パターン・ランゲージを使ったチームワーク講座の話
はじめまして。Airitech株式会社 DXサービス推進1部 トラブルシュートグループの三宅と言います。
今回は、先日(2023年12月8日)社内で実施した、「コラボレーション・パターン for Team Building」を使ったチームワーク講座について話をしてみようと思います。
この記事が、プロジェクトを進める中で重要となる、チームワークを円滑にするための一つのアプローチとして参考になれば幸いです。
この講座を始めたきっかけ
複数のメンバーをまとめてプロジェクトを進める場合、”複数のメンバーをうまくまとめてチームを構築して、プロジェクトを進められるかが重要になる”ということは、マネージャーやリーダーの経験がある人であれば、身に染みてわかっていることだと思います。
しかし、実際にマネージャーやリーダーになってチームをまとめようとしても、なかなかうまくいかず、苦労することが多いと思います。
実際にうちの部署内でも、チームがうまく回っていないケースを時々見かけることがあり、これが改善できれば、より良いものが生み出せるチームになるのにな…という思いがありました。
そこで私が以前から注目していた、パターン・ランゲージを使った組織改善やチームビルディングについて学んでいくことで、より良いチーム作りができればと思い、この講座を始めました。
チームワークの難しさ
まず、チームを組んでプロジェクトを進める上で重要になるのは、チームワークだと考えます。
ここでいう「チームワーク」とは、あるプロジェクト(組織)に属する複数のメンバーが共通の目標(ゴール)を達成するために、お互いが協調しながら進める共同作業のことを指します。
そしてリーダーは、チームワークのための人間関係を築きながら、プロジェクトを進めることになりますが、大体次のようなことで頭を悩ますことになると思います。
リーダーの意図や指示がメンバーにうまく伝わらない
問題のヤバさやリスク・重さが他のメンバーに伝わらない
メンバーが作業の指示待ちになってしまう
メンバーが、チーム内で自分がなにをすればいいのかが分からない
最初に伝えたゴールと違うアウトプットが上がってくる
etc…
少なからずリーダーを経験したことのある人であれば、大体経験していると思います。
このようなことに頭を悩ませている状況のチームは、大体
チームで何か結果を出そうとしても、それぞれの強みやスキルを足し合わせるだけで、分業のようになってしまいがちである。
チームワークのやり方を工夫しているつもりだが、個人の作業結果のみのアウトプットとなり、+αが生み出せない。
チームに一体感がなくバラバラになってしまう。
という感じになっていると思います。
このような状況から抜け出す方法が書かれている、マネジメントやチームビルディングの指南書というのは世の中にたくさん出ていますが、大体
メンバーがプロジェクトにコミットするように導け
メンバーが自発的に行動するように導け
メンバーとの間の信頼関係を築け
メンバー同士のコミュニケーションを促せ
etc..
という話になっていると思います。
実際に私も、昔チームを率いてリーダーやマネージャーをやった経験があり、上記にあるような指南書を読んでは「確かにその通り」だと思い、その指南書を参考にしながら実践したこともありましたが、なかなかうまくいきませんでした…
なぜうまくいかないのか?…と色々考えたのですが、その実践に必要な知識のほとんどが、実は”人の経験”に基づくものであり、言語化することが難しい”暗黙知”と言われる知識なのではないか、ということに気が付きました。
”コツ”といった方がわかりやすいかもしれません。
ちなみに、”暗黙知”の対義語として”形式知”があります。
この”形式知”は、マニュアルやデータとして明文化・言語化することが可能な、客観的な知識のことを指します。
例えば「料理のレシピ」のようなものが形式知になります。
そして料理の火加減調整や大根のかつらむき、寿司の握り方といったものが、”暗黙知”になります。
こういった”コツ”をどうやって身につければいいのだろうか…とか、自分の経験を他の人にどうやって伝えればいいのだろうか…と、色々模索する中で、次から話すパターン・ランゲージというものに出会いました。
チームワークのコツをパターン・ランゲージで伝える試み
こういったコツを伝える手段の一つとして、建築家のクリストファー・アレグザンダーが提唱したパターン・ランゲージという知識記述方法があります。
プログラミングの世界では”デザインパターン”が有名ですが、このデザインパターンは、パターン・ランゲージの記述方法を利用してソフトウェア設計者が発見し編み出してきた設計ノウハウ(コツ)を記述したものになります。
スクラムやアジャイルの世界で有名なジェームズ・コプリエンも、パターン・ランゲージの記述方法を使って”組織パターン”という、ソフトウェア開発を行うチームの在り方や、より良い結果に向かう組織にするためのコツについて書いています。
この本は、プロジェクトマネジメントを行うマネージャー向けの内容になっています。
チームワークのコツとしてのコラボレーション・パターン
パターン・ランゲージをうまく使って、自分の抱えている問題を解決できないだろうか…と色々模索している中で、慶応義塾大学SFCの井庭崇教授のパターン・ランゲージへの取り組みに出会いました。
10数年前になると思いますが、井庭教授が学生と一緒に作った「ラーニング・パターン」に出会って「パターン・ランゲージにはこういう使い方もあるのか」という共感というか感動したのがきっかけでした。
そのあと、学生さんがチームを組んで研究を進める中で必要になるコツをまとめた「コラボレーション・パターン」が発表されました。
これは仕事でチームを組むときも有効だと思い、前職で社内に広めようとしましたが、意図がなかなか伝わらず(過去に実績がないという感じの理由)、そこでは活かすことができませんでした。
今の会社はそういうことに対して寛容なので、今回実践してみることにしました。
コラボレーション・パターン for Team Buildingとは?
「コラボレーション・パターン for Team Building」は、先ほど説明したコラボレーション・パターンを企業のチームビルディングにマッチするようにブラッシュアップしたものになります。
今回の講座は、このコラボレーション・パターン for Team Buildingを使って行なっています。
コラボレーション・パターン for Team Buildingの特徴は、以下のようなものです。
より良いチームをつくるためのコツをパターン・ランゲージとして24のパターンにまとめ、そのパターンを学ぶ(体験する)ためのワークショップで利用できるカードとしてまとめたもの。
一枚のカードには、チーム内で発生しがちな問題、チームワークを生み出すためのソリューション、具体的な実践例、そしてその結果どうなるかという情報が記載されている。
ただ単に作業をこなすだけのチームではなく、チームメンバーが自発的に協力し合う関係(コラボレーション)を作りながら、より創造的(クリエイティブ)なチームを作ることを目標にしている。
カードに書かれているパターンとコツをきっかけにして、チームをより良くするためにはどうしたらよいのだろうか?、ということをメンバーと一緒に考えたり共有したりする。
次に、このコラボレーション・パターン for Team Buildingについて、簡単に説明します。
24のパターンとグループ
次に、コラボレーション・パターン for Team Buildingにある24のパターンと、そのパターンが使われるシーンや目的に沿ったグループについて簡単に説明します。
※ここでは、パターンごとの説明は割愛します。
▪️独創的なチームを作る
このコラボレーション・パターンが最終的に目指しているチームの形に近づくためのパターンのグループです。
メンバーが協調して新しいモノを生み出すことのできるチームをつくるにはどうしたらいいのだろうか?という視点の6つのパターンになります。
▪️成果を出せるチームを作る
多分、現場でプロジェクトを進めているリーダーやマネージャーが一番注目するであろうパターンのグループです。
このグループには、チームで成果を出すために必要な、メンバーが自発的にプロジェクトにコミットし、チーム内で協調し合うためのコツが、9つのパターンとしてまとめられています。
▪️共に新たな価値を生み出す
チームで新しい製品やアイデアを生み出すためのパターンについてまとめられたグループです。
より良いもの(結果、品質)を生み出すためのコツが、6つパターンとしてまとめられています。
▪️創造する力を磨き続ける
チームやメンバーが新しいものを作り出す(創造する)力を身につけていくためのパターンについてまとめられたグループです。
メンバーの成長をチームとして促し、それを継続するためのコツが、3つのパターンとしてまとめられています。
カードの読み方
次に、カードの読み方について簡単に説明します。
まずはカードの表面について。
表面には、上の絵にあるように、カードに書かれているパターンが属するグループとパターン名称、そしてそのパターンを適用するきっかけとなる、チームの中で起こりやすい問題と、その問題を解決するためのコツやヒントが書かれています。
次はカードの裏面について。
裏面には、表面に書かれているコツやヒントから考え出される実践方法の例が書かれています。
ここの”実戦例”を参考にしながら、”得られる結果・効果”に書かれている方向に向かうための、自分たちのチームに適した実践内容をメンバーと一緒に考えます。
この実践内容を一緒に考えるというプロセスの中で、”暗黙知”であるコツを共有するという効果が生まれます。
実はこの効果を得ることが、このチームワーク講座を実施する一番の目的だったりします。
実施したチームワーク講座の内容について
かなり前置きが長くなりましたが、ここから実際にコラボレーション・パターン for Team Buildingを使った講座の内容について説明します。
チーム分け
今回は、4人1チームの構成で2チーム作り、そのチームごとに1つのコラボレーション・パターン for Team Buildingを配って講座を行いました。
1チームは、大体4〜5人ぐらいで構成するのがバランスが良いみたいです。
今回の講座では、パターン・ランゲージを使ってチームワークに必要な”経験則”という”暗黙知”の共有と理解を深めることを目的にしているので、リーダー経験の長い人と短い人が均等に分かれるよう、チームを分けました。
各自が一つのパターンについて話してみる
まず最初は、ウォーミングアップとしてパターンカードに軽く触れてもらえるよう、各自が気になるパターンカードを1枚選んで、それについて自分の考えや経験などを交えて、他のメンバーに話してもらうということを行いました。
時間配分は、1つのパターンを選ぶのに1分、話すことを頭の中でまとめることに1分、各自が話すのに2分ぐらいを割り当てました。
下の写真が、実際にパターンカードを選んで、各自がパターンについて話している風景になります。
最初は選ぶのに悩んでいるようでしたが、カードの表面に書かれている問題やコツ・ヒントを読んでいくうちに、なんとなく意味というか意図が掴めてきたようでした。
各自がパターンカードを選んだあと、そのパターンについてどういう考えや感想を持ったかを話せるように考えてもらい、一人づつ順番にチームのメンバーに話をしてもらいました。
各自がパターンについて説明したあと、他のメンバーからの感想や経験談、自分のチームの現状についての話をしたりと、そのパターンをきっかけにした小さなディスカッションが始まりました。
一人当たり2分と時間を決めていたので、話し足りない感じの人もいましたが、パターンの深掘りについては次の講座でやるのでその辺で…という感じで止めることが必要になるぐらいに、話し合いが盛り上がっていました。
パターンカードという目に見える形のものを使って話し合いを行うので、途中で話の方向がずれることなく、話がしやすい感じでした。
また、普段から言葉にうまくできていなかったチームに対する問題意識を、パターンを使って言語化して、それを他の人と共有することができているようでした。
ちなみに、今回の講座はリーダー、サブリーダーを対象に行ったので、「成果を出せるチームを作る」グループのパターンが多く選ばれていました。
チームで、一つのパターンについて議論してみる
ウォーミングアップで、パターンカードの使い方に慣れてきたので、次は1つのパターンカードをチームで選んでもらい、そのカードのパターンについてチーム内で議論をしてもらいました。
ひとつのパターンの議論を、大体10分で行う感じで進めました。
実際に一つのパターンカードを前にして、そのパターンについての議論が始まったのですが、思っていた以上に議論が白熱して、10分では消化不良になりそうだったので時間を延長して、そのパターンについて深掘りをしていきました。
具体的に、どんな感じの議論になったかというと、例えば「自発的なコミットメント」について議論されたのですが、この「自発的なコミットメント」にある問題とコツ、それに対するアクションについて話を進めていくうちに、そもそも何が問題でコミットメントできていないのだろうか?という話になり、そのポイントが明確にできなくて具体的なアクションに落とし込むことができなくなっていました。
そこで、パターンは単独で機能するものではなく、パターンの間には相互に関連性があり、その関連するパターンから解決策を導き出すことができるという話をしました。
そこから、「貢献の領域」パターンにある”自分をどこで活かせるだろうか”を考えられるようにすればコミットできるようになるかもしれない、「感謝のことば」パターンにあるように、やってくれたことに対して感謝や称賛をすることでコミットするモチベーションが上がるかもしれない…などなど、関連するパターンにも触れながら、チームワークをつくる(チームビルディング)コツについて、より深く議論することができるようになり、後半はかなり白熱するようになりました。
実際にやってみた感想
コラボレーション・パターン for Team Buildingを使って、実際に講座をやってみた感想は、以下のような感じになります。
パターンカードをきっかけにして、各自の中にある経験という”暗黙知”を言語化して、そのことについての考えや経験、抱えている課題について明確に伝え、共有することができるようになった。
パターンカードの内容について議論するため、話が発散せずに議論が進んだ。この手の議論をすると、各自の経験内容や想いの違いから、論点が少しづつずれていき話が収束しない傾向になるが、そのようなことにならなかった。
パターン名で話を進めるようになるため、短い言葉で考えを正しく伝えられるようになった。これはデザインパターンでも同じような効果があり、パターン名を伝えるだけで、設計の方針を正しく共有することができるようになる。
私が当初思っていた以上に盛り上がり、意図がうまく伝わって良かった、という感想です。
参加メンバーから、今回の講座の感想をもらったので、いくつか抜粋して紹介します。
他のメンバーの感想も読んだのですが、この講座を開催したきっかけや考えをしっかり理解してくれていて、開催してよかった、と思いました。
次のステップ
今回の講座は、リーダークラスのメンバーを対象に実施しました。
理由は、今回の講座で経験したことを、「コラボレーション・パターン for Team Building」を使って各自のチームのメンバーと共有してほしいという気持ちがあったからです。
なので、まずは今回の講座に参加したメンバーが、今回経験したことを自分のチームで実践して、各自のチームにマッチしたチーム作りを進めてもらいたいと考えています。
いずれは部署を跨いで、この講座を開催できればいいなと考えています。
以上
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