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渋谷の避暑地「喫茶店トップ」にて
昔、気づいたらドイツで寿司屋をやっていて、さらに気づいたときにはカナリヤ半島で酒を浴びていた人がいた。
(小笠原でガーベラを作ったり、広島で彼女を作ったり、ブログが人気となりファンを訪ねて日本中巡ったりもしてた)
ときどき東京に帰ってきては、
「花、メシに行こう」と言って連れて行ってくれた。
経済状況が手に取るように分かるお店のセレクトで、あるときは浅草の大正モダンな鰻屋、あるときは浅草の油まみれだけど地元の人が絶えない鰻屋、あるときは浅草のおじちゃんたちが集う食堂、あるときは一軒めから「二軒め酒場」だったりした。
どこでだったか忘れたが、私の鞄に入ってた文庫本を見て、
「花、その本くれ。俺のをやる」と言って、文庫本をくれた。
米澤穂信の「儚い羊たちの祝宴」。
根無し草であちこち巡る彼は、荷物を持たない。そして時間はいっぱいある。さらには金もない。
本が読みたいときはこうやって会った人と交換しているらしい。
「バルセロナのメトロで道を教えた日本人にもらった。花も読んだら誰かにわたしなさい」。
はじめて読む作家だった。
早くこの本のつながりをつなげたくて、一気に読んだ。
読んだあと、約束どおり誰かにあげた。
私も彼によろしく「読んだら誰かにあげてね」と伝えて。
私が彼にあげたいしいしんじの「トリツカレ男」は今世界のどこを巡ってるのだろう。
最後まで読んでなかったけど、それもまたいいかなって。
***
人に本をもらうといつも思い出す。
この一件以来、人にもらった本は読んで、誰かにあげる。
先日松尾たいこさんにもらった『なくしたものたちの国』が、渋谷へ向かう電車の中で終盤に差し掛かった。
渋谷に着いたものの、早く読みたくて、ちょうどマメヒコのフルーツサンド食べたかったしって思ったけど、なんかちょっとフルーツサンドじゃないかなって展開で(前半の恋がまだ恋じゃないエピソードのときは、ばっちりフルーツサンドな感じしてたけど)。
渋谷の谷底にある避暑地「喫茶店トップ」にて、読了。さあ、誰にあげようか?
これもまたひとつのソーシャルネットワークってやつですかね。