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第301回クリエイティブサロン 色部義昭×原田祐馬のレポート

2020/03/02に色部義昭さんと原田祐馬さんのトークショーでのメモです。今回は感染被害拡大防止のために、Youtube配信という新しい試みで行われました。イベント概要は下記URLをご覧ください。

(対談内容:色部義昭さん=色部氏/原田祐馬さん=原田氏)


01:フィールドワークによるデザイン

2018年に色部さんが担当した地下鉄のCI計画「Osaka Metro」から話がはじまりました。(2019年4月:G8にて色部義昭展「目印と矢印」を開催)

色部氏:地下鉄のロゴは、電車や駅構内に設置しているデジタルサイネージでは動く媒体で作ることができます。それらの観察で出てきた表現が今の形になりました。公共の場という中の表現は素直に受け入れてもらえません。たくさんの表現を目にしたことで批評できる時代なので、自分はどうやって対応するのかを考えました。大阪の色をフィールドワークで観察しました。どこかの街に寄りすぎてはいけないのですが、大阪特有の活気のある色が通っているうちに見えてきました。

原田氏:青が道頓堀・心斎橋・梅田、それらに馴染んでいますよね。フィールドワーク以外に、ロンドンの地下鉄など参照もしましたか?

色部氏:路線カラーとの関係性をリサーチしたり、それぞれのいいデザインのエッセンスを学習しました。学習でできるデスクリサーチと、歩くことでできるフィールドリサーチを行いました。

原田氏:これ以外にも生活に溶け込んでいくものや、コントラストをつけていく事例はありますか?

色部氏:「tette」という福島県の図書館や公民館などの複合施設も面白い試みでつくりました。デザインが先にあるのではなくて、建築のデザインもVIデザインもすべてが同じ目線で同時に進んでいきました。

原田氏:フィールドワークが増えましたか?

色部氏:現場から得られるヒントが多くあります。そこから形も色も発生していきます。フィールドワークによる入り込む深度を感じています。この深度をどのように他の方に渡すかが課題です。

原田氏:フィールドワークすると深くなりすぎますよね。関わる人すべてのものになってほしいと思っています。


02:展覧会について

色部氏:プロセスから作る必要があります。そのあとも含めて発展するにはどうしたらいいか?そのためにフィールドワークや距離の近いコミュニケーションが必要となります。

原田氏:聞いていて車間距離のような反発する距離感も大事にしていると思いました。最終的に作るものが重要だけど、プロセスも好きなんでしょうね。それから、展示してみた結果、展示を見た人からのフィードバックを聞いていく中で改めて伝わらない仕事だと思いました。

色部氏:人からのフィードバックというよりは、同じように富山でサインをテーマに展覧会を開催して思いました。美術館は一般層が多く来場しますが、G8の場合はクリエイションに近い方が多いため難しい問いを出してもいいという認識で展示をしています。一般とクリエイションの人に合わせて距離感をつくっています。

原田氏:展示を編集することが難しいですよね。そして、展示を編集していく中で思考が整理されます。いろんな表現方法があると言っていましたよね。いろんな表現方法というものは、チームとの関係性でうまれるものだと思います。自分だけではなく一緒に作っているスタッフによって変わります。

色部氏:うちもそれぞれのスタッフが持つ技術などによって、常につくるものが変化していきます。常に変化することがチームの発展に繋がっています。

もう一つ聞いてみたいことですが、原田さんが壁面で行っているデザインは、高機能のデザインと比べたときに低機能のデザインという印象でした。壁面のデザインのことをお伺いしたいです。

原田氏:もともと団地暮らしをしていました。家の外で走り回って遊んでばかりいたので、団地の廊下や公園しか思い出しません。その思い出を引き出す色彩とは何か?を考えたときに、刺激的なものではなくて、光の中にあると飛んでしまうような、毎日過ごしているうちに気づく色があるのかもしれないと思いました。自分自身の経験を出発点にデザインをしました。

色部氏:長く見なきゃいけない色と広告的な瞬間的に振り向かせる色は全然違う、ということですよね。毎日みることで、その色が何年分も蓄積していきますね。

原田氏:団地という仕組みも面白くて、大規模補修が20年に一度行われます。まるで団地が服を着替えるかのように、塗装を保護し直します。20年に一度、どんな色に着替えるのかも考えました。その団地で育った樹木も20年すれば相当な蓄積ですが、それでも団地だけが変わります。


03:現在までのルーツ

原田氏:もともと建築の勉強をしながら、1970年の跡地の学校で現代美術を領域横断的に学んでいました。やのべけんじさんとか他のアーティストとともにプロジェクトをつくっていました。

色部氏:知り合いを訪ねて世界を放浪していくうちに、フライヤーやサインデザインに目がいくようになりました。その経験から自分のやりたい仕事だと認識し、そこからデザインの勉強をはじめましたが、すでに学部3年という遅いスタートでした。さらに学ぶために東京芸大の院に進学しました。

原田氏:色部さんはどんな卒業制作をしましたか?

色部氏:制作したジオラマに対し投影することで新しいビジュアルをつくったり、写真を使用したコラージュを制作しました。他にも当時はフィルムで撮影した色がバーコード化されているので、そのバーコードから本をつくりました。風景をデータ化したいと考えていたので、街や色を自転車で流し撮りしてその自転車ごと展示をしていました。

原田氏:色のデータ化は面白いと思いましたが、動画ではなくフィルムなんですね。

色部氏:フィルムは色が定着することに魅力を感じていました。現像するときに開いたり動かす時間による変化だけで、あとは編集をせずに撮れたままを見せたいと思っていました。

原田氏:僕は卒業設計で発電所を設計しました。京都の街中に新しい空中通路をつくり、それがすべてソーラーパネルというものをつくりました。それに対し「みっともない風景」とタイトルをつけました。京都の街は表は綺麗なのに裏側は混沌としていて好きなので、裏側の混沌を見る通路を作りたいと考えていました。いまのURでやろうとしている色彩計画といった仕事に通じていると思いました。

色部氏:当時に思っていた形にできていない批評性が今は形にできたということですかね。

原田氏:見せることも大事だが、つくって考えるということが今思うと重要だったと思いますね。

色部氏:まとめてみせるは仕事でできますが、自分の興味のままにつくって考えるのは学生だからできますよね。今思うと失敗だらけでもなんとなく繋がっていきますよね。

原田氏:色部さんは世界を巡る中で興味を持ったサインを学んで今の日本デザインセンターに入社しますが、飛躍していますよね。実は大学院時代に何かあるんじゃないんですか?

色部氏:大学院ではポスター制作や風景流し撮りもしましたが、自分で形をつくりすぎることとよりも、外にある情報をうまく吸い上げて整理したり綺麗にすることに興味を持っていました。

原田氏:去年制作した日本語の組版と英語の組版の話もありましたよね。

色部氏:カナダにCCAという建築専門のギャラリーがあり、そこの会場のグラフィック・キュレーション・ブックデザインを頼まれました。そのときに初めて英語の組版をつくってから日本語の組版をつくりました。バイリンガルではなく、英語版と日本語版と別々につくるものでした。英語組版は独特のレイアウトですが、それを日本語版に変換する新しい状況を逆に楽しんでつくりました。チャレンジしてみて日本語組版の特有の重力から解放されたように思います。今まで感じていた日本語組版特有の不安定感を恐れずに踏み込んでつくりました。

原田氏:聞いていてプロジェクトの性質を、デザインに上手く落とし込んでいる感覚があると思いました。プロジェクトの構造によって変わることがありますか?

色部氏:自分のスタイルなどはないので、プロジェクトの中にある土壌から育つ植物を育てる感覚ですね。毎回そういうスタンスで制作しています。

原田氏:手グセはありますか?

色部氏:外からみるとあると思いますが、なるべくそういった痕跡は残さないように、書体も色も紙も毎回違うものにしています。外からの情報をうまく取り入れて作ることを意識しています。

原田氏:それでもわかる人いますよね。

色部氏:出てしまうのはマージンや行間は出てしまうかもしれませんね。

原田氏:余白の部分がどう見えるかでデザインの性格を位置づけているのかもしれませんね。全体を通して余白の部分が喋ってくることはあると思いますが、「逆にこれもやってたんですね」と言われると嬉しいです。以前デビットリンチ(David Lynch)の展覧会ポスターは言われました。


04:京都造形芸術大学の風景

色部氏:原田さんが教鞭を持つ京都造形芸術大学の講評会にいきましたが、そのあとにスタジオにいきましたが、仲間がいる風景が面白いと思いました。車間距離が近いというか、共同体としてみんながじわじわと作り上げている印象を持ちました。スピードコミュニケーションではなく、ちゃんと人が距離感が近い中で見てくれる、ある種の余裕を感じました。

原田氏:最近好きなキーワードで、狼の「群」という言葉が面白いと思っています。人間の群は悪口に使われやすいと思いますが、関西だと磁石の距離感のようないい感じの距離感である群が影響していると思います。例えばその場にあるちゃぶ台を身近なデザイナーがつくっていて、その場にいる自分たちも一緒につくりあげているような感覚を全員が持っていますね。それを改めて大事にしたいと思っています。

色部氏:造形大の風景というのは東京にはないかなと思います。

原田氏:それはよく言われます。不思議ですが横に繋がりながら何かをつくることでしか生きれなかった、とも言えるかもしれません。関西にスターはいないと思いますが、育て直していかないといけない状況にあると思います。

色部氏:原田さんは違う地方からも呼ばれて仕事をしていますよね。

原田氏:ローカリティにアクションしているように思われていますが、地域に対してアクションはしていないんです。人に対してアクションしている感覚が強いので、人づてにプロジェクトが来ていますね。地域を何かしようではなく、誰かのために何かしようが広がっているだけだと思いますね。


05:これからのグラフィックデザイン

色部氏:ファッションが好きなので、これから服飾関係の仕事や音楽関係の仕事もしてみたいと思っています。

原田氏:なるほど。大阪だと出版社はあまりないんですよ。出版社のまわりで完結しているんだと思います。装丁の仕事は少ないので、東京がうらやましいなと思いますよ。知られていないだけなのかもしれませんが。あとは未来のことを考えてチャレンジしたいのは、医療やスポーツといった体に関わることに興味があります。もっとコミュニケーションしやすくなっていくのではないかなと思っていますね。

色部氏:根本はグラフィックデザインが好きなので、グラフィックデザインがうまく機能していない場所を探したいと思いますね。

原田氏:いいですね。可能性としてどういうことなら機能すると思いますか?

色部氏:今の視点とずれるかもしれませんが、インターネットで繋がれるため、地域や海外に広げていけたり対応できることにリアリティが出てきたと思います。グラフィックデザインの特性は言葉を介さずにビジュアルで表現できることなので、越境しやすいジャンルだと思います。言語を組まなきゃいけないハードルもありますが、言語ではなくグラフィックによる言語で様々な可能性がありますよね。

原田氏:サインとかまさにそうですよね。

色部氏:UI、一般的な機器、車のUI、リモコンは言葉がなくても使えますよね。

原田氏:Gマークとかでプロダクトを審査していると、洗濯機とかは国により使い方が全く違うことがあります。なので意外とノンバーバルなコミュニケーションだけでは成立しなくて、意外と習慣も重なってきますよね。そうなると今度はその国の地元のグラフィックデザイナーと協同するか?に繋がるんですかね。

色部氏:きっと建築ではそういうことはすでに行われていますよね。他にも公共デザインでも海外の地元のデザイナーと東京のデザイナーが共同設計をしていますよね。

原田氏:そうですね。チャレンジしてみると面白いでしょうね。


06:QA

ー Q:おすすめの日本酒はありますか?
色部氏:メモしないから覚えてないですね。

原田氏:愛知県の澤田酒造の「白老」に関しては、デザインしたので商品を知っていくことで好きになりましたね。

ー Q:フィールドワークとデスクワークの使い分けを教えてください
色部氏:フィールドワークには限りがありますが、一方でデスクリサーチは広く浅く知ることができます。フィールドリサーチは体感的に知ることができます。例えば、実際に電車を乗り継いでようやく辿り着いた瞬間に、いいサインが迎えてくれると嬉しいと感じますよね。それを体感するためのワークです。実感するところを大事にしています。

原田氏:デスクリサーチは苦手なのでスタッフに任せようにしています。フィールドリサーチが好きなのもありますが、歩いたり体感したり話していると直接聞く言葉が大切ですよね。デザインを進める上でもラフを見せながら進めるとかやっていくことが多いので、デザインのプロセスがほぼ一致している気がします。フィールドリサーチは見て体験しているからこそ、いい意味で裏切りたいと思っています。

ー Q:今回の展示はどのくらいの期間ですか?
原田氏:一年前にお声がけいただきました。定例でずっとやっていたが進まないため進んでるふりをしていました。バーッとつくりはじめたのはここ3ヶ月です。本来ならやりませんが、現場で塗装しました。完成してないところもありますが、そういうところも含めての展示だと思います。

ー Q:人との会話で大事にしていることは?
色部氏:技術や美術といった術的なものが必要だと思います。会話を聞いていても聞き上手にはなれるが、デザイナーとしては形を提示しなくてはいけない職能ですよね。この質問に答えるとしたら、自分の技術や美術を常に鍛錬し身につけておくことが大事です。

原田氏:会話は大事だと思いますが、依頼は仕事の内容はだいたいが整理されています。なので、本当の問題点や上流の部分までやるために会話を行います。ポスターを依頼されたが、実際の課題を解決するためには本の方がいいとか、全然違う答えを出していくための会話ですね。依頼内容を分解していくために会話が必要です。

色部氏:ともすると「赤くしてください」とクライアントに言われた場合、本当の意図は「あったかくしたい」かもしれませんよね。技術や美術を持っているので、もっとデザイナーを活用してほしい欲求がありますよね。メールだけだと要件の中の条件だけにまとまってしまうので、会話や対話は重要だと思います。

ー Q:インフラの公共性と愛着性についての意見を教えてください
原田氏:僕の意見ですが公共性と愛着性の関係はすごくあります。公共的であるとは、誰もが愛着を持つことだと思います。もし愛着をうまないデザインがあった場合、それは公共性があると言えないように思います。例えば、広場や公園で自由に遊べないということは、愛着を失っているきっかけのような気がします。子どもが公園で自由に遊べないこと自体が社会が暗くなってる象徴だと思うので、関わる人がすこしでも考えていたら良くなっていくと思います。

色部氏:二つの関係を対局にある関係性とは思っていません。公共性という言葉が広く一般的になりがちですが、例えば品川駅や東京駅ですら、それぞれに歴史があるので個別性を感じます。すべてに開ききったものではなくストーリーがあり、探し出した瞬間からその人たちに向いていると思います。一般論とか誰にでもではなく、どんな現場にも個別性があると思います。

ー Q:関東と関西以外のデザインは何か違いがありますか?
色部氏:関西というのかわからないですが、原田さん界隈や造形大においては、距離が近い共同体の強さを感じています。対して東京は様々な地方から人が集まっていて、それぞれデザインの団体に依存したコミュニティがあります。職能を高めたい意識があるので、そうしたコミュニティがあることは職能を高める場所としてはいいと思います。東京は群れるというよりお互いの違いを横目で見て、競合も多いからヒリヒリした関係も感じます。

原田氏:海外や地方といったところはどうですか?

色部氏:今は国の勢いなのか中国がパワフルだと思います。対極的に見ると日本のパワーは劣る部分があるかもしれないですね。代わりに深さの部分にフォーカスをしています。表現としてのダイナミックさはないけれど、表現の深さをつくっている違いがあります。ただこの違いも数年のことだと思っています。

原田氏:地方のデザイナーを見ていると、自分の活動の場所が好きな人が多いなと思います。大阪を大好きとは言わないのですが、例えば福井のデザイナーなら福井が好きで福井の住人としてのプライドを持っている人が多いように感じます。

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