何故ギレン・ザビはソロモンを見捨てたのか?
はじめに
ジオン軍総帥ギレン・ザビは一年戦争時、重要拠点であるソロモンを事実上見捨てた。
援軍を要求する実弟にして、宇宙攻撃軍司令官を務めるドズル・ザビに、最新鋭MAビグザムを送るだけであった。
また、ソロモンへの侵攻に関しても援軍を送ることはなく、グラナダから遅すぎる援軍だけが出撃し、ソロモンは陥落した。
なぜギレン・ザビは事実上ソロモンを見捨ててしまったのかを解説していこうと思う。
オデッサ作戦後のジオン軍
まず、ソロモン攻略戦について語る前に、この時期のジオン軍はいろいろな意味で困窮していた。
一番の理由は人的損害により、パイロットに学徒動員を行うほどに人材不足に陥っていた。
最大の原因は、一年戦争最大の陸戦であったオデッサ作戦にある。
前回オデッサ作戦では、ジオン軍は宇宙とをつなぐ出入口であるオデッサを喪失した結果、地球侵攻作戦に参加した将兵の大半を失ったことを解説した。
オデッサにてジオン軍は甚大な被害を出したが、同時に宇宙からの出入り口であるオデッサを失ったことは、オデッサ以外で転戦していたジオン地上軍を帰還させることが困難となった。
その結果、事実上地上軍は実質的に壊滅してしまい、ジオン軍は学徒動員を行わなければならないほどに人材を失ったのである。
そして同時にこれは制宙権を取られてしまい、連邦軍の宇宙における勢力を回復させてしまう要因ともなっている。
地上におけるミリタリーバランスが連邦軍有利になった結果、連邦軍はすかさず唯一宇宙に残っていた拠点であるルナツーとの連携も取れるようになり、反抗作戦に向けた兵力を続々と宇宙へと送り込むことが可能になった。
つまり、宇宙でもオデッサ作戦と同じく連邦軍の反抗作戦が始まろうとしていたわけである。
連邦軍の物量にどう対抗するか?
ギレン・ザビは決してバカではない。
オデッサ作戦の結果から連邦軍の物量と軍事力を決して過小評価することなく、いかにして兵力が少ないジオン軍が勝つための戦略を練っていた。
まず、連邦軍はオデッサにおいてただ物量を投入しただけではなく、ジオン軍地上部隊の骨子を完全に打ち砕いていた。
単なる物量だけではなく、ジオン軍が二度と地上で逆転することすらできぬほどの大損害を与えている。
元々、連邦とジオンの国力は大きな開きがあり、ジオンは圧倒的に劣っていた。
それでも宇宙で勝利したのはミノフスキー粒子下における有視界戦闘と、MSという新兵器の組み合わせである。
これにより、旧来の戦いしかできない連邦軍に対してワンサイドゲームを決めることができた。
しかし、それも連邦軍がMSを実践投入してくる以上、そのアドバンテージも失われてしまう。
つまり、真正面からの戦いでは連邦軍が圧倒的有利であり、勝利することはおぼつかないのである。
ソロモンの戦略的価値
宇宙要塞ソロモンはア・バオア・クー、月のグラナダと共にジオン本国を守る重要拠点である。
ここが陥落した場合、連邦軍はジオン本国に向けて進軍することができる。
グラナダやア・バオア・クーよりも、連邦軍から見れば一番ジオン本国へと近い拠点であり、戦いが宇宙へと変わった状況の中では最前線と言ってもいい。
ゆえに、ドズル・ザビはギレンに向けて援軍要請を行っており、連邦軍の反抗作戦に備えていた。
尤も、これ以前にホワイトベース隊により、キャメルパトロール隊と、コンスコン艦隊が壊滅しているため、その穴を埋める必要性があったからでもある。
ドズルの判断は正しく、連邦軍は真っ先にソロモンへと侵攻しているため、ドズルの戦略眼は正しかった。
だが、ギレンはソロモンに全く固執していなかった。
もちろんこれはソロモンを軽視していたわけでも、ドズルを疎んじていたからではない。
純粋に戦争へと勝利するためである。
ギレンの戦略
ギレンはオデッサ作戦から、連邦軍が圧倒的物量でジオン軍をすりつぶすことを理解していた。
真正面きって戦えば、ジオン軍は圧倒的不利であり、連邦軍が自動的に勝利してしまう。
通常の戦い方をしては連邦軍には勝てないのである。
これは妹のキシリア・ザビも同様のことを考えており、彼女はフラナガン機関を通じてニュータイプ部隊を創設し、質による連邦軍の勝利を考えていた。
だが、ギレンはさらに戦いそのものを見直し、戦局を逆転させる戦略を考えた。
それが、あえてソロモンを抜かせ、連邦軍にア・バオア・クー、もしくはジオン本国を攻撃させるという後の先を取る戦略である。
ジオン版星一号作戦
ギレンが考えた、このジオン版の星一号作戦だが、まずはソロモンである程度戦い、連邦軍の戦力を漸減させる。
その後、ソロモンを陥落させたことで連邦軍はア・バオア・クーか、ジオン本国を攻める。
どちらに戦力を振り向けても大丈夫なように、分岐点のポイントをあらかじめ選定し、そこに向けてソーラ・レイを使い、連邦軍を壊滅させる。
ギレンは連邦軍に対抗するためにソーラ・レイを用意していた。
コロニーを丸ごとレーザー砲に変えてしまい、この大砲をもって連邦軍を一掃し、残った兵力をア・バオア・クーとグラナダの兵力をもって壊滅させるつもりでいた。
ソロモンを固守したところでジオン軍の勝利にはならない。
連邦軍を撃退したところで再度、連邦軍はソロモンに攻めてくるだけであり、最終的にはソロモンを固守し続けてジオン軍は兵力が激減し、追い込まれるだけである。
ギレンはオデッサ作戦の結果からそれを恐れていた。
ゆえに、ギレンはあえてソロモンを捨てるという、定石を外すやり方で連邦の動きをあえてコントロールすることを決めたのである。
ソロモン陥落
結果としてソロモンは陥落した。
落ちた原因は兵力不足であるのだが、それ以上に連邦軍は新型兵器であるソーラー・システムを導入してきた。
太陽光をそのまま兵器として活用できるこの兵器により、ソロモンと宇宙攻撃軍は甚大な被害を出し、ドズル自ら放棄を決定するほどまでに追い込まれていた。
実はこれも、ある意味ギレンが予想していた可能性でもある。
連邦軍がソロモンを侵攻するにしても、普通にソロモンを攻撃すると、ギレンは全く思っていなかった。
自分がソーラ・レイを考えているように、連邦軍も要塞攻略用の新兵器を導入する可能性と、どうやって要塞を攻略してくるのかをソロモンを試金石にしていたのである。
すると、連邦軍は物量は物量でも、ソーラー・システムという新兵器を導入するという奇策を使っていた。
結果としてソロモンは陥落したが、これによりギレンは連邦軍の手の内を把握することに成功していた。
連邦軍は物量を生かして攻めてくる。
だが、兵力をやみくもに投入するのではなく、ソーラー・システムなどの新兵器を導入し、ジオン軍に大ダメージを与え、自軍の損害を抑える戦法を選択するということが分かったのである。
そしてア・バオア・クーへ
こうしてジオン軍はア・バオア・クーにて連邦軍の戦術をすべて把握していた。
ソーラ・レイによって総司令官レビル将軍ごと、三分の一の兵力を喪失ささせてソーラー・システムも消失させ、ビーム攪乱幕を張らせることもなく、連邦軍相手に善戦していたのである。
ア・バオア・クー攻防戦にて、ジオン軍が有利だったのはソロモン攻略戦にて、あえてソロモンを見捨てるという戦略が生きていたからである。
だが、そのギレン・ザビは妹キシリアによって父親殺しの責任を取らされ、射殺されてしまう。
その間隙を突いた連邦軍は、ジオン軍防衛の要であった空母ドロスとドロワを撃沈し、ア・バオア・クーを陥落させている。
もし、ギレンがここまでの深謀遠慮を家族にも向けていれば、ジオンは勝利していたかもしれない。