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【大学教育における生成AI】意図を正確に反映!精度の高い教育コンテンツ動画制作ガイド

割引あり

はじめに

この記事では、生成AIを活用して教育コンテンツ動画を作成する方法をお伝えします。私自身が大学で授業をする立場の人間ですので、大学生を対象とした授業で使う動画を想定しています。ですが、教育コンテンツ動画を作りたい人全般に役立つ内容ではないかと思います。授業動画を作るという点では変わりはないので。

生成AI活用というと、全自動で動画を作成することを想定されるかもしれません。でも、現状ちょっときっついです。
なぜなら、全自動の講義動画は、正しい情報なのかという最も重大な問題があるし、情報は正しそうだけど意図どおりの内容にならないこともありえます。ようするに、「そこじゃない感」が強い出力結果なんですよね
あと、いろんなタイプの受講者がいるのが普通です。視覚優位の人のために文字情報が示されている必要があるし、聴覚優位の人のためにわかりやすい説明がされている必要があるし、説明のしかたも受講者の注意をひくような上手な説明である必要があります。そうした意味で、多様な受講者を想定した動画にしたいわけです。

そのため、全自動よりは手間がかかるけれども、生成AIを活用して、以下の3点を考慮した動画を効率よく制作するやり方を解説します。

  • 正確な情報に基づく精度の高い動画である

  • 意図(伝えたいこと)を正確に反映した動画である

  • 多様な受講者を想定した動画である

教育コンテンツ動画の重要性と効果

そもそもなぜ教育コンテンツ動画に焦点をあてたのか?
いろいろと理由はありますが、大学で授業をする立場から、以下の3つを取りあげます。

1 多様な授業形態に対応できる

GIGAスクール構想に代表されるICT教育の推進もあり、ウェブを活用した教育コンテンツは以前から注目されております。便利ですからね。
さらに、2020年頃のコロナ禍でオンライン授業(遠隔授業)をせざるを得なくなってからは、大学においても、オンライン授業が活用されています。
オンライン授業といっても、教室以外の場所から学生がインターネットを通して授業に参加するリアルタイム型もあれば、授業の内容を動画にしたものを学生が後で視聴するオンデマンド型もあります。
対面授業、リアルタイム型、オンデマンド型のどの形態でも対応できるのが動画なんです。だって対面授業やリアルタイム型であっても、動画を流したってかまわないわけですから。
そのため、教育コンテンツ動画は、今後さらに活用されると思います。

2 合理的配慮への対応

2024年4月1日から、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。私立大学においても、義務化されました。
対面授業を基本としている授業であっても、合理的配慮の求めがあったら、授業の到達目標等からはずれない範囲で、その求めに対応する必要があります
オンライン授業は、合理的配慮への対応の最有力候補的な位置づけにあります。特に、オンライン授業の中でも、オンデマンド型の方がニーズがあるし、上述したように、オンデマンド型で使用する教育コンテンツ動画は、リアルタイム型で使用してもかまわないわけです。そのため、授業の内容を動画にしておけると、合理的配慮に対応しやすくなるわけです

3 動画であることのメリットがある

私は対面授業においても、授業内容の説明は動画で行い、学生に視聴させています。そのうえで、必要に応じて口頭説明を加えています。私なりに、教育コンテンツ動画には、以下のメリットを感じています。

①授業内容の説明を動画にまかせることで、個々の学生の様子を確認できる
説明を動画にまかせてしまえば、戸惑っている学生に個別に声をかけたり、集中できていない学生に集中することを促したりすることができます。

②説明の内容を客観視できる
自分で口頭説明していると、ちゃんと説明できているかどうかがわからなくなります。その場その場で、「もう少しここを説明したほうがいいかも」と考えてしまって、くどくどと説明してしまう、なんてこともしょっちゅうです。逆に、説明不足に気づかないこともありますね。
しかし、授業内容を動画にしておくことで、その説明を客観視できます。そうすると、説明の不足部分などに気づくことができ、その部分を口頭で解説するといったことができます。
また、説明の改善点に気づきやすく、動画を修正することで次回からはよりよい動画にできるわけです。
なお、動画を修正するといっても、この記事に示したやり方であれば、動画の「撮り直し」をする必要はありません

③動画であれば再利用できる
動画にしておけば、当然再利用できます。授業の最初のころに説明した内容を後でもう一回説明したいとか、関連する別の授業で説明したいというときに、使い回せます。
また、動画を一定期間公開するという形をとっておけば、学生が授業内容の復習などのためにもう一回みたいとなった場合にいつでも視聴できます。

④趣味的な意味でも使えるかも…
私はやっていませんが、自分の講義を世の中の多くの人にみてほしい、あわよくば儲けたいと思っている先生がいるかもしれません。動画にしてネット配信するという活用もありますね。

動画制作の準備

では、実際に動画制作の説明をしていきます。
動画制作には、生成AIを含めていろいろな無料ツールを使っていきます。ただ、その前段階として、動画制作の準備が必要になります。というより、動画制作の準備段階で行うことが、質の高い教育コンテンツ動画を作るためには不可欠です

では、実際に教育コンテンツ動画のサンプルを作成しながら、解説していきます。

1 ターゲット視聴者の設定

教育コンテンツ動画を作る場合、視聴者がどのような人なのかを把握することが大切です。視聴者の年齢層、予備知識、興味関心など。これらによって、コンテンツの内容やレベルが変わってくるからです。
大学の授業であれば、学生が対象になります。その人たちが初学者なのか、基礎的な部分はすでに学んでいるのか、といったことを考慮します

ここで作成する教育コンテンツ動画のサンプルでは、ターゲット視聴者を以下のように設定します。

ターゲット視聴者の例

小中学校の教員免許状の取得を目指す教職課程の学生を対象に「生成AIの教育活用」を講義する。

2 学習目標の明確化

動画を通じて達成したい具体的な学習目標を決めておきます。
動画によって何を学んでほしいのか、視聴した後にどのような状態を達成してほしいのかといったことです。また、試験を行うのであればそれに合格できるように目標設定が必要です。
大学の授業であれば、「到達目標」にあたる部分です

教育コンテンツ動画のサンプルでは、学習目標を以下のように設定します。

学習目標の例

小中学校の生徒が、生成AIをうまく活用できるように、生徒にどのような力を習得させるとよいのかを説明できる。

3 意図(伝えたいこと)の明確化

自分自身が学習者に何を伝えたいのか、という意図を明確にすることは、高品質な教育コンテンツ動画制作の最重要ポイントともいえます。そもそも、学習者に対して、学習目標に関する内容を伝えるために教育コンテンツ動画を作るわけですから、その伝えたいことを明確化しておかないと何のための動画なのかがわからないですよね。
生成AIで動画を完全に自動生成しようとすると、こういう部分が難しくなります。つまり、せっかく生成AIに講義動画を作成してもらっても「言いたいのはそこじゃない」という結果になってしまうわけです。
文章生成でもそうですが、自分の意図を生成AIに伝えてあげないと、狙った出力にはなりません

というわけで、教育コンテンツ動画のサンプルでは、意図を以下のように設定します。

意図(伝えたいこと)の例

生徒の情報活用能力の育成するために、著作権など情報には権利があることや、誤った情報があること、情報をむやみに公開すると基本的には消し去ることができないことなどを様々な危険性を学習させることが重要である。

なお、動画にする際は、伝えたい内容ごとに動画を分けるとよいかもしれません。なぜなら、一部の情報が新しくなって、動画を更新する必要があった場合に、動画を分けておくことで、該当部分だけを修正すればよいということになるからです。

4 参考資料を決める

コンテンツを作るにあたり、参考資料や図表、音声とかいろいろ必要だったりしますが、もっとも重要なのは情報の正確さと新しさだと思います。
どんな内容の教育コンテンツを作るにしても、間違った情報や古い情報はダメです。
生成AIを活用する場合にも問題になってくるのがこの部分ですね。生成AIは間違った情報をいかにも事実のように語るのが得意です。このような問題を「ハルシネーション」といいます
そして、ハルシネーションのリスクを下げる方法として、「グラウンディング」というやり方があります。グラウンディングは、特定のデータベース等の情報のみに基づいてAIに回答を生成させることです。
教育コンテンツを作る場合にも、参考にする資料は自分で用意し、その資料のみに基づいて動画を制作するとよいです
なお、著作権的な問題にもかかわりますので、どの資料を使ったのかという情報は、参考文献として記載する必要があります。生成AIを使うからこそ、引用ルールや参考文献のルールはきっちり守っていくことが大切です

さて、教育コンテンツ動画のサンプルでは、参考資料として以下の資料を使用したいと思います。

参考資料の例

文部科学省(2023)「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」

このガイドラインは、小中学校での生成AI活用の指針を示しています。限定的な利用から始めること、適切な活用例(アイデア出し、英会話練習など)と不適切な活用例(テストでの使用など)の区別、情報活用能力の育成強化などいろいろ書かれています。あくまで「暫定的」なガイドラインなので、今後の情勢によって改善されていくということです。

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