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わが子が親元から巣立つとき

今、どうしているだろう。何を感じて、考えているだろう。

期せずして、離れて暮らしている長男に思いを馳せるとき、たまたま出会った絵本が私の心情をなぞるように表現していて、深く深く、心に刺さった。

芳澤ガーデンギャラリーの「宮沢賢治 絵本の世界」で出会った「いちょうの実」。この展示そのものも、35人の絵本作家が描く賢治の世界の作品一つ一つに、とても迫力があって、ひと言で語りつくせない作品群に圧倒された。じっくり振り返ってみたいけれど、まずは手にした絵本の1冊に触れたい。

事情があって、今は離れて暮らしている長男。簡単には経緯を説明できず、現状にも納得がいかず、それでも現実を飲み込まなければ前に進めず…。

そんな私がこの絵本に出会えたのは、必然の運命だったと思わざるを得ない。

長男の保育園時代の個人マークはイチョウ。地元の神社にあるのも国指定天然記念物の千本イチョウ。そして離れている今、出会った賢治の物語。発行は長男の誕生の2年後、2008年の同じ10月。

賢治特有の自然の厳しさ、懐の深さ、透明感を感じる世界観。丘の上の一本のいちょうの木で、旅立ちの日を迎えたいちょうの実たち。準備であたふた、わらわらし、将来を夢見る。不安に揺さぶられる。そして、広い世界へ。

母は悲しいんだよなぁ。子がいくつになっても、離れるのは。でも、哀しみの奥底に、子の独り立ちへの賛歌をたたえているんだと、じんわり感じる。そう、信じたい。

100%ORANGEの及川賢治さんの絵が染みる。「ネコのセーター」(文溪堂)を何度も何度も読んだんだ。毎晩のように、子どもたちへ読み聞かせした。

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ばかばかしくて、ちょっとさみしくて、面白くて、ナンセンスな世界。そんな絵本を子どもたちと共有していた日々が懐かしい。

賢治の絵本は、ネコのセーターのように、気軽に、すっと読める文章ではない。でも、及川さんの心にぽっと火を灯すような絵が、その複雑な文章をぐっと私たちの方へ惹きつけてくれる。

そう、旅立ちの日は、期待したようには訪れてくれない。卒業式を無事に迎えて、新しい生活も決まって、すんなり…という人ばかりではなく、予想もしないうちに突然、直面する親子もいる。まさか自分がその当事者になるなんて、どうして想像できただろう。

それでも、どんなに悲しんでいても、わが子の成長は、やっぱり歓びと共にある。自分の子だもの。どんな過程にあったとしても、彼の未来を心から信じているから。

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「いちょうの実」作・宮沢賢治、絵・及川賢治(三起商行/ミキハウス)

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