映画『最初の晩餐』見て考えたおはぎとカメラの秘密。
時おり、「これは私の物語だ」と思う物語に出会う。
先日観た映画がまさにそれだった。
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私は2018年夏に結婚をした。
その約3ヶ月後、おじいちゃんが死んだ。
母が「おばあちゃんの誕生日をおじいちゃんの病院でお祝いしたよ」と連絡をくれた3日後のことだった。
結婚式どころか、両親の顔合わせもしないまま、ぬるっと“結婚”した私たちは、周囲の人々のお祝いの気持ちにうつつを抜かしながら、ままごとのような結婚生活を送っていた。
母から「もう危ないかもしれない」と連絡をもらって、「忌引き 何日間」なんてiPhoneをいじっているうちにおじいちゃんは死んでしまった。
突然のことにうろたえるでも、悲しむでもなく、どうしよう…とぼーっとする私の的を得ないLINEを解読した夫は「パンちゃんをホテルに預けておくのを頼むね」とだけ連絡してきた。そして、翌日からの忌引きも取ってきていた。
北陸新幹線の中で、お義母さんから連絡が来ていた。
葬儀場に着いて、自己紹介もしないうちにおじいちゃんを棺桶に移すのを手伝わされて、従姉妹の夫たちと一緒に苦笑いをしていた夫の姿を不思議な気持ちで眺めていた。
通夜を終えて繰り出した夜の街でも、葬式を終えて回転寿司を食べてるときも、ただいつものように適当な会話を重ねた。それはそれは、いつも通りに。
夫が「おばあちゃんと一緒にいてあげな」と言って、一足先に東京に帰っていったあと、おばあちゃんの家で過ごした夜、母となん年ぶりかに布団を並べてテレビを見ながら、私は“家族”について考えていた。
おばあちゃんが言った「おじいちゃんが入院してからずっとさみしくて…。最近はいつ死ぬのかってこわくてね。明日からそう思わなくてもいいんだ」という言葉、「おじいちゃんにもうすぐあいちゃんたちは結婚パーティをやるから写真楽しみにしてようねと話していたんだよ」という数日前の会話すら懐かしそうに話す祖母の顔、そしてその数日間の夫の姿がふわふわ浮かんでいた。
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「ねえ、“家族”ってなに?教えてよ」
映画『最初の晩餐』より
そうつぶやく麟太郎(染谷将太)の顔と、最後におはぎを食べながらむせる麟太郎の顔を見て、「ああ、これは私だ」と思った。
そういえば、義両親と義兄がはじめて家にやってきたとき、おみやげにおはぎを持ってきてくれたっけ。
大きいからと半分に切ったおはぎ。
「たくやはおはぎ嫌いだから、あいちゃん1個食べちゃっていいよ」と言われたものの、このあと行く焼肉が入らなくなるなあ…と迷っていたら、お義父さんが「もらっちゃおうかな」と食べてくれた。
私は夫がおはぎを嫌いなことを知らなかった。
夫は夫で、私の使っているカメラのひとつがおじいちゃんにもらったものとも知らなかった。
映画を見たくらいで、そんなここ1年のことをあーだこーだ考えていたことも知らない。
“家族”だって、知らないことばかりだ。でも、いつか夫がおはぎを嫌いな理由がわかるかもしれない。
せめて、この映画は教えてあげようかと思っている。
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映画『最初の晩餐』は11月1日(金)公開。
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