【story】LINE LOVE STORY-7
毎日が暑くて怠い時間を、思考回路も動きが悪い状態で過ごしている。
仕事も日常生活も面倒くさいと思うようになってから、完全に無気力になってしまった。
無気力の理由、ひとつには想いを寄せていた人からのLINEが急に素っ気なくなってしまい、こちらからのメッセージに返信すら来なくなってしまったこと。
既読無視から1ヶ月経過。
以前は、既読無視に対しても無視して、こちらから一方的にLINEを送っていたのだが、それも面倒くさくなった。そもそもLINEで気を惹かせようなんて無理な話だ。
その人と会わなくなってだいぶ経つ。最後に会ったのは今年の正月だった。それから半年以上経過して、彼はどうしているのだろうと思うことはある。相変わらず遅くまで残業しているのか、ただでさえ細身なのにまた痩せてしまったのか、無愛想なのは変わらないのか、お気に入りの人は出来たのか。
もう「どうしているのだろう」という気持ちも、暑さで汗と共に流れていってしまった気がする。
とにかく、元気でいてくれればそれでいい。
ベッドの上でただゴロゴロと、寝ようかとも考えたが、そこまで眠りが強い訳ではないので、天井を見つめていた。
枕元にあったスマホが鳴る。
覗くと、高校時代からの友人だった。
『久しぶり!元気?今時間ある?電話してもいい?』
LINEのメッセージで送ればいいのでは?と思ったが、とりあえず『いいよ。』と返事をした。
即、電話が掛かってきた。
「アヤメ、久しぶり!元気?!」
「…元気なような、元気じゃないような。急にどうしたの?」
「報告と、連絡かな。」
「そっか。どうしたの?」
「あのね、付き合っていた彼と…結婚が決まったの。」
「おお~おめでとう~!」
「ふふ、ありがとう。それでね、今この時期だから挙式は親族だけでと思っているんだけど、数人友人を挙式に呼ぼうと思っていて、アヤメ参加してくれる?」
「え?いいの?…喜んで参加するよ。」
「良かった。じゃあ招待状送るから、よろしくね。」
「うん、またね。」
高校時代の友人、ミサキは大学も入った会社も一緒。付き合っていた彼と言うのは、ミサキと同じ部署の梅原君のことだ。
そっか、結婚か…。
スマホを枕元に投げるように戻したら、スマホが鳴ったのでびっくりした。
ミサキかな、と思ったら…違った。
『ご無沙汰してます。今連絡してもいいですか。』
既読無視されてから1ヶ月経過した途端に、電話してもいいですかとメッセージが来た、想い人の百瀬君だった。
『今、電車の中にいるので、メッセージでお願いします。』
家にいるのに嘘をついた。何となく会話はしたくなかった。
『梅原君から、結婚の話を聞きました。池野さんは挙式参加されますか?』
なんだ。メッセージ出来るじゃん。
『彼女である佐々木さんから直接報告もらいました。私は参加しますよ。』
…………。
『百瀬くんも招待されたの?』
『はい。梅原君から招待されました。』
『参加するの?』
『はい。参加しますよ。』
……相変わらず素っ気ないな。
『私が参加するの、嫌ですか?』
………。
おっと。返事に時間が。このまま既読無視するつもりか。
『その既読無視は、肯定ですか。』
私、何故か攻撃的になっている。
『どうして池野さんが参加するのを、僕が嫌がるのですか。』
『聞いてみただけです。…けど、一瞬の間が百瀬くんの本音な気がしました。今日の私はちょっと意地悪だと思います。』
案の定、しばらく私のメッセージで既読無視のまま。
………
そのまま、私眠ってしまったらしい。
百瀬くんとのLINEトーク履歴を確認した。
やっぱり、私のメッセージで終わったままだった。
「肯定の既読無視か…」
夕飯の買い物に出かけようかとベッドから起き上がり、ベランダから見える夕陽を眺めて、溜息というかゆっくり息を吐き出した。
今日は、茄子とししとうの揚げびたしにしようか。
立ち上がった時に、LINEが鳴った。
電話だな…。
百瀬、くんからだな…。
「はい、池野です。」
『百瀬です。LINEすみませんでした。』
「…何故?謝るの?」
『梅原君と佐々木さんの挙式、池野さんが参加されると嫌とかはないです。誤解してしまったのなら、すみません。』
「いや、私が単に意地悪なだけだから、気にしないでいいので。…って気にして電話くれたの?」
『それと、池野さんからLINEもらってたのを返信しなかったのもあって…ちょっと気にしていたところで、さっきのやり取りだったから…』
百瀬くんなりに気にしていたのか。ちょっと意外だった。
「忙しくて返信しなかったのでは?別に気にしてないよ。」
…嘘。気にしていた癖に。
『LINEメッセージ、もらえて嬉しいので。返信遅かったり出来なかったりするのでそれは許してください。』
「いや、忙しいんだろうなと思っていたから。LINEメッセージも控えていくよ。こっちこそごめんね。」
『あ…いえ…こちらこそなんかごめんなさい。』
しかし百瀬くんは口下手というか、メッセージも口下手というか。まあ男子ってそうなんだろうなと思うけれど、人によってはかなりマメな男子もいるからな。
私自身、そんな不器用な百瀬くんが気になったから想いを寄せていたのではなかろうか。
電話を切ろうとした時に、百瀬くんが電話の向こうで何かもごもご言っている気がする。
「百瀬くん、どうしたの?」
『…池野さん、今って時間ありますか。良かったら会えませんか。会って話がしたいと言うか…その…』
「これから夕飯にしようと、買い物に行くつもりで。ちょっとでいいなら会えるけど、駅まで来られる?」
『あ、僕今駅前を歩いているので、待ってます。』
意外なお誘いだった。ちょっと中途半端な。何と言うか。
けどあんまり期待しないでおこう。彼の生真面目な性格から、ちゃんと顔を見て話がしたいと思ったのだろう。
梅原君とミサキ、結婚おめでとう。
私はそうだな。まだこんなむず痒い、胸がざわざわするような気持ちを味わっていたい。なんてね。百瀬くんとどうにかなるとは思えないけれども。