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耳障りな挨拶【#イライラする挨拶代わり #毎週ショートショートnote】
ある日、夢をみた。
彼の両親に結婚の挨拶をするという夢だ。
彼は資産家の一人息子で、厳格な両親に厳しく育てられたという。特に継母は礼儀作法に厳しいとのことで、私の緊張感は人生で一番といっても過言ではなかった。
私の手には継母が好物という手土産がある。彼の話では、それを渡せばきっと喜ぶというが、どうしても私の中では不安が拭えなかった。
居間に案内され、私は早速挨拶代わりに手土産を渡した。
「つまらないものなら、いらないわよ」
怪訝な表情で、冷たくあしらわれた。その場が凍り付いた。気まずい空気の中、彼が説得するも効果がない。
しばらく沈黙が続いた。畳に鎮座した手土産が虚しく見えた。
すると、部屋の中に一匹の蚊が侵入してきた。蚊にとってこの空気などお構いなし。そしてなぜか、私の顔の回りで嘲笑うかのように踊っている。
そこで目が覚めた。
耳障りな羽音は、今も耳元で聞こえてくる。外はまだ暗い。そして蒸し暑い。
まったくイライラする挨拶代わりだわ。
(413文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
嫌な思い出は、忘れたくてもなかなか忘れなれないもの。夢で思い出させられたらもっと嫌ですね。