「残陽」の美しいメロディ

「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 1st Live Tour ~RUN!CAN!FUN!~」と「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 3rd Live Tour 【TRY TRI UNITY!!! with スリーズブーケ】」にて披露されたことでも話題の楽曲。スリーズブーケの「残陽」。
この曲のメロディを聴いて、切なさの中にある美しさに感動を覚えた。

ポップス向きのコード進行

「残陽」のサビのコード進行は俗に王道進行と呼ばれるJ-POPで頻繁に使用されるコード進行を元に構成されている。

コード進行をディグリーで表すと「ⅱ→Ⅴ→ⅲ→ⅵ」である。
これは王道進行「Ⅳ→Ⅴ→ⅲ→ⅵ」の頭のⅣを代理コードのⅱに置き換えた進行。
「ⅱ→Ⅴ」と「ⅲ→ⅵ」、それにコード進行の繰り返しの境目となる「ⅵ→ⅱ」において強進行(4度進行)となる。
通常、コード進行は順次進行(半音または全音上下)と強進行が自然で美しい進行とされているため、「残陽」のコード進行はポップで美しい展開と言える。

加えて、単なる3和音ではなく7thを付加してより響きを複雑にしている箇所が随所にみられる。

ここで少し、ⅤにあたるA♭には7thの音が付加されていないことについて考えてみる。
実はサビのコード進行は、上の画像で示したパート以降も含め、強進行の始点となるコードに7thが付加されている。
ドミナント7thには特に強い特性だが、7thには4度上に向かおうとする性質、つまり強進行する力が強い。
「残陽」のようなコード進行において仮にA♭をA♭7にしてしまうと、次がD♭でないことに裏切りを感じてしまう。
(A♭7→Fm7に進行してはいけないというルールはない。)
「残陽」は花帆と梢の関係性に踏み込んだ歌詞となっているため、その中に「裏切り」を含ませてしまうことはご法度だったのかもしれない。

サビの後半、ただの繰り返しではない

上の画像で示したメロディの繰り返しとなるサビの後半について見てみる。

違いは3小節目。前半はFm7であった箇所がF7となっている。
「Fm7→B♭m7」も「F7→B♭m7」も強進行であるが、F7の方がBm7に向かいたい気持ちがより大きい。(ドミナント7th)
たった一か所だが、楽曲の展開に大きく影響している点と言えるだろう。

効果的なモチーフの反復

モチーフとはテーマを構成する最小単位のメロディーのことを示す。


黄色で囲ったパートと紫で囲ったパートが「残陽」のサビにおけるモチーフの代表である。
この動きに注目してサビの全体を見ると以下のようになる。

「日陰の外に魅せられた」と「思わず手を伸ばしていた」はモチーフの繰り返しとなるが、音程を見ると、後半が全体的に下がっている。
全く同じメロディにしてしまうと聴き手が飽きてしまうため、このような工夫が施される。
音価(音の長さ)は同じ。

また、上がる、下がると言った動きも大方引き継いで繰り返されていることも美しさを感じさせる要因となっている。
この矢印はほとんど共通しているのだが、サビの後半のみ違う動きを見せる。

音価は同じなのでモチーフの反復と呼ぶことができる。
しかし、言葉尻が下がっていた今までの動きとは違い、上昇傾向にあるメロディ。そして、この曲の最高音に達するのだが、サビ後半において盛り上がる箇所を作ることは非常に効果的であり、今まで下降系のメロだったため、よりこの上昇が強調される。

サビを締めるこのフレーズ。
今までの流れからして残りは4小節と予想されたところ2小節。
(G♭M7が鳴るタイミングから間奏に入る)
ここはむしろ4小節にしてしまうと間延びしてだらしなくなってしまうだろう。
それよりも注目すべきはメロディの型。今までのモチーフとは違う型となっている。
サビを締めるために、今までとは違う動きとなっている。
全体的に「付点8分+付点8分+8分」のまとまりが多いが、「光の中へ」では8分主体のメロディとなっており、今まで感じていたリズムとはノリが一瞬変わる。
「翳す」という歌詞のところは今までのモチーフと似た動きをしているが、これはもしかしたら歌詞に合わせた演出なのかもしれない。
新たな世界に踏み出そうとしている花帆。それを表すかのような今までとは違う型のメロディ。
でも梢のことが過ぎり、振り返ってしまう。
そしてこの曲は音程がどんどん下がっていき、この曲の最低音で締める。
通常、上がって終わると明るい、前向きといった印象を与え、逆に下がって終わると暗い、悲しいといった印象を与える。
この曲は公式に「ハッピーエンドではない」と明言されているため、下降終止のメロディには曲中の2人の心情がダイレクトに表れている。

終わりに

今回はスリーズブーケの「残陽」について分析した結果をまとめた。
アニメなどのコンテンツに関わる楽曲の場合、その背景にあるストーリーや登場人物の心情を表す楽曲はより映えるものとなるのだろう。


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