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見ているもの【 #だんだん高くなるドライブ #毎週ショートショートnote】

「ねえ、さっきから人の話聞いてる?」

助手席に座る彼女が少し苛立った調子で言った。

「うん、聞いてるよ」

ハンドルを握る僕の耳には、正直彼女の話は入ってこかった。

それには理由わけがある。

バックミラーに越しに映る顔。さっきからその顔が僕に向かって微笑んでいるのだ。

車を路肩に止めて確認すれば良いのかもしれないが、それもできない。

今はちょうど真夜中の山道の登り坂。山の頂上にある温泉宿に向かう途中だった。日中は観光地を巡っており、いつの間にか日が暮れてしまい、急いで宿に向かっていた。

少しでも早く宿に向かった方が最善と考え、僕はアクセルを踏み込む。

僕は彼女の話に対して、適当に相づちを返すことしかできなかった。

だんだんと標高が高くなるに連れ、僕の鼓動も早くなる。

「ねえ!  前見てっ!」

彼女が突然叫んだ。

何を言っているのか。僕は前を見ている。

見ていると思っていた。

しかし、僕が見ていたのは、後部座席に座る笑顔の幼い娘だった。

そして彼女の言うとおり前を向くと、立派な温泉宿が佇んでいた。

だんだんと高揚感で溢れる。それは家族全員そうだった。


たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
まだまだこの文字数制限が難しいですね。
上手く伝えられるように精進します。


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