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【story】癒やされたい~茗荷谷駅

茗荷谷駅を降りて足早に進む。目の前にはラクーアが。
今日は、今日こそは仕事を休んで温泉を満喫したいと、数日前…いや1ヶ月ぐらい前から悶々と考えていた。
とにかく、これまでの疲労感と言ったら。
仕事も私生活も、1日こなすので精一杯。気持ちに余裕もなければ、体も動かない。

専用エレベーターに乗るお客さんの多いこと。
女性1人だけで来ている方も結構多い。
もちろんカップルも…。

今日は12月23日。クリスマスで盛り上がる数日前。クリスマスイブイブと言っている人もいるだろう。本当なら明日24日は、気になっている人と食事に行く予定だった。アルバイト先であるコーヒーショップでシフトがよく同じになり、話も意気投合。ようやく食事に誘うことが出来た矢先に

「森崎さん、食事の件なんだけど…その日急にシフトが入ってしまって…」

店長がその日シフトが少なくてと、断り切れないその彼がつい返事をしてしまったということ。
実は裏話を知っている。
同じようなシフトに入っている、大学生の野原さんが同じくその彼のことを気になっていて、野原さんが店長に「24日のクリスマスイブに人手が足りないのは困ります!高城さんなら入ってもらえそうってさっきおっしゃってたので!」と頼み込んでいるのを見てしまった。

私が気になっている人。高城さんは、大学3年生。
私は…24歳。高城さんは年下になる。
私の仕事はイラストレーター。小説も書いているがもちろん芽は一向に出ていない。どちらかと言えばイラストで少し稼いでいるが、やはり生活していくにはもっと稼ぐ必要がある。
本来は、クリスマスイブとか浮かれている場合じゃないのだけれども…

高城さんもイラストに興味があって、また大の小説好き。
話が合うのは当然。

ま、今回は縁が無かったということで。
勇気を出して誘ったけれど、やはりリアル大学生には敵わない。
バイトの後に、高城さんと野原さんでそのまま食事に行くのだろうな。

スパラクーアの受付を済ませ、すぐ更衣室に行き
とにかくまずは温泉へ!とお風呂に入った。
露天風呂エリアの奥に「あつ湯」という普通より少し温度が高めの場所がある。
体を洗って目指すはその場所。

はああ…。
癒やされる…。

そうだよね、ほぼフリーターに近い人が、未来ある大学生に恋をして食事に誘う方がおかしいよね。
イラストレーターと言っても安定していないし、ちゃんとしたデザイン会社に勤めるべきだったな。
美術大学までは順調だったのに、就職活動で失敗した途端にいろんなことがうまく行かなくなって、結果的にフリーランスで始めたけど、もちろん軌道に乗るまでは大変だった。少し生活出来るようになった時は嬉しかったな…。

なんて温泉に浸かりながら、何故だか過去のことから今日までを振り返って思い返していた。

今日はスパラクーアでゆっくり過ごし、実はそのまま24日ここで夜通し過ごす。
どうせ24日は予定が無くなったんだ。ゆっくり過ごそう。

お風呂から戻って、今度はヒーリングバーデへ。
専用ウェアに着替えて移動。
ヒーリングバーデは、男女が過ごせるフロアのため、カップルがいちゃいちゃしているのも多々あるけれど、女性友達同士も来てるし気にしちゃいない。
このフロアで、岩盤浴三昧で過ごす。
ひたすら汗をかいては、外に出て、デッキチェアでまったり過ごす。
それを繰り返す。
それからタイ古式マッサージも受ける。
こうなったら気持ちいいことはすべて受ける。

*****

満喫したところで、女性専用の休憩ルームに来た。
ここではチェアに横になりつつテレビも観ることが出来る。
でも寝る気満々だったので、とりあえず夕飯の時間まで寝よう。
スマホを確認しようと見たら
1通のLINEが。

『お疲れ様です。明日24日、食事の約束したのに、僕がシフトを入れてしまったために中止してしまって、ごめんなさい。』

高城さんからだった。
続きがある。

『その、24日のシフトですが、結果的に無くなりました。理由は、他のメンバーが急きょシフトを入れてくれたからです。元々予定があったので、僕はナシでいいよと店長から言ってくれました。』

え?!

『ですが、森崎さん、もう予約とかキャンセルしちゃったと思うので、どこか食べに行くか、出かけるかしませんか?お返事待ってます。』

ええ!?

どうすればいいの?
何、この急展開!
恋愛小説でよくある展開じゃないの!?

静かなフロアで1人焦る私…。

けどな、もうスパラクーアでゆっくり過ごすって決めたからな。
出かけませんか?って誘われても、それが恋に繋がるとは限らない!
だったら…スパラクーアで過ごしませんか?なんて聞いてみるか。
それでOKと来たら、うぬぼれてもいいだろう。

『高城さん、お疲れ様です。24日は予約キャンセルしてしまったのと、予定が空いたため…今スパラクーアに来ています。このまま夜も過ごそうと思っていました。もし良ければ今からスパラクーアにいらっしゃいませんか?食事処のロビーで待ってますよ。』

どうかな…。
おっと、既読が早い。
うそ、返事も早い。

『森崎さんもスパラクーア好きなんですか?僕もよく行きます!今から向かいますよ。12月は本当忙しかったですよね。温泉で癒やされ、ヒーリングバーデで癒やされ…了解です!』

えええ…!

凄い。
私の人生、クリスマスに男性と過ごしたことは皆無。
その初めてのクリスマスに男性と一緒に過ごすのがスパラクーアでいいのか?
…でも、いいのか。
自分の価値観に合う人と出会えるってラッキーだと思う。
恐らく、今から向かうと言っても1時間以内には着くだろうから、館内着に着替えてロビーで寛いでいようかな。
横たわっていた体を起こし、またスマホを確認したらLINEが来ていた。

『…それから、僕、森崎さんと一緒にいると癒やされるんですよね。これから楽しみにしてます!』

思わず、スマホを落としてしまった。
静かなフロアで、他の人の痛い視線を感じたが…恥ずかしいというよりも嬉しさでドキドキしていた。

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