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117.シナモンリーフをカレーに使う意味はあるのか?

シナモンリーフは、カレーにおける永遠の補欠である。ずっと前からそう思っていた。ずっとベンチを温めている存在。ベンチに入らなくてもいいんじゃないか、と思ってもいた。カレーを作るとき、特にインド料理の場合、インディアンベイリーフとも呼ばれるシナモンの葉をはじめに油で炒める手法がある。何度もそうやってきたが、ずっと疑問があった。
シナモンリーフ、入れなくてもいいんじゃない?
鍋に加える前に1枚を手に持ち、香りをかいでみる。無臭である。この香りのない乾燥した葉っぱを他の香り高いホールスパイスたちと一緒に油で炒める。そこになんの意味が? しかも、このシナモンリーフってやつは、でかいのである。大きいと手のひら大ほどのものもある。炒めるときに邪魔なのだ。
それでも僕は真面目に炒めてきた。炒めたところでナンの香りも漂ってこなかった。あるときから、「カレーにシナモンリーフを入れるのは、おまじないみたいなものだ」と言い聞かせることにした。おいしくなあれ、おいしくなあれ。
インドやスリランカ、インドネシア、沖縄などでシナモンの木に出会ったことが何度もある。まだ青い葉をちぎって揉んで香る。甘くいいシナモンの香りがする。あれにはいつも感動する。だから、そのまま持ち歩いたり持ち帰ったりして旅の間に自然乾燥させてみたりもした。いい香りは保たれたままである。このシナモンリーフならカレーに使う意味がありそうだ。そういえば、カレーリーフも同じ印象を持ったことがある。市販の乾燥カレーリーフは残念な香りで、カレーに使う必要性を感じない。ところが自家栽培のカレーリーフは、自家乾燥させると非常に香りがいいのだ。
鹿児島から半乾燥されたケセン(シナモンリーフ)が届いた。袋に鼻を突っ込んで香りをかぐとすばらしい香り。そこで、実験をしてみることにした。このシナモンリーフなら、カレーに入れる意味があるんじゃないだろうか。
イベントで80食ほどのポークカレーを作る機会があったから、使ってみることにした。カレーとは要素(プレーヤー)の多い料理である。野球の9人、サッカーなら11人だが、カレーはもっと多くのプレーヤーで成り立っている。スパイス5~6種、野菜4種、メインの具、水分、油、塩などを足しあげていけばあっという間に15種類以上のプレーヤーが名を連ねる。
そんな中でシナモンリーフがどの程度、仕上がりのカレーの味に貢献しているかを見極めるのは難しい。ベンチ入りはしているが補欠なのだ。普通なら出番がないシナモンリーフを特別な形で起用してその実力を判断してみたい。
まず、玉ねぎと塩、少量の油を使ってオニオンソテーを作った。水を注いで煮立て、煮込む前にシナモンリーフを加えて煮る。しばらく経ったら味見をしてみると、驚くほどシナモンの甘い香りが感じられる。すごい。やるな、シナモンリーフ。そこに表面を焼いた豚のかたまり肉を加えて1時間ほど煮込む。この時点で玉ねぎベースのシンプルのサラッとしたポークシチューのようなものができあがる。味見をすると、やはり、シナモンリーフが香った。
油にホールスパイス、にんにく、しょうが、トマト、パウダースパイスなどを順に炒め、カレーの素のようなペーストを作った。こちらは、ゆるぎないレギュラーメンバーである。強烈な香りを放っている。優しいポークシチューとこのレギュラー陣を混ぜ合わせ、ポークカレーを完成させる。炊いていたご飯と盛り付け、カレーライスを食べた。
すると、シナモンリーフは、しっかりと香っているのである。おおお。シナモンリーフ、カレーに使う意味、あるんだ! スタータースパイスとして油で炒める手法にはいまだに疑問が残るが、ちゃんと処理された香りのいいシナモンリーフであれば、煮込みの段階で加えることでやわらかく甘い香りが香ることが実感できた。
長年、彼のことを補欠だと思い込んでいた僕は、監督失格だったと言わざるを得ない。起用方法を工夫すれば、シナモンリーフも活躍するのである。

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