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書く習慣アプリ忘備録 2024.10
「書く習慣」アプリにて、毎日出題されるお題を使用した小話のログになります。
SF(少し・不穏)多めとなりますのでご注意ください。
10.31 ‹理想郷›
「好きな物を好きなだけ食べて」
「好きな時に好きなだけ寝て遊んで」
「好きな人と好きなだけ一緒に居られる」
「そんな夢みたいな世界が有ったとして」
「それでも『好き』が一致しない時」
「あるいは『嫌い』が一致しない時」
「そこは容易く天国から」
「無限の地獄に変化する」
「例えばお菓子しか無い世界の甘味嫌いみたいに」
「例えば性交が自由な世界での性嫌悪みたいに」
「例えば皆で騒ぐ世界で一人でありたい人みたいに」
「例えば誰も死なない世界の殺人愛好家みたいに」
「例えば個性重視の世界でお揃いしたい人みたいに」
「例えばこのどうにもならない世界での君みたいに」
「すべては善悪じゃなく」
「ただ好悪だけで決まっていく」
「だから」
「万人にとっての必ずの幸福は叶わない」
「『幸福』の形は誰もが一致はしないから」
10.30 ‹懐かしく思うこと›
ふと、子供の騒ぐ声が聞こえた。
賑やかな表通りから数本、人の目の少ない物陰で。
声だけでなく聞こえた音に思わず口を噤むと、
店から出てきた連れが、視線を辿って笑みを零した。
「やんちゃさんかな?」
「……今の時代は許されんよ」
数枚の写真と少しの動画を転送するに留める。
正義感だけはイカれてる馬鹿だから、多分何か
するだろう、と問題転嫁を決め込んで。
さもないと。
「そういえば、しばらく見てなかったかも」
絡んだ指先が爪を立てる。生涯消えない火傷痕に。
「ね、明日も休みだったよね?」
加虐の悦に濡れる声。その恐怖に立ち竦む間は。
「……お前が、壊したくせに」
この隣から逃れることは出来ないのだと。
10.29 ‹もう一つの物語›
「あら、いらっしゃい。ここまでお疲れ様。」
「そうよ。私の物語は、ここでおしまい。
私だけ生き残って、私だけ救われてしまった。」
「……ごめんなさいね。」
「あなたはこれから戻るのかしら。」
「この物語の、一番最後の分岐点。」
「きっとこうはならなかった筈の、未来の物語。」
「その未来なら、皆は生きているかしら。
……あの子は、笑えているかしら。」
「それだけでいいの、私がいなくても。」
「……それとも」
「あなたは、もうあちらの物語を辿り終わって
此処に来たのかしら。」
「何かを期待して、こちらに来たのかしら。」
「いいのよ、言わなくて。私にあちらの物語を
知る権限がないだけなの。」
「でも、そうね。そうだったとしたら。」
「私、一人でも頑張って生きるわ。
あの子に救われた命で、時間だから。」
「だから、心配しないでね。」
10.28 ‹暗がりの中で›
「此処が暗いというならば」
「君は光の中にいたのさ」
「此処が明るいというならば」
「君は闇の中にいたのさ」
「この薄明が安心するなら」
「この薄闇が心地良いなら」
「それは否定されることでもないさ」
「生きやすい場所で息をするのさ」
10.27 ‹紅茶の香り›
「お茶言葉って無いのかしら」
カチリと鳴るティーカップ
胡乱な視線の先で笑う瞳
「四つ葉のクローバーにも枯れた薔薇にも
花言葉はあるでしょう?
それなら、茶葉にだって有って良いと思わない?」
「はぁ、そうね」
摘んだクッキーを舐めた指
壁に並んだ紅茶缶を一つ
「じゃ、あれ何て付ける」
「特別な時間」
「……あれは」
「あなたと一緒にいたい」
「本体の言葉パクってくんなよ」
「ふふふ」
ついと輝く小さなスプーン
別々の缶から混ぜられた茶葉
「それなら、あなたはこれに何て付ける?」
随分昔に作ったブレンド
ミルクでも砂糖でもレモンでも
どうにもならない香りだけの苦い茶色
好みの違う二人分を
無理矢理一つにした歪を
くるり乾いた皿に混ぜながら
「まあ、一つしか無いだろ」
冷たい指先から奪った葉々を
クリームに掛けて一口に仕舞う
喉を引っ掻く小さな痛みを
幸福そうに見つめていた
10.26 ‹愛言葉›
好きなんて愛してるなんて
そんな感情だけじゃどうしようもないよ
本当なんて真実だなんて
そんな言葉だけじゃどうにもならないよ
開けたいならきちんと言って
あの日確かに決めた一言を
君が確かに本物だと証明したいなら
10.25 ‹友達›
初めての握手は熱くって
びっくりしたのを覚えている
寒い日の握手は冷たくて
びっくりしたのを覚えている
暑い日の握手は乾いてて
びっくりしたのを覚えている
別れの握手は凄く強くて
びっくりしたのを覚えている
再会の握手は酷く繊細で
びっくりしたら君が笑った
10.24 ‹行かないで›
最初から素直になれていたならば
一緒に逃げてくれたかな
10.23 ‹どこまでも続く青い空›
生まれ落ちた日に温もりを
成長と痛みの夜に希望を
冒険へ踏み出す昼に輝きを
夢現に揺れる夕暮へ変化を
やがて遠く旅立つ光へ自由を
駆けて翔けて全うするその生へ
遥かな蒼より祝福を
10.22 ‹衣替え›
「祠壊したの?」
「掛布替えよとしたのに引っ掛かって壊れた」
「あらら、ばちぼこ怒ってない?」
「ばちぼこ怒られた。でも直したら良いって」
「……ちなみに今なんの作業中?」
「ロウソク。どうせならかっこいいドラゴンで
飾る夢を叶えたいんだって」
「……純和に?」
「純和に。」
「あと御神体はリボンでドレスにしたいって」
「純和に」
「純和に。」
10.21 ‹声が枯れるまで›
泣き喚いて
喉裂いて
有らん限りの声で
枯れ崩れる程に
叫んだ所で
前を向いた君には
どうせ届きやしないのだ
10.20 ‹始まりはいつも›
「私、君の事がね、」
一つ頷くと、残念そうに首を傾げる
「もしかして、毎回言ってるかしら」
一つ頷くと、不満気に首をひねる
「待ってて、たまには違う事言ってみせるから」
一つ頷く、散々に彷徨く視点と小さく開く唇
「そうだ、これならきっと初めてでしょ」
「絶対墓まで持っていく話だもん」
一つ頷く、やっと安堵したように笑う
囁く言葉は寸分違わず
365回目の今日も、同じ会話から始まった
10.19 ‹すれ違い›
駅に着いたと言ったのに反対口に出た
家にいるって言ったのに不在だった
目の前に居るって言ったのに誰もいなかった
わたしメリーさん
もう諦めていいかしら?
多分違う電話に掛けちゃったの
10.18 ‹秋晴れ›
「天高く馬肥ゆる秋と言いますが」
「はい」
「はいじゃねーんだわ何で痩せてんだよ」
「秋味ってあんまり新鮮味無くて……」
「果物にしろ魚にしろ色々あるだろ?」
「全部去年までに食べてるよ……」
「新品種とか新商品とか」
「どんだけ改良されたって、葡萄は葡萄の味しか
しないよ。他もね」
「……じゃあ普通の飯は」
「それこそ生まれてからずっと食べてる訳で」
「……おーけー食事強化プログラム入りまーす」
「やだーー!」
10.17 ‹忘れたくても忘れられない
大好きな友人がいた
自慢の友人だった
得意も苦手もあべこべで
だから何をしても楽しかった
知らないことを知っていて
知っていることを知らなかった
だから何を話しても楽しかった
大好きだった。大切だった。
だから、だから、そう、だから
最後に交わした言葉を、顔を、
例えどれほど苦しくても
真実どれだけ痛もうと
犯した罪の記憶の形を
絶対に覚えておかなければならない
10.16 ‹やわらかな光›
薄く陰る昼間のカーテン
煌めき落ちる緑の木漏れ日
努力を照らすデスクライト
安息の闇夜を満たす星の影
直射は強過ぎる僕らには
暗を纏う光が丁度いい
10.15 ‹鋭い眼差し›
君の瞳が好きだった
怜悧に輝く銀色が
真実を見抜く度に
鋭利に色を冷やすのが
本当に本当に好きだった
だから
「どうして」と問う名探偵に
笑って笑って向かい合う
重ねた罪状の数だけ冷えこぼれる
銀色の眼差しに刺されながら
「ごめんね。その目で見られたかったんだ!」
10.14 ‹高く高く›
「天に帰るって言葉聞いた時はビビったよね」
「わっかる、やり直しかと思ったもん」
「実際やり直し食らった組居たらしいね」
「あれなあ……小さいからって辞めといて
ほんと良かったわ…」
「やっぱり純物でないとね」
「ココ生殖体系分かれててまじ良かった!!」
「はいはーい。そろそろ時間だけど、
皆ちゃんとサンプル回収できたー?」
「大丈夫ー!」
「それじゃあ戻ろうか。向こう着き次第
解剖始めるから、純唯星型生物の特徴とか
復習しておいてね」
10.13 ‹子供のように›
電話で予定を取って
待ち合わせを決めて
ちょっとだけいい服で
鞄にいっぱいゲームとお菓子
ハイタッチで挨拶して
道中でジュースを買って
親の居ない部屋に入って
日が暮れるまで散々遊ぶ
ってことが
とある一定の年齢で
外見性別が異なる組み合わせで
それだけで適当な噂の種にされるの
本当に面倒な世の中だと思う
10.12 ‹放課後›
四葉があったよと掲げれば
私も見つけたと笑う声
オレンジに焼ける空の下
白詰草の原の中
三葉、三葉、三葉。の中
見付けた五葉、見付けた六葉
凄くないと掲げた先
二つ瞬いた目がふわりと笑った
一緒に押し葉にしようねと
橙が焼く手のひらに乗せて
夕日の焦げ付く帰り道
二度と会えはしなかった
10.11 ‹カーテン›
日差しを遮るレースの白
視線を遮る濃色の幕
世界を遮る髪の光沢
何も遮らず見つめ合えたら
良かったのにねと闇が遮る
10.10 ‹涙の理由›
ぽろぽろぽろと涙が溢れる
何でも無いよと君は言う
少しばかり眩しくて
痛んでしまっただけだと言う
ころころころと涙が零れる
意味は無いよと君は言う
邪魔なごみがごろごろと
痛んでしまっただけだと言う
はらはらはらと涙が落ちる
理由は無いよと君は言う
思い出した物語に心が
痛んでしまっただけだと言う
犠牲に目を背けずに
糾弾に目を逸らさずに
悲哀を全て飲み込んで
英雄がひとり泣いている
私の墓で泣いている
10.9 ‹ココロオドル›
休みに掛けてイベントに行ってきたのだと
同じ色ばかりのお土産を積み上げて言う
カメラロールはピカピカギラギラしていて
結構な頻度で手振れとミスショット
此処に誰がいて何を歌って
どれが美味しくておすすめがあって
話す様子があまりに楽しげで
それがなんだかいつもとても嬉しかったから
一欠片も興味のないアーティストに
いつの間にかとても詳しくなってしまう
10.8 ‹束の間の休息›
超長距離を、一日掛けて歩くイベントがあった。
きょうだいは、運動系の友達と共に走り、
ペットボトルだけで午前に帰ってきたらしい。
きょうだいは、文化系の友達と共に歩き、
景色とお弁当とお菓子とお喋りを楽しみ、
間に合わなくて車で回収されたらしい。
わたしは、ひとりゆっくりマイペースに歩き
お弁当の代わりに一口のおにぎりを、
お菓子で座り込まずに立ち止まって氷砂糖を含み、
のんびり午後に帰ってきていた。
全員用意が違い、全員楽しみ方が違うから、
不思議で面白いものだなと、思った事を覚えている。
10.7 ‹力を込めて›
それは例えば愛情で
それは例えば睦言で
それは例えば快楽で
それは例えば幸福であったけれど
それは事実上暴力で
それは客観的犯罪で
それは明確に苦痛で
それは赦されざる事だった
10.6 ‹過ぎた日を想う›
例えば指先が冷たかったこと
頬が赤くて熱かったこと
柔らかな色が好きで
かっちりした服が好きだったこと
酸っぱい味が嫌いで
果物だけは食べられたこと
広い空が好きで
狭い街中を楽しんでいたこと
音色ばかり残った声のこと
フィルターのかかった景色のこと
褪色された記録と
美化された記憶の
中で
まだ生かし続ける思い出のこと
10.5 ‹星座›
私の顔を知らないくせに
私の名前も呼べないくせに
地上の歓声は私を指差し
拙く直線を繋いでいる
時々瞬く光を
偶に果てる光を
稀に気付く目が有っては
太陽に隠されて尚騒いでいる
馬鹿な者達
愚かな者達
後世だ発展だと言っても
私達の世界に追いつけないくせに
まあでもそれでもその矮小が面白くて
あまり退屈しないものだから
死したあの日に空に上げられた事
ちょっとばかり許してあげないこともない
10.4 ‹踊りませんか?›
きらきらと輝くシャンデリア
パチパチ弾ける細身のグラス
ふわり優雅に時々ポップに
代わる代わる跳ね唄う音
一口サイズのケーキを頬張り
そばで優しく微笑む人に
尊敬し敬愛する先輩との
学生生活最後の夜に
少しだけ綺麗に気取って
泣きたいような緊張を隠して
私はこの手を差し出した
10.3 ‹巡り会えたら›
いつか君の執念が削れ果て
いつか僕の執着が崩れ落ち
そして君が僕以外と出会い
誰かと平穏に笑い合い
真に祝福されるべき幸せを得られたら
そうしたらきっと今度こそ
ただの友として向かい会おう
10.2 ‹奇跡をもう一度›
君と再び出会えた事
君と今度こそ手を取り合えた事
穏やかで平凡な日々の中
他愛無いことで笑い合えた事
長い生を最期まで隣に居れた事
僕がずっと願っていた事で
奇跡的な今生だと思ってた事
君がずっと叶えたかった事で
その為に何でも出来てしまった事
不意に現れたその異形が
代償だと嘲笑うまで
その全てを知らなかった事
10.1 ‹たそがれ›
黄昏は誰彼、
かわたれは彼誰、
その何方もが薄暗く、
出逢うヒトが誰であるか
確信できない明るさの時間。
だからきちんと誰が分かるまで、
見えた素振りをしてはいけないよ。
と、隣で手を繋ぐ君が言う。
全く見知らぬ君が言う。
酷く熱い掌が
大丈夫だと震えている。
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