人の目で検証・修正を行う。
ChatGPTは、戦略立案の初期検討を効率化し、新しい発想を得るうえで有力なツールです。適切なプロンプト設計と試行錯誤を重ねながら、貴社の経営判断をさらにブラッシュアップしてみてはいかがでしょうか。