【story】サザエさんシンドローム ~桜新町駅
日曜日の夕方。高校生だった頃に家族で夕飯を食べながらサザエさんをよくテレビで観ていた。その時にふと、
「ああ…明日学校に行きたくないな。」
そう思うことがあった。それが「たまに」から「毎回」思うようになると、日曜日の夜が嫌いになってくる。
日曜日があるから月曜日がある訳で仕方ないと思うけれども。
気持ちはそこそこ憂鬱なのに、学校へは休まず通った。
じゃあ、テレビでサザエさんを観なければいい話なのだが、それでも観てしまう。テレビのサザエさん一家はいつも明るい。我が家はそこまで明るい家族ではないけれど、至って普通なのだろう。会話もそれなりにあるし、大きな喧嘩をすることもない。
社会人になってある程度経った今。
久しぶりにその「明日仕事に行きたくない。」という感情を、先週サザエさんを久しぶりに観ていて復活してしまった。
憂鬱になっても仕事を休むことなく、何事もなかったように出勤。
何とか1週間やり切って、週末をのんびり過ごしていたところに、日曜日夕方、サザエさんは夕方6時30分から放送するってわかっている中で、もう午後3時ぐらいからソワソワしている。
サザエさん始まる前にもう「明日仕事に行きたくない」感情が生まれてしまっている。
理由はわかっている。
先週のこと。
仲が良かった同僚で先輩の、篠原さんからご飯に誘われて一緒に飲みに出かけた。ご飯や飲みに行くことは前からよくあったけれど、この日の篠原さんはちょっと様子が違って、落ち着かないというか、何か言いたげだけどやっぱりいいや、と言っては視線を逸らす。
お店を出て駅に向かう途中で、篠原さんから公園に行かないかと言われる。
公園に立ち寄り、篠原さんが急に振り向き
「阿部さん…お、俺、阿部さんのことが好きだ。」
篠原さんのことを、恋愛対象として見ていなかったので
「ごめんなさい。篠原さんのことはいい先輩としてしか見られません。」
と、即答してしまったからだ。
篠原さんは「ごめん…」と一言呟いて公園から去ってしまった。
私はそのまま公園に放置されてしまった。
言い方が悪かったかな…と反省したけど、よく考えたら何故私が反省しなければならないのか悶々としてしまい、結果的にいい先輩と後輩の関係も壊れてしまったのだった。
何事もなく出勤するが、篠原さんは何事もなく対応してはくれなかった。
わからないところがあったので質問しても
「ああ…これは佐藤さんに聞いて。」
篠原さんに言われて作成した文書を提出しても
「ああ…これ俺じゃなくてそのまま係長に提出すればいいから。」
まったく相手にされない。
だから、何故。
私がこう邪険にされなければいけないのかがわからない。
これまでの関係を崩したのは篠原さんじゃないか。
私情を仕事に持ってくるのはどうかと思う。そう言いたくて仕方がなかった1週間。
上司に相談すると余計こじれるのも困る。
というよりも、何故私がこんなに悩まなければいけないのかがわからない。
じゃあ、何。好きでもない篠原さんに「私も好きです。」と言えば万事済むのか。
日曜日の昼間、駅前まで買い物するため気分転換兼ねて散歩していた。
私のような現象を『サザエさんシンドローム』と言うのだけれど
更に追い打ちを掛けてしまうのが…
私が住んでいる場所。
世田谷区「桜新町」。
駅前にはサザエさんの銅像がある街。
サザエさん一家の銅像を見て一言、うん、サザエさんたちは悪くないんだよね…。
篠原さんのことを恋愛対象として見ていないから、今後そう見ればいいのかというのも違う。それ以前に私に振られて会社でそんな態度を取るような人なら好きになれない。
桜新町で実家暮らしをしている私にとって、一人暮らしじゃなくて良かったと思うのは今回の一件があったかも知れない。
駅前で買い物をしていたら、双子の妹と母に遭遇。
「チエミ、これからお茶するけど、どうする?」と母。
「うちらも買い物した帰りだけど…何か悩んでることでもあるんじゃない?聞こうか?」と笑う妹のチオリ。
「さっき和菓子屋でサザエさんどら焼き買ったよ。お兄ちゃん今日実家に来るって言ってたし、お兄ちゃんどら焼き好きだからさ。」
「…あ。ユウセイもバイト切り上げたから帰るって。カフェにいるってLINEしておくよ。」
我が家はサザエさん一家並みの大家族。そこまで明るい家族ではなけれど、会話はあるし、大きな喧嘩はない。
お互いの悩みも聞いてくれる。
今日は兄が実家に帰ってくる日。兄、私、妹のチオリ、弟のユウセイ。
みんなに聞いてもらおう、私の話。
職場にさ、篠原さんって先輩がいるんだけどね。
告白を断ったら職場で無視されるんだよね。どう思う?
サザエさん観ながら聞いてもらおう。
あーあ。明日仕事行きたくないなあ。