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今の積み重ねの先にある未来

川コース 第1回 6月4日~5日

今年も自然環境リテラシー学がついにスタートした。私にとっては5年目の自然環境リテラシー学(以下、リテラシー)の実習である。

今年度ははじめてマリーナ河芸さんの敷地をお借りして実習を行った。今回は今年度初回のリテラシーでもあるので、リテラシーを初めて受けてから5年経った今、『なぜ私はこの活動を続けているのか?』『私が自然環境リテラシー学を通して、やりたいこと、みんなに伝えたいことは何なのか?』を実習を振り返りながら改めて考えてみようと思う。

まずは、はじめましての受講生と自己紹介をした。みんな少し緊張した様子だったが、好きな動物を聞き、話を広げるとニコっと笑い返してくれた。そんな受講生たちの姿をみていると急に懐かしい気持ちになった。私も5年前は実習を受ける側だったのだ。カヤックに乗る、自分でテントを張って眠る、やることすべてがはじめてで戸惑いながらも、普段の生活では感じない何かが始まる気がしてワクワクしていたのを思い出した。私が1年生だったころのリテラシーのレポートには
『今日はどんな出来事に出会えただろう?もしかしたらその出会いはいつか私の将来を大きく変える出会いだったのかもしれない。たとえ今はわからないとしても。そうした奇跡の連続の先に私の未来がある。』
という言葉がある。5年経った今、あの時の直感は間違っていなかったと思える。事実、この大学でこの実習に出会ったことで、私の人生は大きく動かされることになった。あの時は、まさか自分がその先もずっとこの実習に参加したり、カヤック体験でインストラクターをすることになるなんて思ってもいなかった。実際、卒業しても尚、この実習に関わり、自分の人生のひとつの目的となっている。

カヤックに海に出ると、刻一刻と自然の状態が移り変わっていく。その変化を自身の身体で捉え、その場でどう動くべきかの判断に迫られる場面にたくさん直面する。そうした経験を通して、自然との向き合い方はもちろんのこと、周りの人の状態に常に気を配ることができるようになっていったように思う。例えば、今回も10時頃と13時頃に波が高くなるとの予報が出ていた。その予報をみて、次の日の出艇時間を早めたのが功を奏し、私たちは波が高くなり、海が荒れる前に陸に戻ってくることができた。こんな風に自然と対話する力を身につけていくわけであるが、それと同時に人の気持ちの変化にも敏感に気付けるようになったように思う。自然も人もじっくりと向き合うことが大切で、そうするとみえてくるものがある。人の気持ちというのは海に似ている。その日によって移り変わっていくし、同じようにカヤックを漕いでいるはずなのに海況が違えば進み方が異なるように、その時々の気分でこちらとしては同じ対応をしているつもりでも、相手には意図せぬように思いが届いてしまったりする。自然と付き合うことは人との関わりとまさに共通点がある。

波の高さがうかがえる一枚

今回は受講生にとっては第一回目のリテラシーで、カヤックに乗るのも初めての子が多かった。そんな状況で行ったグループレスキュー訓練。足がつかない海に入るのは初めてだった子もいたようだが、一度海に落ちてみることで、大丈夫なことがわかり怖くなくなったとの話を聞いた。人は経験したことがないことには恐れを感じる。でも一歩踏み出してみると、思ったよりも大丈夫だったりする。この一歩目を踏み出すのが難しいわけであるが、自然は私たちにその大事な一歩を踏み出す力をくれるのだ。スタッフとして活動していると、このような誰かの変化を目の当たりにする機会がとても多い。海を怖がっていた子が笑顔でカヤックに乗れるようになったり、服が汚れるの気にすることなく浜で寝転んで『砂ってあったかいんですね!』と話しかけてくれたりする姿をみるのがとても嬉しい。この活動をしていてよかったなと思う瞬間である。

こうやって立ち止まって、なんで自分がこの活動を続けているのかを考えると、やはり私は自分がこの実習を通して変わったのと同じような機会を次は他の誰かにもつくるお手伝いができたらなという思いがあるのだと思う。私だって5年前の実習が後の自分にここまでの大きな影響を及ぼすなんて思いもしなかった。だから、その時にはわからなくても後から振り返ったときにあの時のこの体験があったから、この道を選ぼうとか、そういう風に思ってもらえるような時間をつくれたらなと思っている。少しでも多くの人に自然やカヤックを好きになってほしい。この実習を通して、大切な仲間に出会ってほしいというのが私の願いである。

このような時間をつくるために私が実習中に心がけているのが、本音を言い合える関係性を作ることである。他のスタッフメンバーとの信頼関係はもちろんのこと、はじめて会った受講生との関係づくりも大切にしている。そのため、『今この人は何を考えているか?』『どう声をかけるのがよいのか?』を常に考えていた。特に海上やカヤックから陸に上がってからの声かけを大切にしていた。具体的には『カヤックには慣れた?』とカヤックに乗っている時に話しかけたり、陸にあがってからも『波怖かった?』などと声をかけていた。このように信頼関係を築いていくことは、一見全く関係がないように思えるが、実習の安全な実施のためにも非常に重要である。なぜなら、本当は体調が悪いのにそれを言い出せない関係だったりすると後に大きな問題を引き起こすことがあるからだ。だから自分からまずは声をかけたり、自分の気持ちを素直に伝えることを大切にしている。受講生だからとか先輩だからとか、そんなこと関係なく、それぞれが思っていることを伝え合える関係でありたい。先輩スタッフたちはもちろんはじめての受講生よりは経験値があるかもしれない。でも、私たちだって完璧ではないし、未だに自然を前に判断に困ることなんてしょっちゅうである。だから受講生と一緒に学んで、これからも成長していきたいなと思う。カヤックに慣れてしまっている私と違って、受講生はとても感受性が豊かである。彼らの言葉に学ばせてもらうことがたくさんある。波が高くて出艇が怖いという感覚。グループレスキュー訓練で海に落ちる恐怖。カヤックに乗り、海を身体で感じたときの感動。自然と向き合うのと同じように、彼ら一人一人の声に耳を傾けられる人、それに気づける人でありたいと思う。

このようにして新たに出会った仲間と今年はどんな冒険ができるのだろうか。今からとても楽しみである。一回一回の実習、その時しか訪れない時間を大切に過ごしていきたい。

今回お世話になった実習場所:マリーナ河芸


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