Nahuel Note #005 『今夜、列車は走る(Próxima Salida)』〈Abel〉 (2004)
映画『今夜、列車は走る(Próxima Salida)』(2004,アルゼンチン)
ここまでナウエルさんのTVドラマの活動を見てましたが、やっと、満を持して映画デビュー。2004年の『今夜、列車は走る』です。
このデビュー作が地球の裏側、日本でも公開されたのは、この映画に惚れ込んだ比嘉世津子さんのおかげだったことは、その過程が詳しく書かれたパンフレットやブログからよく分かる。情熱と愛。ありがたい。また、2012年に大阪の国立民族学博物館で上映された際の鈴木紀さんの論説がとても面白かった。特集上映全体は「包摂と自立」という聞き慣れない語がテーマだったのだけど、すごく分かりやすかった。こちらでPDFで読めます。→民博通信 No.138
ということで、
『今夜、列車は走る(Próxima Salida)』(2004,アルゼンチン)
公開日:2004年10月7日 (アルゼンチン)
監督: ニコラス・トゥオッツォ(Nicolás Tuozzo)制作当時まだ34歳。
脚本:Writers: Marcos Negri, Nicolás Tuozzo
フランス・アミアン映画祭 観客賞・審査員特別賞受賞、コロンビア・カルタヘナ映画祭 最優秀新人監督賞・批評家賞受賞 ほか
日本版ポスター
日本公開時のHP
鉄道大国だったアルゼンチン。90年代のインフラ民営化の波に呑まれ、国鉄の赤字路線が廃止され、この映画の舞台の小さな鉄道町(ロケはサン・ルイス)でも代々鉄道に関わってきたことを誇りに思っている人々(労働者階級ではなく、中産階級であることがポイント)が大量に失業。
主人公は5名。それぞれ、失業(社会的排除)に対応するのだけれど、鈴木氏の論(P6)に従って分類すると、まず「戸惑いながらも積極的に自立を求めた人物」が2名。
アティリオ(Vando Villamil)…タクシー運転手(配送もする)に。
ダニエル(Pablo Rago)…病気の子供を抱え、スーパーのガードマンに。
次に、「自立にむけて踏み出せなかった人物」2名。
ブラウリオ(Ulises Dumont)…自主退職にサインせず、鉄道の修理工場に引きこもる。
ゴメス(Oscar Alegre)…娼婦の恋人に優しい。自暴自棄になり…
そして「何をすべきか決心がつかない」ため、漏水修理をし続けるのが、
カルロス(Darío Grandinetti)…アルモドバル監督の『トーク・トゥー・ハー』などで日本でもよく知られているあの人。
映画は基本的にこの5名のそれぞれの失業後を追い、最後、TV中継を交えて交錯させるという凝った構成。他にカルロスの弟、アンヘルもいたのだけれど、冒頭で自殺。そのアンヘルの息子がアベル。
アベル(Nahuel Pérez Biscayart)
映画はアベルのナレーションで始まり、終わる。父が出口を見つけられなかった「運命」にどう抗うことができるのかという問題をずっと細い肩に背負っている。タイトルの「Próxima Salida(次の出口)」は「次の」というところが重要で、ただ現状を脱出できる出口を探しているのではなく(それはおそらく過去へ戻ることを意味する)、今はまだない、新しい「次の」出口を求めている。
最初見た時は独特の構成や音楽のムード(日本映画でこんなテーマにこんな音楽はつけないだろうし、とても面白い)に気を取られていたけれど、もう一度見ると、それぞれのキャラクターがたっていて(ゴメスが好き)、かつ、度々出てくる子供のおもちゃとしての列車など、脚本が重層的に細かく、ホントによく出来た映画だったし、今の日本も他人事ではないテーマだった。
DVDはレンタルは難しいかもしれないけれど、図書館に入っていたりはするかも。Amazonでも入手可能。