105.カレーをおいしくするトマトは生かホール缶か? 問題
スパイスでカレーを作るとき、トマトは心強い味方である。
炒めて脱水し、濃縮させれば、煮込んだ後に姿を消してうま味を醸し出してくれる。だからカレーにおけるトマトの扱いについてはよく知っておいたほうがいい。トマトという味方を活用するとき、アイテムとしては、かなり多岐にわたる。
↓
・生のトマト
・トマトジュース
・カットトマト缶
・ホールトマト缶
・トマトピューレ
・トマトペースト
・トマトケチャップ
まず、「正体のわかっているものでカレーを作りたい」という僕のポリシーからすると、何かしらの調味料が含まれていることが多いトマトケチャップは対象外としたい。正体のわかっているものだけで作られたトマトケチャップもあるが、「原材料:トマト100%」を基本として考えたい。
次に、「脱水してカレーのベースにする」という目的からすると、ごくごく飲めるようなトマトジュースも道のりが長く、なかなか目的を果たせそうもないので対象外。残ったものでカレーを作ると想定してみよう。
「脱水=加熱による濃縮」なのだから、最もそれが進んでいるのがトマトペーストだ。次にトマトピューレ。たとえば某メーカーのトマトピューレは3倍濃縮、トマトペーストは6倍濃縮と表記がある。それだけ製造工程で加熱をして脱水をしてくれている。だから、作りやすさでいえば、トマトペーストが最も楽、次がトマトピューレということになる。味も悪くないので、僕はこの2アイテムは相当気に入っていて使っている。ただ、使い慣れていない人からすると、ちょっとマニアックなイメージがあるのかもしれない。
メジャーなトマトといえば、生のトマトかトマト缶となる。
どっちがカレーに適しているのだろうか? 「そりゃぁ、生のトマトがベストでしょう」と思う人が多いような気がする。でも、そうでもないと僕は思っている。生のトマトが最適だと言い切るには、いくつかの条件を揃えなければならない。
↓
・そのトマトは、加熱に適した品種ですか?
・そのトマトは、品質がよく、旬で、おいしい味わいですか?
・それらを入手時に見極める自信がありますか?
・それらを脱水して濃縮する技術に自信がありますか?
すべてに「YES」と言える人は、生のトマトを使うのがベストだ。でも、少しでも自信のないポイントがあるのなら、トマト缶をオススメしたい。脱水の難しさは、カレーを作れば作るほど実感できるだろう。にんにく、しょうが、玉ねぎを炒めたところにトマトを加え、脱水してベースを作っていこうとしても、生のトマトを鍋中で加熱し、①温めて、②やわらかくして、③形をつぶして(水分を抽出して)、④鍋の外へ飛ばしていく、というプロセスをすべて自分で行うのは実は、かなり難しい。
その点、トマト缶は、いい。やわらかいし、手でにぎればつぶれるから、温めて水分を飛ばせばいいのだ。この差は実はとても大きい。さらにたいていの場合、トマト缶に使われるトマトは加熱に適した品種である。生でおいしい新鮮なトマトを使うよりもカレーをおいしくしてくれる可能性ははるかに高いと僕は思っている。
ちなみに、トマト缶には、ホールトマトとカットトマトの2種がある。(もう前からずっと著書などで語っていることだけれど)ほとんどの場合、この2種は原材料となっているトマトの品種が違う。缶に載っているトマトの写真を見てほしい。カットトマトは丸型で、ホールトマトは縦長型。ホールトマトの原材料は主にサンマルツァーノ種と呼ばれ、イタリア料理で活躍していることで有名なものだ。これは加熱に適していてうま味が強い。何度も作り比べたことがあるが、カレーのベースにするという前提なら、明らかにカットトマトよりもホールトマトのほうがおいしいと実感している。
だから、結論としては、「カレーのベースに使うならホールトマトがいい」と僕は思う。1年じゅう、安定したおいしさを約束してくれる。味方として常にそばにいてほしい存在だが、ちょっとだけ文句がある。
ホールトマトは、いわゆる“水煮”という処理をしている。この水煮という表現はよくわからないなぁと思う。水で煮ているのだ。水で煮る!? 加熱をしているのだから、水は湯になる。だから、水(または塩水)を使って火にかけてことこと煮た状態のことをきっと“水煮”というということなんだろうけれど、なんかしっくりこない表現だ。そのことを考えるときだけ、僕はトマトピューレに浮気したくなる。
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