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【story】三寒四温~目白駅

今日は本当に暖かい。
2月はまだ肌寒いというイメージだが、こうして暖かい日を感じられると気持ちも穏やかになる。そしてもうすぐ春が来るのだと楽しみになる。
暖かい日差しを感じながら、今、目白駅の前にいる。

待ち合わせしているのだが、約束の時間を30分過ぎてしまった。
その間、スマホを見ているが一向に連絡が無い。

これが寒い日だったら、こうして待つのが苦痛だったと思う。
暖かくて良かった。
いや、良くはない。
後30分待って、連絡がなかったら帰ろう。
いや、折角目白駅にいるのだから、散策しよう。
そう考えていた。
普通の考えなら、こんなに待たせてしかも連絡もない場合は、待たずに帰るだろうと思う。
待ち人は、彼。交際して1年になるのだが、ここ最近素っ気ない様子で連絡も頻繁には無くなった。付き合い始めた頃は、毎晩LINEしてメッセージを送るか電話でたくさん話すかしていたが、一度彼の浮気が発覚し私の方から「別れよう」と言った時、

「ごめん。別れるのは嫌だ。僕が悪いのは解ってるけど、シオリが好きだから。あいつとは別れるから。」

その言葉を信じて許してしまった。
そして、今。
やはり彼とは相変わらず連絡が途絶えている。また浮気しているのだろう。別のSNS経由で友人から彼が別の子と遊んでいる画像が送られてきた。しかも相手の子が彼の頬にキスしている画像だ。

一度許した時、私の中で彼に対していい思い出だけが流れ、私も彼とは別れたくないと答えが一択だった。
今は違う。もう別れよう。その選択肢を持って来た。
一度そう思ったからには、何が何でも今日「別れたい。」
兎に角、彼が遅れようとも、もし来なかったとしたら、LINEでも何でもいいからメールで別れを告げて帰りたい。

来た、LINEだ。
スマホの振動で画面を確認する。が、発信は彼ではなかった。
職場の後輩からだった。

『お休みのところ失礼します。以前、先輩から教えていただいたお店の名前を失念してしまったので、もう一度教えてもらえますか?目白駅の酒屋です。』

後輩くんと先日お酒の話になった。
クラフトビールにはまっているとの雑談から、面白い酒屋があるよ、目白だけどという話になった。
そこに行くつもりなのだろう。
後輩くんに目白駅にある酒屋の名前を答える。

『そういえば、今私、目白駅にいるんですけどね。』

余談でメッセージを追加してみた。
別に目白駅にいるから、何だ、と思うけれども。

しかし、彼からは何もない。
もういいかな。
彼は今日もう来ないだろうと察し、私もその酒屋に向かう。
その酒屋は、クラフトビールの種類も豊富だが、リキュールの種類も多い。もちろんワインも面白い品揃えだ。
お酒を買うかは別として、陳列されているボトルを眺めていた。
そういえば、彼もクラフトビールが好きで、ここで誕生日プレゼントとして一緒に来て選んだことを思い出した。
あの時、どんなビールを選んだかもう忘れてしまったけれど、店内にいるカップルが一緒に買い物カゴを持って売り場を眺めているところを見ると、何となく切なくなった。

もういい加減すっきりしよう。
酒屋でスマホを取り出し、決心して彼にメッセージを送った。

じゃあ、ここでビールを買おう。

陳列されているビールを手にしようと、扉に手を掛けた時。
同じく扉に手を掛けた人がいた。

「あ。藤井先輩。さっきはありがとうございました。」
「え?ああ…。仙道くん。びっくりした…。」
「LINEした時、僕もう目白駅にいたんですよ。そしたら藤井先輩も目白駅にいるって返事が来て…もしかしてって思ったんです。」

後輩の仙道くんは、笑うと可愛い。可愛いというか、純粋な笑顔。
仕事の時は眼鏡なのに…

「仙道くん、もしかしてコンタクト?」
「はい。休みの日はコンタクトです。眼鏡結構ごっついから疲れるんですよね。」
「仕事もコンタクトにすればいいのに。」
「仕事で結構目を使うじゃないですか。すぐ疲れるんですよね。逆に眼鏡の方が楽なんですよ。」

そうなのか。私自身は普段コンタクトレンズなので、休みの日の方が眼鏡だが。今日は出かけているのでコンタクトレンズにしている。

「藤井先輩、髪をおろしている姿、初めて見ました。いいですね。」
「え?…ああ、そういえば職場ではひとつに束ねている方が多いかな。」
「これからどこか行かれるんですか?」
「…そのはずだったんだよね。」
「そのはず?」
「うん、すっぽかされた。」
「え、それは酷いですね。」
「うん、酷い奴だったんだよね。」
「お友達ですか?約束をすっぽかすなんて友達じゃないですよね。」
「あ…彼氏。さっきLINEで別れを告げたんで、元彼。」

さっきまでニコニコしていた仙道くんの顔が強ばる。

「…すみません、変なこと聞いてしまって。」
「ううん、別に。事実だもん。」

扉を開けて、クラフトビールをひとつ手にした。春っぽいラベル。
ペールエールかな。

「仙道くん、ありがとう。気持ちがスッキリした。今日は暖かいからどこか公園で飲もうかなと思ってたんだ。」

そう言った時には、泣いていた。
嫌だな、お店で泣くなんて。
その時。
仙道くんは、私の手を繋いで、扉から私と同じクラフトビールを手にした。

「付き合いますよ。一緒に飲みましょう。」

同じペールエールを2缶、レジに持って行った。
仙道くんは、2缶受け取り持っていた鞄に無造作に入れて、
私の手を離さず、一緒にお店の外へ出た。

「あ、僕、目白駅あまり詳しくないんですけど、公園ってどこまで行きますか?」
「目白庭園…散策してみる?…もしかしたらビール飲むのはダメかも知れないけど」

お店の外へ出た時に、スマホが震えた。
彼からだった。
思わず見てしまった。仙道くんも一緒に。

『シオリ、ごめん。今起きた。約束の時間忘れててごめん!でも別れるなんて言わないで!怒らないでよ~今から行くから。』

相変わらずのメッセージに溜息をついた。
その時。

「…藤井先輩、『さようなら』って入力してください。そして、ブロックした方がいいですよ。」
「…そうだね。」
「ブロックする前に、『今ここで新しい彼が出来ました』とメッセージしてもらえます?」

ハッとして仙道くんの顔を見つめてしまった。

「さっき、お店で泣いてしまった藤井先輩を見て、純粋に守りたいって思ったんですよ。すみません、泣き顔を見てそう思うなんて。けど、酒屋で会った時にいつもと違う雰囲気の先輩を見た時から、何だろう、ドキドキしてました。」

思わず微笑んでしまった。
そして、『今、ここで新しい彼が出来ました。』とメッセージして、元彼のLINEをブロックした。

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