スポーツほどギャンブルに適した興行はない。

かつてプロ野球を震撼させるほどの大不祥事があった。

1969年から1971年にかけて行われたとされる野球賭博、その過程の中で「八百長」をしていたことが発覚した黒い霧事件である。

NPBでは現在に至る中でこのような取り決めが存在する。

野球協約第三百五十五条(敗退行為)

 『クラブの役職員または選手及びコーチを含む監督が試合で敗れ、または敗れることを試み、あるいは勝つための最善の努力を怠り、またかかることを通牒するものは所属する連盟会長の要求に基づきコミッショナーにより永久にその職務を停止される。またかかる勧誘を受けた者でこれに関する情報を連盟会長に対し報告を怠るものは制裁を受ける』

野球とは筋書きのないドラマであるとは、西鉄ライオンズを日本一のチームにし、大洋ホエールズを日本一のチームとした名将三原脩監督の名言ではあるが、プロ野球が現在に至るまで日本のプロスポーツの中で一番の興行となっているのは一重に先人達の努力と、ファンを見据えた活動と信頼の積み重ねによるものである。

ところが、八百長行為をしてしまえば、当然ながらそんな「筋書きのないドラマ」として熱狂するような代物どころか、出来の悪い「マッチメイク」になり下がる。

特に、この黒い霧事件が大問題となったのは、実際にプレーをしていた選手が金を貰って意図的に敗退行為を行っていたことが発覚したからである。

こうなると、あの勝利も優勝も作られた代物であったのかと、金を払い、ファンをも馬鹿にしているような行為そのものになってしまう。

その代償として事件の発端となった西鉄ライオンズは球団を手放すハメになり、主力選手も関わっていたことからズタボロになり、最終的には西武グループ入りすることで西武ライオンズとして生まれ変わった。

だがことは一球団だけの話ではなく、パリーグの選手がやったことであることから、パリーグ全体への不信感へとつながり、パリーグの集客率は一気に減ったほどである。

現代のようにDAZNやCSチャンネルが存在する時代ではない中でパリーグの試合を放映されることも希であり、2000年代までほぼほぼ冬の時代を送ることになった。

話が長くなったが問題なのは、黒い霧事件の構造である。八百長をやっていた選手は暴力団から金を貰っており、賭博の対象として試合のマッチメイクを行っていたという。

ここで重要なのは、スポーツという興行はギャンブルとしては非常に最適な代物だということだ。

得に野球などは人気選手を集めて活躍させ、その上で一年近いリーグ戦を勝ち抜いてリーグ優勝、として日本シリーズで覇を競い合う。

熱狂的なファンも大勢いるし、負けるよりも勝って欲しいに決まっている。

そうした中で応援し、チームに勝って欲しいと思う中で様々な願望が生まれてくるわけで、それを利用した賭博行為は過去なんどか取り沙汰されてきた。

そもそも、これは野球だけに限った話ではないが、スポーツとは勝者と敗者が綺麗に分けられる。

ボクシングやレスリング、柔道に空手、キックボクシングなどの格闘技も同じである。

原則として引き分けが存在しない上でどっちが勝ったのかがハッキリすれば、それを賭博の対象として利用するのは非常にわかりやすい。

公営のギャンブルである競馬も競輪も競艇もオートレースも、極論言えばレースであり、そのレースで一位を取ることがまず重要になってくる。

そこで、各選手や馬ごとに勝率や技量、能力を吟味した上でオッズなどを付けて配当金を出す。

ただ、選手達は原則として一位になるのを競い合うわけだが、その一位になることがハッキリしていれば勝ち負けがハッキリする。

そこに金をかけて勝ったらもらえるというシステムが非常に作りやすい。

ここまで来ると分かるが、スポーツ、それも勝敗が綺麗に分けられて人気があるスポーツはギャンブルとしては最適なのである。

ただ、日本では当然ながらギャンブルというのは競馬、競艇、競輪、そしてオートレースだけが公営として認められている。

公営以外のギャンブルは本来違法なのである。麻雀やゴルフの握りなども本来は違法であるが、ではそうした違法行為である中でそれが存在した場合は誰がやっているのかということ。

答えは簡単で暴力団、あるいは半グレと呼ばれる反社会的勢力が胴元としてやっているケースが多い。あるいは素人が勝手にやってることだってある。

野球好き、サッカー好き、相撲好き、そうした人達にどの選手が勝ったら配当を出すとか、このチームが勝つならばナンボといった具合に、金を出させるのはそう難しいことではない。

相応のオッズや払いや配当の制度を整えておけばいい。

実際、競馬のノミ行為というのがあり、場外馬券場が買えないような地方都市ではヤーさんが窓口にやってJRAを通さずに自前で配当金などの制度を作ってそれをお客に支払うという闇賭博をやっていたことがある。

そうしたギャンブルは正直言って全くオススメしないし、そんな得たいの知れないことにクビを突っ込んでいたら、当事者だけでは済まないケースもある。

試合の勝ち負けを純粋に気にすることは大事だが、それが金の為に熱狂することがないようにお願いしたいものだ。

黒い霧は、いつだって現れるものなのだから。

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