Nahuel Note #062 "Agadah"〈Alfonso di van Worden〉(2017)
『Agadah』イタリア、2017年、126分
公開日:2017年11月16日
言語:イタリア語、スペイン語
監督: Alberto Rondalli
出演:Nahuel Pérez Biscayart... Alfonso di van Worden(主人公)
Jordi Mollà - Jan Potocki(作者) / Diego
Hervas Giulia Bertinelli - Zibbedè(チュニス出身の姉妹)
Marta Manduca - Emina(チュニス出身の姉妹)
Caterina Murino - 姫
Marco Foschi - Blas Hervas
Ivan Franek - Thibaud
Valentina Cervi - Ines
Alessandro Haber - Cornandez
Flavio Bucci - vecchio Moreno
Umberto Orsini - Belial
Pilar López de Ayala - Rebecca(カバラ学者の娘)
Alessio Boni - Pietro di Oria
撮影はイタリアのプーリア州(Puglia)、バジリカータ州(Basilicata)、そしてローマとベルガモにて。
映画祭出品:Salento International Film Festival 2018
Seattle Latino Film Festival 2018
ポーランドの貴族ポトツキ(Jean Potocki, 1761-1815)がフランス語で書いた「ポーランド版千夜一夜物語」や「デカメロン」と称される小説「Manuscrit trouvé à Saragosse」の映画化。原作は大変長いけれど、映画では10日間だけとなっている。
長年、日本では1980年に刊行された部分訳の『サラゴザ手稿』 工藤幸雄訳(国書刊行会「世界幻想文学大系」)しか翻訳がなかったのが、この2022年9月より、完訳『サラゴサ手稿』 畑浩一郎訳、岩波文庫(上中下)が順次刊行。大変読みやすい文章になりました!!
ナウエルさんが演じるのは、語り手のアルフォンソ・バン・ウォルデン(Alfonso di van Worden)。彼はアルデンヌ地方(現在のベルギー・フランス・ルクセンブルクにまたがる地域)の一族ながら、父がスペイン継承戦争に参加した折、グラナダの娘と結婚して生まれたため、スペイン語で育てられた。映画の中でもナウエルさんと従者とはスペイン語で会話している。ワロン人衛兵隊長としてマドリードを目指し、シエラ・モレナの山中をさまよう61日間に出会った人々が次々と語るのを書き留める。
映画は作者のポトツキの執筆シーンから始まり、書かれている本の内容として、ナウエルさん演じるアルフォンソが馬に乗って登場する。ポトツキの筆記部分はフランス語で表示されるが、映画自体はイタリア語なので、ナウエルさんが従者とスペイン語を話している時にはイタリア語字幕が付く。(スペイン語とイタリア語の区別がつかない私。字幕のおかげで判別可能に。)
舞台はスペインなの完全にイタリア語話者向けの映画だけれど、原作にはかなり忠実なので、先に読んでおけば、話の流れにはついて行けます。
怪しい城に1人で泊まることなったアルフォンソは、夜中、ムーア人のエミナとジベデという2人の姉妹に誘惑され…
そして目が覚めると盗賊ゾトの2人の弟たちが絞首刑になったその下で、死体に挟まれて寝ていることに気づく。
このアルフォンソの冒険の中で彼の生い立ちや、他の登場人物によって語られる数々の劇中劇の接続点でこの絞首刑台が何度も出てくるのも、原作と同じ。
映画の第一日目、二日目、それぞれの日に起こる出来事は、原作そのまま対応している訳ではない。どうやらもっと先のエピソードが10日目までに詰まっていそうだけれど、今(2022年10月現在)、日本語で読めるのが上巻の20日目までなので、それ以降のエピソードが入っていたかどうかは、中巻以降の刊行を待つしかないけれど、実際に原作者ポトツキが自ら作った弾丸で自殺したというエピソードが挿入され、洞窟を歩くアルフォンソの耳にもその音が轟き、物語が一応の終わりを迎える。
原作はAlfonsoが一人称で語っているので、彼の容姿については何の言及もなし。なぜナウエルさんがキャスティングされたのか、特にスペイン語ネイティブということくらいしか?ナウエルさんのイタリア語はどうなんでしょう。私には区別もつかないくらいだけど…。
DVDについている特典映像のナウエルさんのインタビューはスペイン語で答えてくれているため、ありがたくもイタリア語字幕がついており、それを翻訳ツールを頼りながら訳してみました。
と、自分この土地には縁がない旅人だ、というようなことを語っているナウエルさんだけれど、今回、原作を読んでいると、「バスク語=ビスカヤ語」という記述が現れ、今さらながら気づきました。
ナウエルさん、名前からしてもうバスクだったんだ!!!と。ビスカヤはスペインのバスク地方のことで、厳密には、ビスカヤ語というのは、バスク語のビスカヤ方言のことのよう。表記はバスク語ではBizkaia、スペイン語ではVizcaya、そしてフランス語ではBiscayeとなるようで、言語学的にどうなのかわからないけれど、ナウエルさんのファミリーネームと関係がないとは思えない。
ナウエルさんのWiki英語ページには、
Biscayart was born in Buenos Aires to a mother of Basque and Italian descent and a father of Spanish-Andalusian descent. His grandmother is from Biarritz.*
とあり、母はバスクとイタリアがルーツ。父はスペイン・アンダルシアがルーツ。祖母はビアリッツ(フランスのバスク地方の街)の出身、とのこと。本人はブエノスアイレス生まれだけれど、ルーツはまさにこの『サラゴサ手稿』に出てくる地域だったのでした。
このあたりの地理や文化、とても興味が湧いてきました。
予告編
『Agadah』のDVDはイタリア版のみ。Amazon.itで買えます。