塩をかけすぎた恋【#ほんの一部スイカ #毎週ショートショートnote】
今日で最後だから、どうしても悔いは残したくなかった。
近づくだけでも心臓が痛くなる。声をかけるなんて、きっとできない。だから、真由美にお願いした。一生のお願い。
――いいよ。親友のためだもん。
空き教室でたったひとり。扉が開くのをじっと待っていた。
――これ、お願いね。
手紙。自分の気持ちを声に出すのは、きっと無理だから。
――ちゃんと、返事はするように言っておくから。
真由美は心強い。彼女が親友で本当によかった。
――ありがとう。
教室の扉が広く。そこには甲斐君がいた。
まず、来てくれたことが嬉しくて、私は頭を下げた。
「手紙、読んだよ。返事はちゃんとしろって真由美に言われたからさ」
本当は今すぐに顔を上げて、甲斐君の顔を見たいのに、それができなかった。怖かったから。
「……それで……へん」
「ああ、うん。……ごめん」
そっか。そうだよね。
溢れ出した涙と鼻水で、溺れているぐらい苦しかった。
でも、このままでいても申し訳ないと思い、なんとか作った笑顔で私は言った。
「……ありがとう。私、ほんの一部スイカになってたみたい。塩で甘くなるみたいな。考えが甘い的、な。……なんてね」
私の恋は、甘くない。塩をかけすぎたみたい。
(498文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
今回は文字数がどうしても削れずに結構オーバーしてしまいました。一通り書き終えてから、文字を削っていく方法が良くないのかもしれない。
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