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武器が欲しくて人間中心設計スペシャリストになってみた

デザイナー、定性の哀しみ


ある日、思いました。
「武器ほしい。」

鈍器がいいな。

逃げないでください。物理的な武器ではないです。

自分は現在、UI/UXデザイナーを名乗らせていただいています。ユーザーがサービスに対して抱く要求を快適に満たすことができるよう、利用フローから機能インターフェイスまでデザインするのが仕事です。日々、機能設計や改善と、より良きプロダクト作りに邁進しています。

しかしながら、”改善””より良き”とは言うものの、デザインの良し悪しはどう測るのか。PVやCVRなどの成果指標は明確ですが、良くも悪くも総合評価。環境に大きく左右されるので、UXの効果を出すには不向きです。
例1)UIは二の次、使わざるをえないからコンバージョン爆上!
例2)クオリティはそこそこでも広宣費に札束積んだからCTR爆発!

また、ユーザー体験のゴールは一人一人の感覚値。わかりやすい・心地よいに万人共通はなく、主観的・定性的になりがちです。
「改善?きれいになった?それってあなたの感想ですよね。」と言われた時に、一発で撲殺…いえ反撃できる武器が欲しいと思った次第です。

デザイナー、HCDに目をつける

Human Centered Design(以下HCD)は日本語訳『人間中心設計』。
”モノ”を中心としていた技術優先の時代から、”ヒト”を優先する時代への変遷の中で生まれた定義です。

モノからヒトへ

技術黎明の時代、今よりもっと"動かないことが当たり前"だった産業革命期には、技術やシステムを優先するのが主流でした。「この機械を動かすにはこうするしかないんだ、四の五の言わずに使う側が慣れろ」です。

しかし技術は進歩して、人々の触れるシステムは"動いて当たり前"になりました。したがって"使いやすい"が求められるようになり、ものづくりの基準軸はモノからヒトにシフトしました。

そこで、『人間が使いやすいものを作る』『人を中心としたものづくり』を規格として定義したのが人間中心設計です。
ISO 9241-210:2010の翻訳版「JISZ8530:2019」
システムありきではなく、設計プロセスの中心にヒトを置く。動くことを目的とするのではなく、ユーザーの課題を解決することをモノ作りのゴールとするアプローチです。

1. ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいた設計
2. デザインと開発全体へのユーザー参加
3. ユーザーの評価による設計と改良
4. 評価と改善のプロセスの反復
5. ユーザー体験(UX)を考慮した設計
6. 学際的なスキル・視点を含むデザインチームの編成

人間中心設計の6つの原則

人間中心設計(HCD)は、工業規格として国際的に認定されているJIS定義、国際規格です。経済産業大臣お墨付き!!習得すれば正論パンチが繰り出せるぞ!これだ!!!!!

これだよこれ

デザイナー、HCDの認定資格に挑戦する

Competence= 専門的知識、能力

日本では、公益団体である人間中心設計推進機構(HCD-Net)がHCDの認定制度を設けています。

人間中心設計推進機構が実施するHCDの専門家認定制度では、HCDの専門家に必要とされる「コンピタンス」を明らかにして、そのような能力を満たしている人を認定します。
使いにくいプロダクトやサービスはまだまだ数多くあり、これらに対して、HCD的活動を推進するための「専門家」が必要です。HCD-Netはそうした活動を実践できるコンピタンスを備えた人物を専門家として認定し、HCD活動の活性化を目指しています。

特典非営利活動法人 人間中心設計推進機構

これだ!!!(2回目)

HCD-Netの認定試験は年1回実施されており、『スペシャリスト』と『専門家』の2種類があります。

人間中心設計スペシャリスト(HCDスペシャリスト)
実務経験: HCDに関連する実務経験が2年以上
能力要件: HCDの基本的な知識と実践能力を有している
更新: 3年ごと

人間中心設計スペシャリスト

人間中心設計専門家(HCD専門家)
実務経験: HCDに関連する実務経験が5年以上
能力要件: HCDの実践において、高度な知識やマネジメント能力を有している
更新: 資格は3年ごと、更新料金は1年ごと

人間中心設計専門家

両資格とも、受験者は過去の実績を示す審査書類を提出し、その内容に基づいて評価されます。(HCD認定制度
スペシャリストは基本的なHCDプロセスの実践とPJTの推進を行った実績2年が求められ、専門家は一段高度にHCDの普及活動と導入推進、実績5年が求められます。そして専門家のほうが更新料もお高いです。
というわけで、自分はスペシャリストに応募することにしました。

【審査書類】
プロジェクト記述書: これまでに関与したプロジェクトの詳細を記載する。プロジェクトの目的、役割、成果、使用したHCD手法などを明確に示す。
コンピタンス記述書:  HCDに関連するスキルや知識を示すために、どのような能力を持っているかを記述する。HCDの実践における具体的な経験や成果を記述する。

【記述する内容】
プロジェクト経験:  HCDプロセスに従った実績
専門知識:  HCDに関する知識やスキル
マネジメント能力:  専門家のみ。プロジェクトマネジメントやチームのリーダーシップ能力を表す実績

HCD認定試験応募要領


HCD資格試験は具体的な受験ノウハウを公開してはいけないのでざっくりしか語れませんが、11月の受験受付から翌年1月の締切までに2万字くらい書きました
プロダクトやプロジェクトの中で、どのようにHCDプロセスを取り入れ、活用し、どのような成果を生み出したか。その中で自分はどのような役割を果たしたか。並行する年末進行の圧で何度か挫けそうになりましたが、リタイヤしても戻ってこない受験料を思って走り抜けました。

頑張った甲斐あり、無事に2023年度HCDスペシャリストに合格しました!やったー。

やったー

HCD認定資格を得る3つのメリット

1. HCDの手法や効果を学ぶことができる


『今までにどうHCDを活用したか』を記述するのが認定資格です。本来なら時系列が逆ですが、自分の場合はゴールから逆算して必要に応じた調査検証をすることが多かったので、「あの時の分析ってKA法っていうのか」や「ビジョン提案型デザイン手法なんて名前だったんだ」など、あらためて手法を見直す機会になりました。
そうやって掘り起こしてみると、自然にやってきたことが実はHCDの理念に沿ったものだと気付いたり、プロセスというには何が足りなかったのかなど、次に繋がる学びも多かったです。

2.実績の棚卸し

最近、市販の履歴書の職歴欄が足りなくなってきました。威張れることではありませんが、実はかなり転職してるローリングストーンです。
あっちの会社もこっちの会社も「面接で話したことあるな」となりつつある昨今、ほぼ全ての中途面接で聞かれる鉄板質問が以下です。

  • どんな仕事でどんな役割を果たしたか

  • 印象に残っている仕事とその成果

  • 失敗に終わった仕事とその対応

進研ゼm……認定試験で書いたところだ!
奇しくも認定試験とX回目の転職がかぶった2023年。みっちり2万字にまとめたあれこれを、理路整然と話すことができました。嬉しくないけど助かった。

3. デザイナーとしてのスタンスが確立する

「あなたは何を目指して仕事をしますか」
自分の中で、長年殿堂入りの鬼門質問でした。技術を覚えて成果物を作っていれば許されるヤングな時代は遥か昔。「"作るだけ"なら外注のほうが安い」「会社の中にいる意味」を常に問われ続けるインハウスデザイナー。
「なんかこう…人のためになる…人をつなぐ…いい感じの…」としどろもどろに冷や汗かいてきた語彙力の歴史。だって本当に『ユーザーのためになるものを作ってこれたのか』は私にもわからないし、証明するのも難しい。

しかしHCDを学び、”あなたのそれは成果を生み出すコンピタンスですよ”と認定されたことで、鬼門は解体されました。
「ユーザー中心のものづくりを心がけ、それを実践してきました。製品やサービスが、ユーザーの期待に応える未来を作っていきたいデザイナーです!」と胸を張って生きています。

胸を張る = ふんぞりかえる

HCDは万能ではない


さて、最後に。
ここまで長文を読んで下さった読者諸氏はそろそろお気付きでしょう。『経産省お墨付きのHCD』は、けして「デザインの素晴らしさを保証します」という印籠ではなく、「ユーザーを指標にデザインしたら良いものができるよ」というアプローチに過ぎないことを。

資格を振り翳したところで、きちんとプロセスを踏んでユーザーの評価を得ていないデザインは、HCDスペシャリストが作ろうと「それってあなたの感以下略」のままです。認定資格、持ってるだけじゃ意味ない。

万能鈍器じゃなかった

また、スピードを要する開発や体力のない現場とは相性が悪いです。
調査には時間と費用がかかります。「とにかくXX日までになんとかしたい」というスピード優先タスクや、「新しい技術でとりあえずモノを動かしたい」という産業革命フェーズの現場で、「まず調査して…ニーズを絞って仮説をたてて…プロトタイプで検証して…HCDプロセスをまわして…」と言い出すと煙たがられます。
(ちなみにこういう場合、"まずスピーディに世に出して、検証からプロセスを開始する"というのも手です)

これら2つの事柄は、HCDを十全に活用するためには、『ステークホルダーや開発者、企画者を巻き込むことができる土壌』が重要であると物語ります。
「あいつにUI作成を依頼すると調査だ検証だと言い出して面倒」とひそひそされないよう、チーム理解が得られているか、本当にHCDプロセスの効かせどころであるかは吟味して活用したいものです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。2026年はHCD-Netで僕と握手!(HCD認定資格は3年ごとの更新申請が必要です)

またあの文字量書くのか・・・


猫は我が家の灰色猫です。LINEスタンプあるよ


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