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【論文瞬読】大規模言語モデルが認知的再評価で感情サポートを提供?心理学とAIの融合が切り拓く新たな可能性

こんにちは!株式会社AI Nestです。
今回は、大規模言語モデル(LLM)が認知的再評価という心理療法の手法を用いて、感情サポートを提供できる可能性を示した最新の研究について紹介します。この研究は、LLMの新たな応用可能性を示すとともに、心理学とAIの融合によって人々のメンタルヘルスをサポートする革新的な技術の実現に向けた重要な一歩となるでしょう。

タイトル:Large Language Models are Capable of Offering Cognitive Reappraisal, if Guided
URL:https://arxiv.org/abs/2404.01288 
所属:Department of Linguistics, The University of Texas at Austin, Department of Computer Science, The University of Texas at Austin, Department of Psychology, The University of Texas at Austin, Microsoft Research
著者:Hongli Zhan, Allen Zheng, Yoon Kyung Lee, Jina Suh, Junyi Jessy Li, Desmond C. Ong

認知的再評価とは?

認知的再評価って何?と思った方もいるかもしれませんね。簡単に言うと、ストレスフルな状況に対する自分の受け止め方を変えることで、感情をコントロールするテクニックのことです。例えば、「この失敗は自分の人生の終わりだ」と考えるのではなく、「この失敗から学ぶことができる」と捉え直すことで、ネガティブな感情が和らぐといった具合です。

RESOARTを用いてLLMから認知的再評価を引き出すプロセス

認知的再評価は、認知行動療法(CBT)の重要な要素の一つであり、多くの心理学的研究によって、短期的および長期的な感情調整に効果があることが示されています。しかし、認知的再評価を効果的に行うには、状況に応じて適切な再評価を提供する必要があり、訓練を受けた専門家でも容易ではありません。

LLMによる認知的再評価の可能性

そんな認知的再評価をLLMが行えるようになったら、どうなるでしょう?そう、AIによるパーソナライズされた感情サポートが実現するかもしれないのです!

LLMは、膨大な量のテキストデータを学習することで、人間のような言語生成や理解が可能となる高度なAIモデルです。近年、GPT-3やChatGPTなどの登場により、その能力はますます高まっています。LLMを感情サポートに活用できれば、より多くの人々が手軽に質の高いサポートを受けられるようになるかもしれません。

RESORT枠組みの提案と研究結果

今回の研究では、認知的評価理論に基づいて6つの評価次元を定義したRESORT枠組みが提案されました。この枠組みは、状況に対する個人の主観的な解釈を6つの側面から捉え、それぞれに対して適切な再評価を提供するためのガイドラインを示しています。

RESORT枠組みにおける6つの評価次元と再評価の目標

研究チームは、LLMにこのRESORT枠組みを適用することで、認知的再評価を引き出すことに成功しました。具体的には、Redditから収集した感情的なポストに対して、LLMが生成した再評価の質を臨床心理士が評価したところ、人間の反応よりも高い評価を得たのです。

再評価応答に対する専門家評価の結果(平均スコア)
専門家評価者間の一致度とGPT-4評価との一致度

さらに、GPT-4を用いた自動評価も専門家評価と中程度の一致を示したことから、将来的にはLLMによる自動評価も可能になるかもしれません。

研究の留意点と今後の展望

ただし、この研究にはいくつか留意点もあります。選ばれた6つの評価次元があらゆる状況をカバーしているわけではなく、主に西洋の文脈で行われた研究であることから、すべての人に適用できるとは限りません。また、非臨床のコンテキストから始めているため、より慎重に扱うべき状況への適用には更なる検証が必要でしょう。

とはいえ、LLMの新たな応用可能性を示した重要な一歩であることは間違いありません。長期的な感情への影響や個人の嗜好の多様性への対応など、課題はまだまだありますが、心理学とAIの融合によって、人々のメンタルヘルスをサポートする革新的な技術が生まれる日も近いかもしれませんね。

もちろん、倫理的な配慮やプライバシーの保護など、慎重に検討すべき点も多くあります。でも、そういった課題をクリアしながら、この分野の発展を見守っていきたいと思います。