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書く習慣アプリ忘備録 2024.6
「書く習慣」アプリにて、毎日出題されるお題を使用した小話のログになります。
SF(少し・不穏)多めとなりますのでご注意ください。
6.30 ‹赤い糸›
指切りげんまん
嘘ついたら
針千本
拳骨万回
小指を切って
それでも繫ぐ赤い色
小指同士繫ぐ
赤い血の橋
6.29 <入道雲>
遠く遠く伸びる一本道
果ての新緑より尚高く
白く聳る嵐の巨塔
そんな夢を見る僕達の
空は酷く遠く狭い
6.28 <夏>
音が聞こえる
セミの鳴き声
草葉のざわめき
気化する打ち水
軽やかな風鈴
喚く室外機
賑やかな歓声
滴る汗
封切られたボトル
音が聞こえる
生命賛歌の音
命限りに叫ぶ音
あるいはこの季節を
超えられぬ音がする
6.27 ‹ここではないどこか›
家の扉を開けたら冒険の始まりで
魔王になって倒されたかと思ったら
王城で勇者の誉れを受けた
小さな隙間には四つ足の猫になって
伝説を確かめに空駆ける龍になる
穴に落ちたら学校の帰り道
一人の筈がナニカに追われ
車の下に隠れ逃げたら
オープンカーで海風を受けた
てんでバラバラめちゃくちゃで
怖くてびっくりすることもたくさんで
目を開けたら全部砂絵のスクリーン
脳味噌は現世をなんだと思ってるんだか
6.26 ‹君と最後に会った日›
桜吹雪に霞みゆく君に
消えないでと髪を引いた
向日葵畑に隠れる君に
行かないでと袖を引いた
色付く葉々に迷う君に
一人にしないでと裾を引いた
白い無音に溶ける君に
一人で行かないでと足を引いた
でも
二度と戻れぬ覚悟をさせてしまうなら
飲み込んだ恐怖が笑顔を形作るなら
硝煙と血香の中で相対するくらいなら
甘ったるい我儘なんて噤んで
空が青く世界が美しい内に
この手を離すべきだった
6.25 ‹繊細な花›
触れれば散る様な儚さであれば
君は隣にいてくれただろうか
見えずとも明白な馨しさがあれば
君は隣で安らいでくれただろうか
甘く満たす果を粉を振り撒けたなら
君は隣で笑ってくれていただろうか
それでも私は凛と立つ
嵐にも折れぬ万年花
緑の影に誰をも守る
強く鮮やかな花でありたい
6.24 ‹1年後›
「あの日だって、最後まで楽しくて」
「でも在り来りに色褪せる思い出になると」
「……思ってたんだよ、馬鹿」
6.23 ‹子供の頃は›
眩しく温かな未知と
ちょっとだけ暗く怖く
美味しい楽しさと
苦手な嫌い
痛むような暑さ寒さも
柔らかな影に隠れて
伸ばされる手の柔らかさに
愛し合いされること
な
素敵な世界だと
思ってた
6.22 ‹日常›
ぺたりと机に頬をつけた。
窓から降り注ぐ日差しと賑やかなグラウンド。
目を閉じていれば今にも、
君がペン先で突付き起こしてくれそうな。
そんな柔らかな昼下がり、
だったら。
がらんとした教室で
荒れ放題の教室で
取り止めなく独り夜を待つ
太陽光に燃え尽きる人たちを
その悲鳴に耳を塞いで
6.21 ‹好きな色›
「夜みたいな色が良いの」
「暗いけど澄んでいる、重たくて華やかな色」
「それを」
「何という名で呼ばれ括られているのか」
「私にはどうも分からないけれど」
6.20 ‹あなたがいたから›
「愛ってなんだろう」
「守り支えるってなんだろう」
「君の為に何が出来るだろうって」
「この間まで何にも悩まなかったのにさ」
「一人なら何でもなかったのにさ」
「笑ったり泣いたり、楽しそうだったり」
「……あと、たまにはね、怒ってたりとか」
「そういう全部、君との全部」
「最後まで全部、傍で見ていたいって」
「……何だか照れくさいけどね」
6.19 ‹相合傘›
頭を傾けて空を伺う、その裾を引いた。
濡れるから、と引き込んだ傘の下、
僅か泣きそうに表情が歪んでいた。
雨が降ってるよ、と震える口元、
そんなの良いからとその目を覆った。
まだ降っているんだよ、と傾く頭、
それでも良いからと掬い上げた。
そんな事言うから、そんな事言うから、
ほら、罰が当たってしまったよ、と。
水溜りに泥を染めて、表情が消えていく。
可愛い可愛いてるてる坊主、
頸を落とされ雨に沈む。
6.18 ‹落下›
内腑のひっくり返る感覚
たった3秒前のような
あるいは15年は前からのような
風を泳ぐ袖口が
ずっと擽ったかったような
引き千切れるように痛かったような
目の前の景色より
脳内の光景が光速に過ぎて行くような
悔しさも苦しさも全部置いて
でも自由には程遠いような
そんな永遠のような
けどずっと刹那のような
そんな
潰、
6.17 ‹未来›
それは光り輝く美しいものでしょうか
誰もに万遍無く与えられるものでしょうか
カウントダウンに等しいものだったでしょうか
不公平に奪われ消費されるものだったでしょうか
あるいは
あるいは、
そうきっと、
航海の先、君にとっての宝島となる、
その未知を選び掴めるなら。
6.16 ‹1年前›
波が足跡を攫っていく
裸足の君は遠く見守る
水平線の沈黙を
深くに沈む墓標を
永遠に隣に並ばぬ脚を
君は見守る
遠く見守る
揺蕩い散りゆく花束を
透かし通して拾うことなく
6.15 ‹好きな本›
南総里見八犬伝が好きです。
暗い過去のある敵や光堕ちした味方も良いけど、
悪は悪、善は善な、完全無敵の勧善懲悪は
今時、逆に少なく思うので。
6.14 ‹あいまいな空›
「曇ってないか?」
「観測範囲の20%晴れてれば晴れらしいよ」
「つまりハズレの80%引いたと」
「まあそういうこと」
「曇ってないか?」
「雲一つ無い晴天って無いんだわ此方」
「まーじーぃ?」
「まじまじ」
「曇ってないか?」
「……まあ、これから氷河期になるんじゃない」
「っ、お前」
「まあ、雲の向こうから見物しといて」
「なんで……」
6.13 ‹あじさい›
移り気なのだと、振り返った口元は笑っていた。
雨によく似合うその花は、土で色を変えるからだと。
赤に紫のグラデーションが美しい中、
一つだけ鮮やかな青い花弁で立ち止まる。
少しだけ盛り上がった土と置かれた丸石。
桜が赤くなるのは迷信だけど、
酸性の土で青くなるのは本当だと。
そっと、静かに、手を合わせた。
6.12 ‹好き嫌い›
右と左、と問いかける。
右と答えた君が顔を顰めるから笑った。
赤と青、と問いかける。
青と答えた君が手を叩くから笑った。
一と二、と問いかける。
一と答えた君が跳ねるから笑った。
昨日と明日、と問いかける。
明日と答えた君が悔しげで笑った。
君と私、と問いかける。
答えられない君に私は笑った。
答えた私に君は泣いた。
それだけのことだった。
6.11 ‹街›
向日葵が咲いていた。
揺れる大きな集密の種子、一瞥して通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
暑さに項垂れる首二つ、一つも見上げず通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
散水の蒸気に慄く緑、憐れみも無く通り過ぎる。
向日葵が咲いていた。
向日葵が咲いていた。
誰も居ない私の故郷に
沢山の向日葵が咲いていた。
6.10 ‹やりたいこと›
「殺したいなって、死ねばいいのにって
思うこと、勿論有るよ」
「聖人君子の形したって人間だもの、
気に障ること位あるさ」
「でも、実現出来るかって言ったら
残念ながらそうはいかない」
「人を殺してはいけません」
「死を願ってはいけません」
「人を呪わば穴二つ」
「良心の呵責、刑期と影響、死後のその先」
「そういった諸々、いろんなことが総じて
最終的には想像や言葉だけで終わらせる為の
ストッパーになる」
「こういうのを、『教育の勝利』と呼ぶのかも
しれないね」
6.9 ‹朝日の温もり›
半覚醒のまま伸ばした手の先
仄かに暖かく空っぽの枕
すうすうと空洞の淋しい布団の中
誤魔化すように脚を擦り合わせる
耳を澄ませど声も足音も
他の部屋にいる気配すら無く
眩しさを言い訳に閉ざした瞼は
現実を見定める気力もなく
6.8 ‹岐路›
「ハブとマングース」
「猫と鼠」
「捕食関係草ぁ」
「天敵のお前が言うか」
「ハチとアカシア」
「……トマトとナス」
「は?なにそれ」
「接ぎ木」
「共生どころじゃねえの来た」
「健やかなる日も病める日も死せる日も一緒だぞ」
「おーんこれは根に持ってますねぇ……」
「盛大に破ったお前のせい」
「ぐうの音もない」
「大体こちとら…って」
「あー…順番来たねぇ」
「全く……そっちに着くまで待ってろよ」
「了解了解、盛大に目立っとくから見つけてな」
「お前が見つけろよ馬鹿、何年開くと思ってんだ」
「…はーい、大人しく寂しく独り身してますよーだ」
6.7 ‹世界の終わりに君と›
「……何してんのこんなとこで」
「見ての通り終末待ち」
サクサク頬張られたお菓子に半分程のペットボトル。
息を潜めた様な暗い住宅街で、そこだけ妙に平和だった。
「最後なのに家帰らないの」
「ちょっと前まで居たよ。皆寝たから抜けてきた」
「ははぁ成程、さては恋人とラストカウントしようと?」
「生まれてこの方居た事ないわそんなの」
くるり丸められた包装紙。地面に転がるゴミと裏腹に、
こんな時まで白い袋に片付けられていく。
「それじゃあなんでまた」
「質問ばっかじゃモテないよ」
「……兄姉皆恋人連れてきて酒池肉林」
「わぁおご愁傷様……」
かろと回された蓋、喉が動く一呼吸。
「流れ星を見に」
「はぁ?」
「どうせ最後なら目を閉じるんじゃなく、
最期まで全部見ていたいなって」
「……そっか」
6.6 ‹最悪›
ポコン、と音を合図に画面を開いた。
隣が拳を振り上げた風を感じつつ、
当然な気持ちで表示を見せる。
「当選したのか、おめでとう」
「有難うだけどそんな堂々と落選見せんな??」
「いつもの事だしな。一人で楽しんで来てくれ」
「お前……お前本当いつもそう……」
開かれたスケジュール帳、書き込まれた沢山の予定。
その殆どを共有しないままカレンダーを閉じる。
直前とは打って変わって机にいじける背中が、何処か可哀想でもあった。
「この手のイベントまじでお前と行けた試しないんだが?
運が悪いにも程があるだろ!」
「前半は完全同意だな」
「後半!後半も!」
「まぁ、そうだな」
カレンダーは殆ど白いが、一月後には最重要マーク。
暇な日は大概こうしてつるんでいると思えば、
一人秘密の買い物には行きにくい。
ましてこの手のイベントは、共に行くより興奮し切った感想を
聞くのが楽しいものだし。
だからまあ、個人視点で言えば運は決して悪くない。
悪くない、が。
「お前の友になる為に、一生分の運使ったんだろ」
「おま、お前まじ素面でなに?!」
独りのまま終わった前回に比べれば、
独りのまま終わらせてしまった事に比べれば。
「お前と出会えて良かったってだけの話」
「今そんな深い話するフリあったかぁ?!」
6.5 ‹誰にも言えない秘密›
内緒だよ
ないしょだよ
誰にも言ったらいけないよ
誰にもばらしちゃいけないよ
いけないよ
いけないよ
裏切ったらいけないよ
生けないよ
逝けないよ
ねえ、
お前、
聞いていたな?
6.4 ‹狭い部屋›
暗い暗い闇の中
華木の香りが揺れ満ちる
ぱちりぱちりはぜる音
指の先まで熱が包む
ゆるく撫ぜられた膜越し
やわく刻まれる鼓動の音
きっときっと覚えている
貴方に掛けた祈りの糸
6.3 ‹失恋›
「持ってない物を得る空想は出来ても」
「持ってない物を失う想像は難しいね」
6.2 ‹正直›
「正直者ね。美徳よ、確かに」
「でもね、社会に於いて利点かといえば、
必ずしもそうでは無いわ」
「子供に正直を望むのは、正しい道を歩ませる為」
「……子供の行動思考、その逐一を把握する為」
「言ってみれば、思い通りにしたい大人の傲慢よ」
「だから正直者の子供は喜ばれる」
「でもいざ大人として社会に出た時」
「社会が大人に望むのは、
最終的には他者を使える人になること」
「正直では無く、本音と建前を器用に扱う事」
「酷い話よね。それまで正しかった事が
正しくないって突然言われるようなものよ」
「まして、窃盗を蔑む口で技を盗めと、
そういう空気を読んで行動しろと言うのよ」
「そんな暗黙の了解で、皆が正しく大人になれると
……本当にね、馬鹿みたいじゃない?」
6.1 ‹梅雨›
「雨ですねえ」
「雨だねえ」
「でも強行したらしいよ」
「今更変えられないでしょ」
「でもねえ嘘か本当かは知らないけれど」
「前置きが長いよ」
「ジューンブライドも旧暦説」
「わあ」
「本来の月だと晴れてて良い感じという噂」
「なんてこと」
「嘘か本当かは知らないけど」
「自衛を重ねた」
「要らない知識調べるのだるい」
「それはそう」
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