社会人ドクターが博士号を3年で取得。なにをすればよい?
私は社会人ドクターとして入学してから、働きながら3年で博士号を取得できました。ここでの社会人ドクターとは、働きながら、大学院の学生として博士号取得を目指して研究することを示します。
社会人ドクターに興味を持つ方々にとって、不安や疑問はつきものです。私もそうでした。
・社会人ドクターとしてやっているけるか不安。
・入学までにどんな準備をすれば良いのか
・会社の業務との両立は本当に可能なのか
・卒業できなかったら入学費、授業料が無駄になってしまう
そこで、卒業してから振り返ると、博士号を取得するために一番重要なことは、『入学前の能力UP』です。私は、何人もの社会人ドクターに興味を持つ人から相談を受けてきましたが、だいたい入学前にその人が卒業できそうかどうか分かります。卒業出来無さそうだなーと思う人は、とにかく準備不足なんです。そんな人たちを見て、準備しておくポイントが分かってきたので、まとめてみたいと思います。
本記事では、社会人ドクターに興味がある方が明日からやるべきことを、5つご紹介したいと思います。出来そうなところから始めて、『入学前の能力UP』をしていきましょう!
1.専門性の習得
社会人ドクターとして研究に取り組む際、結果が出ない時期に直面することは避けられません。そのような局面を打破し、研究を前進させるためには、言わずもがな『専門性』が欠かせません。ここでは、私が実施している専門性向上の方法をご紹介します。もちろん、できるだけ会社のテーマに沿った内容で専門性を養うことが望ましいですが、場合によっては難しいかもしれません。そんな場合でも、休日を活用して少しずつ専門性を高めましょう。
①テーマに関する情報をインプット
テーマに関する情報をインプットする際に私が実施していることを列挙します。
・関連する論文を10本読む
・関連する特許を10本読む
・関連する専門書を3冊読む
・専門家3人とディスカッション
一番大切なのは、最後の『専門家とディスカッション』です。ディスカッションは知識の交換だけでなく、自分のアイデアや仮説を検証する場でもあります。ディスカッションを通じて、使える知識にしていきましょう。
②実験・解析をやってみる
獲得した知識を実際の実験や解析に活かしましょう。知識だけあっても、手を動かしてみないと得られないものがあります。ただ、やみくもにやっても遠回りするだけなので、PDCAを意識しましょう。PDCAの流れの例を挙げておきます。ここは、ご自身のテーマに合わせて設定してください。
1 Plan : 目標を設定
まず、実験・解析の計画です。目的や仮説を明確にし、方針を定めます。どのデータを収集するか、どの手法を使用するかを検討し、計画を練ります。
2 Do : 実験・解析を実施
計画が整ったら、実際に実験・解析を行い、必要なデータを収集します。もし、先輩などの経験豊富な方が身近にいる場合は、ぜひ相談してみましょう。初心者がつまづきやすいポイントを把握している彼らのアドバイスは、時間を節約する手助けになります。
3 Check:データの解析と結果の確認
得られたデータを徹底的に分析し、結果を確認します。最近では、機械学習手法を駆使してデータを解析することが一般的になっています。得られたデータから新たな発見を引き出す可能性を見逃すことなく、機械学習手法を最大限に活用しましょう。近年では、プログラミングを身につけることも難しくありませんし、ChatGPTなどを利用することで機械学習のハードルが低くなっています。
4 Action:結果を評価し、目標達成に至ったかを振り返ります。目標達成が難しかった場合は、改善策を模索し、次のステップを計画します。また、実験や解析の過程で得た洞察を活かし、今後の研究に生かします。
③課題の発見と工夫
実験や解析の過程で、新たな課題や問題点が見えてくることがあります。ここで大切なのは、その課題に対する解決策を見つけるために工夫をすることです。このような工夫の積み重ねが、専門性の礎となります。
コツとしては、下記の図のように、課題1⇒課題2⇒・・・ と課題の階層を深堀りしていくことが重要です。
課題1を解決するためには、課題2-1と課題2-2を解決しなければならない。課題2-1を解決するには。。。 というイメージです。
階層が深くなればなるほど、専門性の価値は上がっていきます。
2.特許、学会発表、論文執筆の経験
ある程度専門性がついてきて成果が出てきたら、実績を発表する機会に手を挙げましょう。自分の研究を他人に説明するためには、情報を論理的に整理し、わかりやすく伝える能力が求められます。これによって、自分の研究に対する理解が深まるばかりか、『論理構成能力』を鍛えることができます。
特に博士論文の執筆は、多くのページ数を要します。多い人で200ページ以上の人もいます。ここでは、単にやってきたことを羅列するだけではなく、一貫性のあるストーリーを構築する必要があります。そこで、重要になるのが自身の研究を論理的に整理する力です(論理構成能力)。博士課程に入学する前にこの『論理構成能力』を鍛えておくと、後々楽になります。
論理構成能力を養う方法として、成果物の骨組みを作ることがおすすめです。具体的なフレームワークや構成を考えておくことで、論理の一貫性を保ちつつ情報を整理しやすくなります。これによって、情報の整理力や論理構築のスキルを向上させ、他人に対してもわかりやすく伝える力を養うことができるでしょう。例えば、下記の本を参照してください。
3.大学との共同研究
大学との共同研究にチャレンジしましょう。ここでは、大学との共同研究を開始する際の基本的な流れを紹介します。上記でご紹介した「1.実験、解析スキルの習得」と「2.特許、学会発表、論文執筆の経験」で磨いたスキルが、この共同研究において大いに役立ちます。
① 課題の整理と先行研究リサーチ
まず、最初に自身の研究テーマにおける課題や問題点を明確に整理することが重要です。その後、課題の解決に向けて適用可能な技術や手法が存在しないか、関連する論文を調査します。興味を持った先生方をリストアップして、その方々が気付いていない可能性のある技術の側面に注目してみましょう。ここでのポイントは、あなたが企業研究者として果たす役割の一つが、大学の尖った技術を、企業の実際の課題に転用することであるということです。
このステップを怠ると、大学の先生に「何のために来たのか?」という印象を与えてしまうかもしれません。しっかり準備しましょう。
② 先生への連絡と提案
興味を持った大学の先生に連絡を取りましょう。適切なコンタクト方法(メールや連絡先)を確認し、自身の研究テーマや興味を簡潔に紹介します。提案するテーマについても明確に述べ、なぜそのテーマが共同研究として適しているのかを説明します。マナーとして、先生が執筆された論文を最低でも10本読みましょう。
③ 提案の検討と調整
先生からのフィードバックや提案内容に基づいて、研究テーマやアプローチを調整します。提案が受け入れられる場合、具体的な研究計画やタスク分担などを協議し、共同研究の枠組みを確立します。
④ 共同研究の開始
合意が得られたら、共同研究を開始します。研究の進捗や成果を定期的に報告し、連携を深めていきます。適宜、ミーティングやディスカッションを行いながら、研究の目標に向けて進んでいきましょう。
共同研究で良い成果が出れば、そのまま社会人ドクターとして受け入れてくれる可能性があります。社会人ドクターも視野に、先生とコミュニケーションを取っていきましょう。
4.新テーマの立ち上げ経験
社会人が博士課程に進む場合、自分からテーマを提案するケースが多いです。私が博士課程でお世話になった教授との会話から得た印象では、次のポイントが特に重要であると理解しています。
①専門性の根拠とアプローチ
なぜ自分がこのテーマを遂行できるのか、専門性の根拠を考えることが重要です。これまでの経験や研究成果を通じて培った知識やスキルが、どのように貢献するかを明確にしましょう。専門性がテーマ遂行の鍵となることを示すことで、取り組みの方向性がより信頼性が高まります。
②スキルの展望と未来像
新テーマを選ぶ際には、自身のスキルがどのように成長し、展開していくかを見据えることが大切です。今持っているスキルが、新テーマをどのように支え、発展させるかをイメージすることで、研究の方向性や目標がより明確になります。
③どんな成果が見込めるか
一般的に、博士課程の修了要件には海外論文の○件投稿などが含まれることが一般的です。入学時に、これらの修了条件が満たせそうかをざっくりとでも把握しておくことが重要になります。
そこで、テーマ立ち上げ時に、どの程度の成果が期待できるかを見極める力を養っておくことが重要です。例えば、「この辺が明らかになれば、特許取得できそうだな」とか「メカニズムも分かったら、学会での発表が視野に入るな」といった具体的な目標を設定できるように心がけましょう。この力は経験を通じて養われるものですので、積極的にチャレンジしてみることをお勧めします。
5.人材育成スキル(+α)
人材育成スキルは必須ではありませんが、あればなお良しといった印象です。博士課程においては、学生を指導する機会が与えられることがあります。私自身も、自分の研究テーマに関連した学生を2人指導しました。彼らの卒論や修論がスムーズに進むように進捗管理を行いました。たとえ会社で部下を持たない立場であっても、後輩の育成に積極的に関わることは、プラスになるでしょう。
まとめ
入学前にこんなに準備しなくてもいいんじゃないの?、と思う方もいるかもしれません。ただ、忘れてはならないのは、目標が「博士号を取得すること」であるということです。必要なスキルや能力を入学前に身につけておかないと、卒業が本当に困難になります。
博士課程はたった3年ですが、その期間は驚くほど短いです。特に社会人ドクターの場合、仕事に追われ、プライベートも忙しい日々が待っています。
すでに博士号を取得できる能力を持った社会人ドクターでないと、博士号を取得できないのです。入学してから成長するだと遅いと思います。
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