野狐禅のアルバム『ガリバー』のアートワークの素晴らしさについて本気出して考えてみた
先日の記事で「加油!」と「頑張れ!」の魅力について書きましたが、それに関連して、野狐禅の『ガリバー』というアルバムのアートワークの素晴らしさについて語りたいと思います。野狐禅は竹原ピストルさんと浜埜宏哉さんの2人組フォークバンドで、竹原さんはソロとして2017年の紅白歌合戦にも出演しており、ご存知の方も多いと思います。
上の写真は、『ガリバー』のCDケースの表ジャケットとなる歌詞カードの表紙を接写したものです。タイトルの「ガリバー」という文字が、お弁当のご飯に刻み海苔を貼りつけて描かれています。しかし海苔で描いたことを考慮しても、ずいぶんと不恰好な文字です。しかもお弁当箱を開けて「ガリバー」と書いてあったら、開けた人は目が点になりますよね。
この写真の素晴らしい点は、あえていびつに描くことで、写真には映らないドラマを想起させているところです。画像を見た方はすぐに気が付いたと思いますが、お弁当に初めから描かれていた文字は、おそらく「ガリバー」ではないでしょう。
メッセージを伝える表現には様々な形がありますが、例えば言葉は「あ」や「い」だけではメッセージとして成り立たず、「ありがとう」や「いただきます」と後ろに繋がることで意味が伝わります。また、音楽も「ド」だけではメロディとは言えず、「ド・レ・ミ」「ド・ミ・ソ」と音符が連なることで初めて表現が生まれます。言葉や音楽に共通して言えることは、文字や音符が繋がってゆく過程で、少なからず時間が経過しているということです。
一方、絵画や写真は瞬間を切り取るアートであり、切り取られた一瞬から被写体が変化することはありません。しかし、この『ガリバー』のジャケット写真は、そのいびつさによって、お弁当が完成した時から蓋を開ける瞬間までの経過が、見る人の想像力によって補完され、写真には映らないドラマが浮かび上がってくるのです。それこそが、記録としての写真ではなく、芸術としての写真の素晴らしさだと思います。
そしてこの写真は裏ジャケットのデザインですが、案の定、蓋の裏に海苔の一部が貼りついてしまっています。やはり「ガンバレ」の「レ」が崩れてしまったのですね…。
これがもし、お弁当にそのまま綺麗な形で「ガンバレ」と書いてあったとしたなら、受け取った方としてはとても嬉しいと思います。しかし、文字通り蓋を開けてみると、残念なことに「ガリバー」となってしまった。きっとそんな不器用さが、お弁当に込められた健気さと相まって、より思いやりが伝わる写真になったのだと私は思うのです。
このCDジャケットを見た時の感動を一人でも多くの方に伝えたいと思い、僭越ながら長々と書かせて頂きました。最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
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