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羽田空港の夜、真冬の歩道のベンチで野宿した昔の話

北海道に住んでいた高校3年の冬、受験する東京の2つの大学の試験日が2月の6日と9日だったので、試験前日から上京して泊まることになりました。そこまで裕福な家庭ではないため、通常よりお得に宿泊出来る受験生パックを活用しながらも更に安く済ませるために、最終日だけは空港のロビーで本でも読みながら一夜を過ごすという計画を立てました。しかし現実はそう甘くはありませんでした。

その当時は国内線が羽田、国際線は成田と棲み分けがされていた時代、よって羽田空港は24時で閉館されます。ちなみに国際空港となった現在も国際線ターミナルは24時間営業していますが、国内線ターミナルの営業時間は5時から24時までとなっています。しかし田舎者で世間知らずの私がそんなことを知るはずがなく、私は悠長に空港でのんびり一夜を過ごす気でいました。

23時頃辺りから、残る到着便もあと僅かになり、ターミナル内の人数もまばらになってきました。私は閑散とした館内の雰囲気に何となく違和感を感じながら、空港の書店で買った本を読み耽っていました。そして誰も居なくなった午後24時の到着ロビー、ずっとこちらを見ていた警備員さんが少しずつ私に近づいてきます。

「すみませんが、閉めますので外に出てください」

人が少なくなって来た辺りから予感はしていたので、「はい、大丈夫です」という何が大丈夫なのかわからない返答をして、さも澄まし顔で空港を出ました。

問題は、東京の冬の夜が想像以上に寒かったことです。北海道から来たとはいえ、寒いものは寒い。まずは北風を凌げる場所を探して、空港の駐車場内の自販機コーナーに行きました。温かいし、ベンチもある、風も凌げる、よしここで寝よう…と思ったのですが、《宿泊禁止》の注意書きを見つけて止むなく断念、再び外へ出て、一体どこかも分からない大通りをトボトボと歩き出しました。

変な道に入ると迷子になるので幹線道路沿いを往復しながら時が過ぎるのを待っていましたが、さすがに2時間ほど歩けば眠気と疲れと寒さで限界が来ます。私は空港近くに戻り、閉まっているターミナルを遠目に見ながら、外の歩道のベンチの裏で横になりました。

視線の先には交番があり、きっと今なら藁にもすがる思いでお巡りさんを頼ると思いますが、その時は不審者として捕まるんじゃないかという不安から、逆にお巡りさんに見つからないように、ベンチの上ではなくベンチの裏の死角になる地面に横たわって息を潜めていました。これじゃ余計に不審者ですよね。

次第に身体の感覚も無くなり、そのうち全く何も考えられなくなって目を閉じようとした時、ついに空港ゲートの明かりが付き、入口が開くのが見えました。生き延びた…!

 

今でも冬が来るたびに、屋根のある場所で温かい布団に包まれて安心して眠れることの有り難さを感じます。ちなみに現在は国際線ターミナルのベンチで休憩することが可能で、1階にはコンビニ、4階と5階には横になれるタイプの長いベンチがあるそうです。もう誰一人として、冬の夜に空港を閉め出されて寒さに凍えることはないということです。めでたしめでたし。

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