filter through レビュー
このアルバムを作ったとき、相方chickiiにレビューを書いてもらいました。長年、音楽を通して繋がってきたchickiiならではのレビューだと思います。ぜひ、読んでみて下さい。
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アルバムタイトルの意味を調べてみると『染みとおる』とある。染色作品を連想もしたが、keiくんの作風そのものを端的に表現したタイトルだと直感した。日常の小さな出来事にクローズアップし、ソフトなサウンドで、淡々と普遍性を与えている感じがまさに『filter through』だと思う。
what filter through something (徐々に滲み出るもの)
それは個性。普遍性の中にある微かなゆらぎ、無意識に発信される生き様。それは朝の光。毎日繰り返される、夜明けから昼にかけての太陽の仕事。それは愛情。人の心をやわらかく包み込み、凝り固まった疲れをほぐすもの。勝手につらつら挙げたけど、そんなイメージを抱きました。
1.filter through
冒頭のインストはもはや様式美。環境音を加えたシンプルな作りが個人的に好み。(余計なものがなく、整理されていることがここ数年の商業デザインのトレンドなので)
2.窓の灯り
夜、窓の外に漏れる光。『滲み出る』イメージ。前半、トイピアノ?の音色がかわいらしい印象。後半、スチールパン?の音色がトロピカルな匂いを漂わせる。『僕は僕らしく歩いていくよ』という確信。それをゆったりと歌ってるのが、オッサンらしくていいと思う。お互い歳取ったもんだ。
3.空気のようなもの
浮遊感あるアレンジ。ややショッキングな歌詞を淡々と歌い上げるのも、昔からの様式美かも。空気『のようなもの』という言い回しが、揺れる心を的確に表現している。
4.ガーラ橋
実在する橋なんだね。(検索したらでてきた)ローファイなミックスに温かみを感じる。間奏の口笛、ウクレレ?とアコギだけのバッキングが歌を引き立てているね。
6.消えそうになる風景
暗くて明るい、軽妙で重厚、懐かしくて斬新…そんな二面性が相殺されないようにせめぎ合っている感じがした。
7.コンロの火
ちょっと物騒なタイトルの割に、軽快で優しい曲。『悪魔』にしても、こういう意外性が面白い。歌詞は深層心理の象徴?
8.ダム
ハイハットのリズム感が生々しい。淡々とした情景が美しいメロディに乗り、不思議なリアリティを感じる。サラッと流れていきそうでいかない、本当に不思議。
9.悪魔
どこか民謡のような雰囲気。間奏のポワポワが心地良い。
10.透明な膜
イントロの三線?ウクレレ?が独特の雰囲気。ローファイなサウンドの中、アコギのアルペジオが煌めいている。『空白の日』のメロディに似ていて、前作との連続性を感じる。歌詞がとても意味深な感じ。『透明な膜』がなんなのかピンとこなくて、『エヴァ』のATフィールド(心の壁を可視化したもの)?とか思ったけど、よく聴くと乳飲み子を包む膜なのか。ならばそれは『無償の愛に守られている』ことを意味しているのか。夢を描けない二人が、水と炎を絵の上で混ぜ合わせ、子供のように歩き出す。それはもう一度、透明な膜を信じようとしている姿なのか。相容れない二人が『絵』=創作活動という共通の領域を通して結ばれた。大人になってしまった部分と、子供のままの部分とがあって、それを互いに認め合い、許し合いながら共に暮らしている。
潔く、あるいは美しく幕を引いた過去のアルバム『Born』『MOTHERLAND』『CAMP ASERI』とは対照的に、前作『filter 』(最終曲『ウミガメ』)と今作『filter through』は、『前途に問題が立ち塞がっていること』を示唆して終わっている気がする。それは決して悪いことじゃない。俺は、未来は問題だらけだと思っている。だけど、それを知恵と経験で冷静に対処し続け、精神的・あるいは経済的に成長していくことが大人の役割だし、例えその姿が『子供のよう』であっても良いと思う。過去作品からの流れも含め、『大人になったアルバム』だと思いました。
chickii(AIRPORT)