234.唐辛子から辛みだけを除くことは可能なのか? 問題
「唐辛子は辛みづけのスパイスである」
昔からそう言われてきた。僕はあるときからそれに疑問を覚え、言い方を変えることにした。
「唐辛子は辛みだけでなく香りづけのスパイスである」
辛みよりもむしろ香りの方が大事、くらいの言い方をするようになった。
辛いのが苦手だから唐辛子を減らそうとすると、あの独特のローステッドな香りが減ってしまう。辛みを減らしたい、でも香りは減らしたくない。そういうときは、部分的にパプリカパウダーで代用することもオススメしてきた。
トルコへの旅をキッカケに唐辛子にうま味があることを確信。前から気になっていたことだけれど、現地でさまざまな料理に卓上の唐辛子(塩漬けのことも多いが)をふりかけてそう感じたからだ。
日本で唐辛子と呼ばれるもののほかに、ししとう、ピーマン、パプリカなどナス科(トウガラシ属)の野菜については同様のうま味がありそうだと思っていたから一人で納得した。それから、また僕は言い方を変えた。
「唐辛子は辛みや香りだけでなく、うま味も加えられるスパイスである」
唐辛子の捉え方は自分の中で徐々に変わり、重要度が増してきている。積極的に使いたい。でも、やはり辛すぎるものは苦手。だから、唐辛子から辛みだけを取り除きたいと思っている。
「唐辛子は種が辛い」
昔からそう言われてきた。僕はあるときからそれに疑問を覚え、言い方を変えるようになった。
「唐辛子は種と胎座が辛い」
胎座とはいわゆる軸の部分である。だからそれを取り除けばいいと考えていた。が、『とうがらしの世界』松島憲一著(講談社)を読むと、辛み成分となるカプサイシンを多く含むのは、種ではなく胎座と隔壁だとある。隔壁とは唐辛子の実の内側に(胎座とつなぐ形で)ついている薄皮のことである。種が辛くなるのは、種自体にはそれほどカプサイシンは多く含まないが、胎座と隔壁に含まれるカプサイシンが付着するから、とのこと。
それから、また僕は言い方を変えた。
「唐辛子は胎座と隔壁が辛い」
だから、それを取り除くことになるが、胎座はともかく隔壁を取り除くのは手間がかかる。なんとかならないだろうか。
石臼でスパイスを叩きつぶして(すりつぶすのではなく、叩きつぶす)作るクラッシュカレーを始めてから、生の赤唐辛子が手に入りにくい日本で、乾燥した赤唐辛子を水に浸して(戻して)から叩くプロセスを取っている。叩く前に気が向けば隔壁を取り除くが、やはり時間がかかる。
先日、『とうがらしの世界』著者である、信州大学教授・農学博士の松島憲一氏に会って話す機会があった。色々と唐辛子について教えていただく中に、唐辛子にはグルタミン酸のうま味があることと、もうひとつ、興味深い話を聞いた。カプサイシンは水溶性ではないが、アルコール分には溶け出すとのこと。
確かにスパイスの香気成分は水溶性と脂溶性に分かれる。カレーに使うスパイスの主な香気成分は脂溶性が多いため、水と煮るよりも熱した油脂分と合わせた方が成分が定着する。さらに脂溶性でも水溶性でもアルコールには定着するものが多いことも実感していた。「香りを定着させるならアルコール最強説」を自分の中に持っていたが、調理に使用する場合、アルコール分や独特の風味が邪魔になるため、加熱時の使い勝手が難しいと思っていたのだ。
そうか、唐辛子をアルコールにつければいいのか。
前提部分が長くなったが、唐辛子の辛味をどう除けるのかを実験してみることにした。4パターンを準備する。
●唐辛子辛み除去実験レシピ
【材料】
乾燥赤唐辛子 各5g
水 各50g
甲類焼酎 各50g
【下準備】
唐辛子の胎座と種を取り除き、ハサミで縦に切り開いておく。
【作り方】
以下の4種を冷蔵庫に12時間置く。
A. 隔壁を取り除いて水につける(隔壁無+水)
B. 隔壁を取り除いて酒につける(隔壁無+酒)
C. 隔壁を取り除かず水につける(隔壁有+水)
D. 隔壁を取り除かず酒につける(隔壁有+酒)
液体を各小さじ1/2程度テイスティングしてみる。
結果、BとDは強烈な辛さ、AとCはそれほど辛くない。順序でいえば、辛い順に「D→B→A&C」だった。実感値としては仮説が検証された。
↓
・ 隔壁に辛みは多く存在する。
・ 辛み成分は水ではなく酒に溶け出す。
今回は、苦労して隔壁を取り除いたが、隔壁があるかないかよりも水につけるか酒につけるかの差の方がはるかに大きいことがわかった。唐辛子の辛味を手間なく抜きたいなら種だけ取って酒につけるのが効率がよさそうだ。
とはいえ、「辛みだけを抜く」を達成できたとは思えない。浸水(酒)によって香りとうま味がどれほど変化するのかはまだ未知の世界だから。
水にせよ酒にせよ、クラッシュカレーを作るときには辛さ(香りとうま味)の調整用として残しておきたい。
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