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Photo by
minotech
ショートショート:ひょうたん池は、汚い小宇宙
ひょうたん型の池が僕の遊び場だった。
あんなに汚い池を他に見たことはない。
僕はあの池で、ヘドロという言葉を覚えた。
その池は、家の敷地の片隅に鎮座していた。
もちろん、水が流れ込んでくる川なんて存在しないから、唯一の水の供給源は雨だけだ。雨が降った後は、一時的に水が綺麗になる。
そこに何匹かの金魚が住んでいる。
どこから来たのかはわからないが、絶えることなくそこにいた。
最初は見分けがつかない姿形だが、1ヶ月もすれば個性が出てくる。
金色に鮮やかな金魚が底の汚れをかき分けながら泳いでいたり、フグのような金魚が水面まで上がってきていた。
そんな金魚たちもそのうちいなくなる。
いなくなった金魚は、池の底に沈んでいたのかもしれない。
池には二つ岩が内島のように姿を見せていた。
片方にはよくカラスがとまり、もう片方には虫が巣を作っていた。
茶色のカマキリや大きなアメンボなど、誰もが知っているような虫は、おおよそ一度は見かけた。
アメンボの真似をする虫を何度も見たが、成功したところを一度も見たことがない。
池の周りは多くの植物がある。
竹林や色とりどりの草花、杉の木が我先に生息域を主張していた。
そんな植物の残骸が、水面に雑多に浮かんでいる。
水が汚さの原因は、あの植物の残骸だったのではないだろうか?
ある日、水をすくって顕微鏡で見たことがある。
すくった水は透明だったが、顕微鏡で覗いてみるとカオス極まりない。
ビリジアンの植物のようなものが、プレパラートをいくら動かしても視界に入ってきた。
教科書で見たことのない生き物がそこにいた。
畳2枚分にも及ばない狭い池、そこには一つの生態系が成立していた。
不恰好だけれども、一つの小宇宙が体をなしていた。