【簡易検証】SwitchのBluetoothオーディオはFPS/TPSでも使えるのか?

Nintendo SwitchがとうとうBluetoothオーディオに対応しましたね。

いつ来るかいつ来るかと延々待ち望んでいたので、個人的には選択肢が増えるだけでも嬉しい限りです。
ですが、Twitter等ではかなり明確にこの機能追加には賛否が分かれています。

何故、SwitchのBluetoothオーディオ機能が批判されているのか

無論、Bluetoothオーディオ機能の存在が不服だという訳では有りません。不満意見の多くは「SBCにしか対応していないなんて使い物にならない」という意見です。Bluetoothオーディオに用いられるコーデック(音声データを格納する方法を定めたもの)にはいくつかの種類があり、主にSBC/AAC/aptX/LDAC等に分けられます。
このうち、aptX LL(Low Latency)やaptX Adaptiveと呼ばれるものは音声の遅延を減らす為の配慮が施されたコーデックであり、ゲーム用途で多く用いられるものもこれらが主なのですが......Switchが対応したのは、最も基本的で機能も少ないSBCのみ。

このSBCというコーデックは、全てのBluetoothオーディオ機器が対応しなくてはならないと定められた基本的なコーデックであり、ほぼ全ての組み合わせで正常に機能すると互換性に秀でる一方でその他の特色が殆ど無く、また圧縮率に対しての音質劣化の少なさではAACに、遅延ではaptXに負けると一般に言われています。
多くの解説ブログでは、「最も劣る地雷コーデック」のように紹介されており、そういった事を理由に不満意見がTwitter上で散見される結果になっている訳です。

しかし、あの天下の任天堂がそんな使い物にならない機能を本当に主力ハードに実装するような愚行に走るなんてことが有り得るのでしょうか?
(......3DSの3D機能を使わなかった思い出は忘れてくださいね。カービィのボス戦なんかでは凄いんですよアレ。)

よろしい、ならば検証だ。

と、いうわけで。適当に部屋のその辺をガサゴソと漁って出てきたそれぞれ方向性の異なる完全無線イヤホン(以下TWS)を三つ揃えました。

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左から順にGLIDiC Sound Air TW-5100UMIDIGI AirBuds USoundpeats Gamer No.1です。

大雑把に説明しますと、TW-5100はaptX対応でQualcomm系SoCを搭載した一般的なAndroid端末やWindowsと組み合わせた時に本領を発揮できる、少し柔和ながらニュートラルな印象の音色が特徴の音質と装着感と取り回しの両立を目指した、日用品系のTWS。この三つの中では最高額ですが、あくまでミドルエンドです。
AirBuds Uは中華低価格スマホメーカーのUMIDIGIがaptXに対応しない自社端末と組み合わせる前提で開発した、アプリ側の設定が充実しているAAC対応のAirPodsクローン系TWS。音質は良くも悪くも安っぽいハイ上がりで人を選びますが、私は好きです。
Gamer No.1は取り回しに秀でたTWSを多く送り出してきたSoundpeatsが急にこれまで出していなかった路線で発売した、AAC対応のゲーミング特化TWSです。ゲーミング特化ということも有りこの三つの中では大本命ですが、AACで普段使用しているスマートフォン(Black Shark 2)に接続した際はあくまで標準的な遅延で、むしろそのデュアル6mmダイナミックドライバの素性の良いバランス良くも厚みと弾力のある非常に優れた音色こそが印象に残っています。

検証方法

検証とは言っても、映像と音声の遅延を精密に測定できるような機材は流石に持っていません。
また、Muse Dashの音声タイミング調整機能を使用した測定は既に4Gamer様が記事にされているので、今回はより別の、少しちゃらんぽらんな方法で検証......というよりレビュー、或いは試遊してみようかと思います。
方法は単純、様々な条件で使用しながらゲームをプレイする。それだけです。

とはいえ検証。オーディオにシビアなゲームジャンルをプレイする必要があります。
という訳で今回選択したゲームタイトルは、Switch版の「荒野行動」。
陽キャさん方御用達のお馴染みPUBGクローンTPSバトルロイヤルゲームです。
バトルロイヤルゲームといえば全方位の何処から敵が襲ってくるかわからないゲーム性、あらゆる方角の音を聴き分ける必要性が強く、また足音のタイミングに合わせて角待ちから飛び出したり等と遅延の少なさも重要です。
つまり、テスト用としては間違いなく適任なゲームタイトルの一つ。
また、スプラトゥーン等と違い単純な銃声なのでタイミングを認識しやすいのも今回選択した理由です。FPSメインのゲーマーなので、インクのぺちょぺちょ音より銃声の方が聴き慣れているんですよね......。
という訳で、Switch版のプレイは初ですが、スマホ版のセーブデータでログインし始めることにしました。

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GLIDiC Sound Air TW-5100の場合

まずは射撃訓練場で、射撃してみて映像と音声の遅延を見ます。
ひと目で/一聴で分かる。適当なフルオート武器を拾って乱射すると、数発分の遅延が発生している。
音質自体は素直でマイルド、「割と普通に良いな」と言えるほどなのですが......やはり遅延が否めない感触です。
この遅延であれば、流石にFPS/TPS以外のゲームでもアクション系は全面的にストレスが生じ、RPGゲームくらいしか快適にプレイできないのではなかろうかと思います。
しかし音質面は想定より優れていたため、例えばスマブラSPの画面オフ再生機能を使用する際等には、こういった音質面をある程度重視した機種であればかなり快適なのではないかと感じます。無論、LDACやAptX HDのようなハイレゾには非対応ですし、直挿しの方が良いと感じる場合も多いだろうと思いますが......

UMIDIGI AirBuds Uの場合

同じく射撃訓練場で遅延を見る。
TW-5100と比較して少し遅延が少なく、直感ですが恐らくフルオート武器0.6発分程TW-5100より遅延が減っているようです。
また、本機にはゲームモードが搭載されていて、遅延を更に減らすことができます。が、有効にしても僅かな差異が......あるのでしょうか。プラセボの可能性を排除できない程度の遅延の差です。
おまけにゲームモードの有効化時と無効化時の効果音は壊滅的にセンスがズレていて、謎の「スカポチョン♪」「ピヨリン♪」といった得体の知れない効果音のせいで、どちらが有効でどちらが無効か分からなくなる始末。
元々このイヤホンは接続の安定性が悪いのですが、もしかしたらそれは通常モード時から常にゲームモード並の低遅延に設計されている反動なのかも知れません。
FPS/TPS用途としてならばおすすめするには至りませんが、それでもこの程度ならば、あまりハードにやりこまないのであれば横スクロール2Dアクションタイトル程度であれば許容範囲内にしっかり収まっている遅延なのではないでしょうか。
最も、音色の癖や安定性を考慮すると、同価格帯のイヤホンでもHiFuture等がより一般的に魅力的なモデルを発売している気はしますが......やはり、このザラついた乱雑な刺さりのあるハイ上がりの音色は、受け入れられない人にはとことん厳しいのでは無いかと思います。私は楽しくて好きなんですけどね。

Soundpeats Gamer No.1の場合

今回の記事の大本命、Gamer No.1です。
なにせゲーミングイヤホン、他とは格が違う超低遅延を見せてくれるでしょう......と期待して射撃訓練場で発砲してみると、驚いたことにこれまでで最も遅延が大きい。
一拍置いて音が鳴るような......それもその筈。本機にもゲームモードが搭載されているのです。その分通常モードでは遅延を大きくして音質を高めつつ差が明確にわかるようにしているのでしょう。
「ンゲェーム↑モォー↓」という妙にぬっとりとした気の抜けたアナウンスと共にゲームモードを起動すると、音質がまず大きく変化している事に気が付きます。
圧縮率を高めたのか、非常に乾いた音色に変化し、そして遅延も大幅に減少しています。
非常にドライで化粧水を忘れた日の肌の如くカサついた質感の音色に変化するので、一見音の定位がわからなくなりそうに思えますが......

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音ベースで接近に反応するには、意外とこの音質でも問題が無いのです。もっともこのgif(1.5倍速)のシーンでは右の敵が見えない大ポカをやらかしてしまいましたが......その方向に誰かが居る事には気がついていても、見えないので射線は通っていないだろうと判断した私のミスです。イヤホンに罪はない。このあと2killしましたがどちらもbotっぽかったですね。

そして、遅延も非常に少なくなっています。
フルオート武器でも次の弾が出る前には鳴っているように思えました。
ここまで遅延が減ると、こういったゲームタイトルでさえも全く不満を感じずにプレイできてしまいます。
日頃ゲームをプレイする際はPC環境、かつSHIDO 002+DoubleZero 001を組み合わせた環境でプレイしているので(無論音楽用は別のDAPを用意しているので安心して欲しい)、流石にそういったゲーミングを強く意識して有線で構築された環境と比較すれば劣ってしまいますが......逆に、そこまで優れた環境で日常的にプレイして耳が肥えているプレイヤーであっても当然のように受け入れられてしまう程度の遅延と定位感に収まっています。

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この試合中は2:1:1で合計三回ほど近距離で接敵したのですが、それら全ての方向を比較的正確に把握する事ができました。(この辺のgifは何故か再生が安定しないのです......)
そして遅延に関しても先述の通り非常に少なく優秀なので、あとはそのゲームタイトル自体への習熟度があれば、この手のバトロワシュータータイトルでさえも不便せず戦えるだけの性能があると思います。

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まあ結局、不慣れなSwitchのジャイロAIMではろくに狙撃も出来ず見事最後の一人に頭を撃ち抜かれ、「Gamer No.1」を使用していながら「No.2」で終わってしまう事になってしまいましたが。無様な負け様も1.5倍速でお楽しみください。容量の都合です。
Switch版荒野行動二戦目である事を考えれば、ここまで戦えただけでもGamer No.1がバトロワゲーマーに問題を引き起こすことが無いだけの性能を持ったイヤホンである事の証明と言えるのでは無いでしょうか。

Soundpeats Gamer No.1は、Switchでのゲーミング用途において確かに強くおすすめできる一台でした。

そもそもSBCの限界とは

ここで、一つ疑問に思われる方がいらっしゃったかもしれません。

「SBCは一番駄目な使い物にならないコーデックの筈だ、そこまで良い性能のはずがない」と。

確かにSBCの遅延に関して公開されている資料では、SBC機の遅延は概ね200msが目安とされていますし、これはその資料内でもトップクラスに劣る数値になっています。
また、多くの解説ブログでも全く同じ数字が紹介されています。最も軽薄な作りのコピペブログばかりなので、何ら信憑性はありませんが......

しかし、目安はあくまで目安。そして実際に仕様上の限界とは如何程のものか、と気になり半日ほど掛けて公式の仕様書等を中心に調べたところ、そのような膨大な遅延を生み出す処理は基本的に見当たらないのです。

つまり、安定性と音質の二点を優先した際のバッファ等々を多く取った仕様が、そのまま目安になっているのではないでしょうか。(素人の憶測なので間違っているかも知れません......)
安定性を捨て、更に音質を最低限まで削ったゲームモードのような仕様であれば、この目安を大きく切る遅延が実現可能なのだと思われます。

また、この目安においては一般的なAAC環境はSBC環境より遅延が少ないというように扱われていますが、実測データにおいてはむしろSBCより遅延が長い場合が多いようです。
実際に私の環境で使用した際も、やはりスマートフォンにAAC接続した際はSBC接続時以上にどの機種のゲームモードでも遅延が際立ってしまうと感じました。そもそも、AACは低遅延でも高音質でもなく、「データ圧縮率に対しての音質劣化の少なさ」こそが魅力のコーデックであり、遅延の少なさを魅力として押し出すのは無理があるのです。

そして、AAC/SBCのみ対応のSoundpeats Gamer No.1の売り文句には、「60ms低遅延」と書かれています。
実に目安の1/3以下というとんでもない低遅延性能で、実際に実現できていれば相当恐ろしいことですが......可能性として、SBC環境であれば実現できているのではないかと感じてしまうほどでは実際ありました。

まとめ/結局SwitchのBluetoothオーディオは使うに値するのか

ざっくりと結論を短くまとめてしまいます。

SwitchのBluetoothオーディオ機能は、ゲーミング用途、音楽用途共に使用に値します。

かくいう私も日頃はAAC機種を使用しているので、最初は疑っていたのですが......やはり昨今の機器は優秀です。
低遅延に特化したモデルならばFPS/TPSが快適に、音質を意識したモデルであれば音楽再生をある程度快適に楽しめます。
わかりやすさを優先する必要性のある任天堂ハードにおいては、コーデック設定なんて項目は流石に増やせなかったのだろうか、と考えると非常に優れた落とし所であったように感じます。
これは、SBCというコーデックが最も基本的な立ち位置であるが故の融通の効く仕様が功を奏したのだと思います。
やはり任天堂、無駄な機能を実装して無駄に業界を騒がすようなことがないのは嬉しいですね。探せばそういう前科もあると思いますけど。
もっとも、非ゲーミングモデルでの高度なゲームプレイは無謀だったので、これ用にイヤホンを買い足す羽目になりますが......まあ、そういう時のために私がいます。レビュワーの私が。たよりにしてね。

そして、この記事を書いている最中、ドアチャイムがポーンと鳴りました。
Switchとの相性を見たくて買った、更なるゲーミングTWSが追加着弾したのです......。
近日中に動画で紹介予定。

今回紹介したモデル

GLIDiC Sound Air TW-5100
https://amzn.to/3kylkx3

UMIDIGI AirBuds U
https://amzn.to/2Wetn96

Soundpeats Gamer No.1 (Switchには最も向くかと)
https://amzn.to/3hZW1lJ

安心して私の導くままに多々買いましょう......貴方にタイムセールの加護がありますように......アーメン......

おまけ:これは私の一番好きなイヤホン、KBEAR Larkです。布教したいので貼っておきます。Larkはいいぞ。(ページが他のイヤホンと統合されているのでリンク先でZSN Pro Xとか出てくるかもしれませんが私はLark推しなので......)
https://amzn.to/2XG6FHc

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