【読書】あふれた愛/天童荒太
実家に戻るたびに、亡き父の本棚からその時の気分で選んだ数冊を持ち帰るようにしてる。
これは、自分の名前が入ったタイトルに導かれ手に取ったもの。東京に出てきて1年半で早くも仕事を変えることになり、展示会なんて全くの未経験業界への挑戦、将来に対するそこはかとない不安、自分を取り巻く人間関係や環境の変化、、、精一杯気を張っていた分、自己肯定感や人間臭い感情や愛に飢えていた時だった。
私と同じく愛情表現が不器用だった父が読んだこの本を読むことで、父の表に出せていなかったであろう感情に想いを馳せたり、これを読むことで父との会話が成り立つような錯覚も期待していた。
この本のテーマ、愛って、営業マン的に言うと無形商材。
形がないから、相手にどう伝えるか、伝わるか、工夫だったりその人との信頼関係でインパクトも温もりも変わる。
この本に出てくる登場人物達は、それぞれが特別な人に愛を寄せている。
高校中退後、定職にはつかず、惰性で付き合っている彼女がいる青年。ある日コンビニのバイト中、ある男性の突然死に遭遇したことで、救えなかった命と、その妻への懺悔、自己嫌悪に向き合い、どこからともなくこみ上げる無秩序な感情を消化できず、自分ができることを模索していく。自分がいてもいなくても明日はやってくる。今の現状ではいくら考えても、自分がこの世に存在している価値が見出せなかった主人公。他人の死、その家族の悲しみ、亡き夫に向けた純度の高いあふれる愛。非日常的な出来事の数々に、彼自身が愛という価値を覚えていくのに従って物語も進んでいく。
どこかで完璧な愛を求めていたのかもしれない。
誰かに少し愛のお裾分けをもらうだけで、十分心を満たされるのに。
よりいい自分を目指して欲張ったせいで余裕がなくなり、目の前の不安や孤独感を消化できずに苦しんでいた今の自分に、少し風穴が空いた気がした。
愛は間違いなく、人を癒すエッセンス。
愛で繋がった関係は、温かく、そして力強い。
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