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世界最強VCが見据える “次のAI ウェーブ”

AIメディアを運営する男性2人が"ながら聞きでも未来がわかる"をテーマに30分で生成AIのトレンドを解説するPodcast「AI未来話」。
このnoteでは番組のエピソードからトピックをピックアップして再構成したものをお届けします。

今回は「#42 世界最強VCが見据える “次のAI ウェーブ”」を再構成した内容をお届けします。


Andreessen Horowitzが示す次世代AIの姿

世界最強VCの全容と著者たち

Andreessen Horowitz(通称a16z)は、シリコンバレーを代表する世界的に有名なベンチャーキャピタルです。同社は長年にわたってテクノロジー系のスタートアップに積極的な投資を行ってきました。

近年は暗号通貨やAI関連の分野にも注力しており、自社でメディアやポッドキャストも運営するなど、業界への影響力は非常に大きいものとなっています。

今回の記事を寄稿したのは、同社のパートナーであるZeya Yang氏と、元ゼネラルパートナーのKristina Shen氏です。両氏は初期段階のエンタープライズ/SaaS領域に注力しており、B2Bビジネスの最前線を探り当てることを専門としています。

VCのポジショントークを読み解く

私たちは、Andreessen Horowitzの情報発信にはある程度のポジショントーク的な側面があることを認識しています

ベンチャーキャピタルのビジネスモデルとして、自社が投資したスタートアップの成功や、投資テーマの市場拡大をアピールすることで、後続の投資家や大企業の興味を引き、最終的にリターンを得ようとする意図があることは否めません。

しかし同時に、彼らは世界中のスタートアップや大企業のデータや動きを追っているため、そのインサイト(洞察)自体には業界を理解する上で大きな価値があります。

私たちとしては、こうしたポジショントーク的な要素を踏まえつつ、その中にある本質的な示唆を見出していくことが重要だと考えています。

生成AIの時代(Wave 1)が示した可能性と限界

Wave 1で経験した成果と課題

Wave 1とは、私たちが今まさに経験している生成AIの時代を指します。ChatGPTに代表されるような、文章や画像を生成するAIが中心となっています。

メディア業界では特に文章生成による業務効率化が実感できており、企画やアイディアの初期段階での叩き台作成にも非常に有用です。

加えて、AIアートの分野では意図しない誤作動(ハルシネーション)がむしろクリエイティブな要素として活用されるなど、興味深い展開も見られています。

最近話題になった例では、ウィルスミスの生成動画が示すように、AIの表現力は日々進化を続けています。(愛を込めて通称ウィルスミスベンチマークと名付けられています)

B2Bにおける生成AIの課題点

しかし、特にB2B領域においてWave 1には明確な限界があることも分かってきました。

生成AIは確かに文章を作成できますが、ビジネスの現場で求められる正確性や結論の提示には課題が残ります。

生成された情報には誤情報も混在し、ハルシネーションも発生するため、結果の確認作業が必要となります。

私たちの実感としても、AIによる生産性向上は期待されたほどの効果を発揮できていません。世間では「10倍」「100倍」といった劇的な効率化が語られることもありますが、実際には2〜3倍程度の向上に留まっているのが実情です。

また、プロンプトの作成やワークフローの構築など、新たな作業も発生しているのです。

Wave 2(SynthAI)とは何か

生成から統合へのパラダイムシフト

Wave 2と呼ばれるSynthAI(Synthesis AI)は、「統合」を意味する新しいAIの形態です。

大量のデータをまとめ、最終的に何をすべきかを示してくれるAIのことを指します。

例えば最近のGoogle Deep Researchなどは、その好例と言えるでしょう。大量の情報を一気にまとめて、結論だけを明確に提示する能力を持っています。

SynthAIに求められる3つの重要要素

SynthAIがB2Bで活用されるためには、以下の3つの要素が特に重要となります:

  1. 正確性と信頼性:B2Bでは小さなミスが大きな問題につながりかねないため、専門分野に特化した高い精度が必要不可欠です。

  2. アウトプットの簡潔さ:経営幹部が見る資料には、長文のレポートよりも、エッセンスが凝縮された要点が求められます。

  3. 意思決定を促すインサイト:単なる情報の羅列ではなく、「どうすればよいのか」という具体的な示唆を提供することが重要です。

SynthAIが実現する可能性のある業務変革

想定される3つの活用シーン

SynthAIの実践的な活用方法として、以下のような活用シーンが期待されています。

まず、営業支援の分野では、量より質への転換が起きる可能性があります。

Wave 1では大量のメールを作成して送信するような手法が中心でしたが、SynthAIではニュースやSNSを解析し「この企業が今このプロダクトを必要としている可能性が高い」「今がアプローチの最適なタイミングかもしれない」といった質の高い示唆を提供できるかもしれません。

カスタマーサポートの領域では、過去の問い合わせ履歴を総合的に分析し、よくある原因や今すぐ対応すべき課題を即座に特定できる可能性があります。これにより、問題が大きくなる前に早期対応が可能となり、顧客満足度の低下を防げるかもしれません。

プロジェクト管理においては、ワークフロー全体を把握した上で「なぜ進捗が遅れているのか」「誰がどのタスクで詰まっているのか」を効率的に分析できるようになるかもしれません。

これにより、会議でのディスカッションがより本質的な課題解決に集中できる可能性が出てきます。

データ品質が成功の鍵を握る

"Garbage in, garbage out"の法則

SynthAIを活用する上で最も重要なのが、データの質です。私たちは「Garbage in, garbage out(ゴミを入れればゴミが出る)」という言葉を重要な警句として認識しています。

これは、どれだけ優れたAIでも、間違ったデータを入れれば間違った結論しか出せないという、コンピューティングの基本原則を表しています。

目的地に向かうために地図(データ)が間違っていれば、永遠にたどり着くことはできません。B2Bの文脈では、この「正しいデータとは何か」という定義自体が非常に重要な課題となります。

B2B企業が直面するデータの課題

現実のB2B企業では、データに関して以下のような課題を抱えています:

  • 部署ごとにシステムが異なり、データが分散している

  • データのフォーマットが統一されていない

  • 契約書や顧客情報など、機密データの取り扱いに慎重さが求められる

  • セキュリティ面やプライバシー面での配慮が必要

これらの課題は、SynthAIの導入以前の問題として、まずデータの整備から始めなければならないことを示唆しています。

正しい問いを立てることの重要性

データの質に加えて、解くべき問題自体が正しく設定されているかどうかも重要です。いくら優れたデータを集めても、その目的が間違っていれば意味がありません。

データを集めて分析した結果、「これは本当に解くべき課題だったのか?」という根本的な疑問に突き当たることもあります。

「情報を削ぎ落とす」という新たな価値

Wave2の本質的な価値は、「情報を増やすこと」ではなく「情報を削ぎ落とすこと」にあると考えられます。

相田みつをさんの「人間だもの」のように本質的な意見というのは実はとても短いエッセンスの中に含まれているものです。

経営幹部向けの資料でも、長文のパワーポイントよりも、「つまりどういうことが言いたいのか」というエッセンスが求められます。

SynthAIはこの「情報を削ぎ落として本質を残す」という重要な役割を担うことになるでしょう。

人間の認知能力には限界があり、一度に処理できる情報量には制限があります。そのため、必要な情報を必要なタイミングで、最適な形で提示することは極めて重要です。

詳細は必要に応じて掘り下げられるようにしつつ、まずは要点だけを示すというSynthAIのアプローチは、この人間の認知特性に合致しています。

今後の勝者を分ける「ワークフロー」の重要性

スタートアップと大手ベンダーの攻防

Wave 2における勝者を分けるのは「ワークフロー」を抑えられるかどうかです。現在、この市場では大きく二つの勢力が競っています。

一つは既存の大手ベンダーです。例えばSalesforceのような企業は、すでに多くの企業に導入されているシステムにAI機能を追加していく戦略を取っています。

企業にとっては、既存のシステムをそのまま使い続けながら新しいAI機能が使えるため、導入の障壁が低いというメリットがあります。

[Salesforceの記事]

もう一つはAIネイティブなスタートアップです。これらの企業は最初からAIを前提としたサービス設計が可能であり、思い切ったプロセス改革を実現できる可能性を秘めています。

業務フロー再構築の必要性

私たちの経験からも、従来のシステムにAIを組み込もうとする際の課題は明らかです。

例えば「この承認フローのルートが通せなくなる」「今までできていた確認作業ができなくなる」といった問題が頻出します。

これは、DXの文脈でもよく見られる課題です。本来は、システムに合わせて業務フローを再構築すべきところを、既存の業務フローに無理やりシステムを合わせようとすることで問題が発生しています。

産業革命に似た転換期

この状況は、私たちに産業革命期の「馬から鉄道への移行」を思い起こさせます。

既存の業務にAIを組み込もうとする試みは、まるで「馬で移動して途中で鉄道に乗り、またそこから馬に乗る」ようなものです。本来は「最初から鉄道に乗る」という発想の転換が必要なのです。

このような大きな変革期には、組織の規模の最適化も重要になってきます。AIエージェントの登場により業務効率化が進む中、組織をどのようにリサイズしていくかという課題も避けては通れません。

組織文化の変革が成功のカギを握る

AIに対する理解と信頼の醸成

SynthAIの導入が成功するかどうかは、組織の文化的な側面も大きく影響します。現場の担当者が「このAIはなぜこういう結論を出したのか」と不安を感じたり、結果を信頼できないと感じたりすれば、せっかくのシステムも活用されません。

AIの結果が間違っていた場合の責任の所在や、どのように説明責任を果たすのかといった点について、組織内で明確な合意を形成する必要があります。

これは単なるツールの導入以上に、組織全体の意思決定プロセスに関わる重要な課題なのです。

レガシー企業が直面する困難

特に歴史のある大企業では、システムや文化が複雑に入り組んでおり、AIの導入はより困難になりがちです。

セキュリティ面の制約から新しいツールの導入が難しい場合も多く、結果として導入できる企業とそうでない企業の差が広がっていく可能性があります。

私たちのような規模の企業でさえ、一度AIを使わない前提で始めたプロセスをAI対応に切り替えることは容易ではありません。

大企業ともなれば、その課題はより深刻なものとなるでしょう。

雇用への影響と社会的責任

AIの導入は、時として雇用に関する難しい判断を迫ることもあります。

私たちが長野で見学した信玄餅工場の例のように、自動化できる工程と人手による工程が混在する状況は、多くの企業で見られる光景です。

地域の雇用を守るという社会的使命と、競争力を維持するためのAI導入という要請の間で、経営層は難しい決断を迫られることになります。

しかし、競合他社がAIを導入して生産性を向上させていく中、この判断を先送りにすることは企業の存続自体にも関わってくる可能性があります。

AIの導入で見落としがちな本質

普遍的な価値の重要性

私たちが今回の考察を通じて強く感じたのは、AI時代においても普遍的で本質的な価値がより一層重要になるということです。

データの質や正しい問いの設定、組織の在り方など、これらの課題は実はAI特有のものではありません。

たとえば、インターネットの黎明期から現代に至る流れと同じような現象が、AIの分野でも起きています。

かつては「情報がない」という課題に対して、とにかく情報を生成することに注力しました。その結果、現代では情報が氾濫し「正しい情報を見極める力」が重要になってきたのです。

生成から統合への必然的な流れ

この文脈で考えると、Wave 1からWave 2への移行は、ある意味で必然的な流れと言えます。

最初は「情報を生成する」ことに価値があり、ChatGPTのような生成AIに注目が集まりました。

しかし、情報が増えすぎた結果、「情報を整理して本質を抽出する」ことにより大きな価値が見出されるようになってきたのです。

本質を見極める目を養う

私たちは、LLMに対して「これはどういうこと?」と質問し、情報を引き出そうとすることがよくあります。

しかし、本当に重要なのは、自分たちが持っている知識や情報を統合し、新しい視点を得ることです。たとえばOpenAIのo1のような推論モデルは、この「異なる視点の提供」を得意としています。

エンディング

私たちは、Andreessen Horowitzの指摘するWave 2について、そのポテンシャルと課題の両面を見てきました。

確かにSynthAIは、情報過多時代における新しい可能性を示しています。しかし同時に、その導入には慎重な準備と組織全体での取り組みが必要不可欠です。

これから情報発信を続けていく中で、Andreessen Horowitzのメディアやポッドキャストからも多くの情報を収集し、皆様にお届けしていきたいと考えています。

AIやWeb3、メタバースといった最先端の話題について、私たちなりの視点で解説を続けていきます。

まとめ

Wave 2として提唱されるSynthAIは、単なる情報生成から一歩進んで、大量の情報を整理・統合し、意思決定に直結する示唆を提供することを目指しています。

しかし、その導入には正確なデータの整備や、業務プロセスの抜本的な見直し、組織文化の変革が必要です。

大企業とスタートアップの競争が激化する中、この変革をいかに成功させるかが、今後の企業の競争力を左右することになるでしょう。

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