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「 運命と呼べなかった恋も 」
キモいことをしているなという自覚がある。
推しとはインスタで出会った。同じモデルさんが好きでそのオタクっぽい人を片っ端からフォローしていた中にわたしがいたらしい。
ただお互いの写真を見るだけの関係だったのに、推しからDMが送られてきたのが始まりだった。
わたしは好きな映画や本をストーリーによく上げているので、それを見て同じように好きな作品が多かったらしく、「好きの感性が最高ですね」と言われた。(本当は「歓声」と送られてきてて、誤字だと気づくのに時間がかかった)
その頃から、この人の言い回しが好きだと思ったし、DMからLINEに切り替わったあともちょこちょこ連絡を取り合っていた。
その感覚は会っても変わらなかったけど、会ったあとから連絡が雑になった。
そんなものなのかもしれないし、わたしの彼に対しての想いが変わってしまったから気にしすぎなのだと思う。
「気が合う」と本人も言っていたらしいけど、怖がりのわたしは彼がプリンが好きということぐらいしか知らない。聞けない。
どんな学校に行っていてどんな学生時代を過ごしてどんな生活を送っているのかをあまり知らない。
だから会う予定だった来月もどんな予定が入ったのかも知らないし、どうして返事が遅くなったのかもわからないし、どうして親しい友達のストーリーだけ見るのが早いのかわからない。
知りたかった。でも聞く勇気がなかった。
そんなとき、ずっと不思議だと思っていた彼のインスタのユーザー名の謎がとけた。
アーカイブ投稿ばかりになっていた彼のインスタに、ひとつだけハイライトがあって、それはある小説の一説だった。
どうやらその小説の中にでてくる文字列をそのまま使っているらしかった。
本文しか写っていない写真から必死に検索欄に打ち込んで、ようやく本の名前を突き止めた。
読みたい、と思った。だって好きの感性が似ているから。
そうしていつか買おうと思っていて履歴に残していたそれを、誤って消してしまった。
さらにもう一度調べ直そうにも少しも思い出せず、そのときにはもうハイライトも投稿も全て消されていた。2投稿中1つはわたしと出かけたときの写真だったのに、それすらも。
寂しい気持ちになったけど、そんなものなのかもと思い始めていた。
でもその本の題名を知る機会ができた。
彼の家にもう一度行った。会える時間は少しだから無理しなくていいよと念を押しても、断られなかったので、「おいでよ」という同期からのLINEを断り続けて返事のそっけなくなった彼の家に行った。
すると以前行ったときにはなかったその本が、物の少ない彼の家の机に置いてあった。何度も読んでいることがわかるくらい端が擦り切れていた。
その本の話をしたかったけど、本当に少ししか話ができなくて、朝も起こさずにそっと出てきたので「喧嘩別れした彼女かよ」とLINEが来ていた。彼女になんかしてくれないくせに、と思いながら「可愛くないので」と返事を打った。
また消えちゃわないように、その本の写真を撮っておいたので帰って早速メルカリで頼んだ。
彼が持っていたのはハードカバーだったけどわたしは単行本派だから、小さいのを。
同じ作者の他の2冊を合わせて売っている人がいて、題名に惹かれたので合計3冊買った。
読み始めて「好きそう」と思った。そして「自分も好きなやつ」だと思った。
勝手に彼の頭をのぞいているような罪悪感に呑まれながらも読み進めてしまうくらい、それは優しい恋愛小説だった。しかもまた東京が舞台。勘弁してくれ。
まだ途中だけど、出かける電車の中でヘッドフォンを肩にかけたまま読んでいる。
まだ途中だけど結末が楽しみ、その感想を共有できたらいちばんいいけど、次会えるのは、話ができるのはいつになるかはわからない。
次会う予定がなくなったおかげであまり気にせず返事を待てるようになったし、わたし自身も恋愛的なものではなく、人間性に惹かれて、そのすっと消えちゃいそうな儚い部分に固執しているだけなのかもしれない。
きっと運命とは呼べない恋なのだろうけど、やっぱりわたしは誰かを好きだと言い続けたい人間で、その誰かが自分が好きかどうかは後回しにしてしまう人間なのだと思う。
好きな人が今日もゆっくり眠れていたらそれでいいなと思う。