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ショックドクトリン

「ショックドクトリン」とは、カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインによって提唱された概念で、経済的・政治的な変革を実施するために危機や混乱を利用する手法を指します。クラインは、2007年に出版された同名の著書でこの概念を詳しく探究しました。

この理論によれば、政府や企業は社会的な混乱や危機状態(戦争、テロ、自然災害など)を利用して、通常では受け入れられないような経済的・政治的政策を施行することができるとされています。この過程では、人々が混乱状態にある間に政策が急速に導入され、反対勢力が弱まり、抵抗する余裕が失われるとされています。

クラインは、これが国家や企業による市場原理主義や新自由主義の浸透を進めるための手法であると主張しました。例えば、災害や経済危機の際に行われる緊急経済政策や法律改革が、本質的に市場原理主義の原則に合致することが挙げられます。

この概念は議論を呼び起こし、賛否両論が存在しますが、社会変革の文脈で経済的な変化がどのように推進されるかを理解する上で興味深い視点を提供しています。


ショックドクトリン脳

ショックドクトリンの脳科学的な側面をより具体的に説明します。ショックドクトリンにおいて、社会的なショックや危機が発生すると、以下の脳のプロセスが関与します:

1. **扁桃体の活性化:** ショックや危機が発生すると、脳の扁桃体が活性化されます。扁桃体は恐怖やストレスの処理に関与し、この活性化は強い感情反応を引き起こします。

2. **ストレスホルモンの放出:** 扁桃体の活性化により、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールなどが放出されます。これは身体の反応を調整し、注意やエネルギーの集中を促進します。

3. **認知の変容:** 扁桃体の活性化とストレスホルモンの影響により、認知機能が変容します。人々はより感情的で、脅威に対して敏感になり、合理的な判断が難しくなります。

4. **意思決定の変更:** 高いストレス状態では、冷静な意思決定が難しくなり、急激な変化への適応が求められます。これにより、政治的な提案や経済政策の変更が受け入れやすくなります。

5. **集団心理の影響:** 社会的なショックは集団心理にも影響を与えます。一体感や共感が強まり、リーダーシップに対する信頼が増すことで、急激な変革の実現が容易になります。

以上のような脳のプロセスが相互に影響し合い、ショックドクトリンにおいて社会的変革が促進される可能性があります。

ショックドクトリンの歴史


歴史的な例として、ナオミ・クラインが著書で取り上げた中で有名なのは、1970年代から1980年代初頭のチリでの出来事です。1973年、チリでアウグスト・ピノチェトによるクーデターが発生し、サルバドール・アジェンデ大統領が失脚しました。

この政変後、アメリカ合衆国と国際通貨基金(IMF)などが支援する形で、急激な経済改革が導入されました。国営企業の民営化や市場主義の経済政策が急速に進み、これがショックドクトリンの一例とされています。社会的な混乱や恐怖、経済的なショックを利用して、急速な政治的・経済的変革が行われたことが特徴的でした。

このような歴史的な事例では、ショックドクトリンが政治的権力を利用して急激な経済変革を実施し、その結果として社会に大きな変化や影響をもたらしたとされています。


他の歴史的な例としては、以下のような出来事が挙げられます:

1. **ポーランド(1989年):** 冷戦の終結後、ポーランドは経済的な危機に見舞われました。IMFなどからの支援を受け、急速な市場主義への転換が行われました。国営企業の民営化や規制緩和が進み、これがショックドクトリンの影響を反映しています。

2. **ロシア(1990年代初頭):** ソビエト連邦の崩壊後、ロシアも経済的混乱に見舞われました。IMFの支援を受け、急激な市場主義への転換が進みました。この過程で多くの国営企業が民営化され、社会的不安定が生じました。

3. **イラク(2003年以降):** イラク戦争の後、アメリカがイラクの復興を行う中で経済的・政治的な変革が行われました。これには急激な市場主義の導入が含まれ、国内の経済・社会構造に大きな変化をもたらしました。

4. **南アフリカ(1990年代初頭):** アパルトヘイト政策の崩壊後、南アフリカは急速な経済変革を経験しました。これには国営企業の民営化や市場経済の導入が含まれ、国内の経済構造が大きく変わりました。

5. **アルゼンチン(2001年):** 経済危機に見舞われたアルゼンチンでは、IMFからの支援を得て急速な経済改革が行われました。国債デフォルト、通貨の刷新、国営企業の民営化などが実施され、これがショックドクトリンの影響を反映しています。

6. **ギリシャ(2010年代初頭):** ギリシャが債務危機に直面した際、EUとIMFが支援を提供しました。この支援に伴い、厳格な緊縮政策や経済構造の変革が行われました。

7. **新自由主義の台頭(1970年代から1980年代):** ショックドクトリンの基盤となった新自由主義の思想が、イギリスのサッチャー政権やアメリカのレーガン政権によって広く採用されました。これにより、市場原理主義が強調され、公共部門の縮小、規制緩和、税制改革が進みました。

8. **ユーゴスラビアの崩壊(1990年代初頭):** ユーゴスラビアの分裂時、戦乱と政治的混乱がショックドクトリンの影響を受け、国の崩壊後に市場経済が導入されました。これにより、国営企業の民営化や急激な経済変革が行われました。

9. **ブラジル(1990年代初頭):** ハイパーインフレーションや経済不安に直面したブラジルでは、IMFの支援を受けて急激な経済改革が行われました。これには通貨の安定化や市場主義の導入が含まれました。

10. **ニュージーランド(1980年代初頭から):** ニュージーランドは1980年代初頭に経済改革を行い、公共部門の縮小、規制緩和、国営企業の民営化などが進められました。これは新自由主義の原則に基づく変革で、一部でショックドクトリンの影響が指摘されています。

11. **エクアドル(2000年代初頭):** エクアドルもIMFの支援を受けながら、通貨の刷新や経済改革が行われました。これには政府支出の削減や規制緩和が含まれ、一部でショックドクトリンと結びつけられることがあります。

12. **ウクライナ(2014年以降):** ウクライナが2014年に政治的な危機に見舞われた際、IMFとの支援協定に基づく経済改革が実施されました。これは急激な規制改革や予算削減を含むもので、一部でショックドクトリンの影響が議論されています。

13. **ハイチ(1990年代から2000年代初頭):** ハイチは政治的な不安定さや経済的な課題に直面し、IMFや世界銀行からの支援を受けて構造調整プログラムを実施しました。これには国営企業の民営化や予算削減が含まれ、ショックドクトリンの影響が指摘されています。

14. **トルコ(2000年代初頭):** トルコは経済危機に直面し、IMFの支援を受けて急激な経済改革が行われました。これには公共部門の削減、金融制度の再編、規制緩和などが含まれ、ショックドクトリンの要素が見られるとされています。

15. **ベネズエラ(1980年代から1990年代):** ベネズエラは石油価格の急落や経済的混乱に直面し、IMFからの支援を受けて経済調整が試みられました。これには市場主義の原則が導入され、国内の政治的・経済的な状況に大きな変化をもたらしました。

16. **マレーシア(1997年アジア通貨危機後):** アジア通貨危機の際、マレーシアはIMFの支援を受けずに独自の経済政策を進めました。これには国内企業のサポートや資本規制の導入が含まれ、外部からの影響を受けない方針を打ち出しました。

17. **リビア(2000年代初頭):** ムアンマル・アル=カッザーフィ政権下で、リビアは石油収入を背景にした社会的・経済的なプログラムを進めました。これには国営企業の再編や市場経済の一部導入が含まれており、ショックドクトリンの影響が議論されています。

18. **アイスランド(2008年金融危機後):** 2008年の金融危機に見舞われたアイスランドは、独自の対応策をとりました。国内銀行の破綻、通貨安定策などが進み、IMFとは異なるアプローチが取られました。

19. **ウクライナ(2014年以降):** ウクライナはロシアとの対立や政治的混乱に直面し、IMFとの支援プログラムが始まりました。経済改革が進み、規制緩和や予算削減が行われました。

20. **アルゼンチン(2018年以降):** アルゼンチンは経済危機に見舞われ、IMFとの協定を結びました。これに伴い、財政引き締めや経済改革が進められ、社会的な反発を引き起こしました。

21. **レバノン(2019年以降):** レバノンは経済的危機に直面し、IMFとの交渉が行われました。これにより、経済調整や財政改革が提案され、国内で抗議活動が起きています。