ばくたん感想+α
※約11,000字 ライブの画像はありません。
VTuberについて
VTuberは配信画面に映るキャラクター(アバター)と配信者自信(中の人)のパーソナルな面に齟齬が生じるコンテンツだ。それを視聴者は許容して成り立っている。
例えば、女子高生のVTuberが飲酒を匂わせても中の人は成人している場合、それが炎上したりはしない。また、悪魔のVTuberの中の人が悪魔だと信じている人は殆ど居ないだろう。そういった小さな齟齬に目を瞑り楽しむコンテンツだと皆が理解しているから。
その点、昨年とんでもない速度で人気VTuberに上り詰めた壱百満天原サロメは、お嬢様になりたいという夢を持つ一般人という「中の人との齟齬が生まれにくいキャラクター」が人気になった要因の一つではないだろうか。
私はVTuber全体を網羅しているわけではないが、そういった齟齬が生まれにくい無理のないキャラクター設定のVTuberは増えてきているように感じる。確か、にじさんじのVTA新規卒業生は「もしかしたら私たちの生活する場所のどこかに居るかもしれない」キャラクター設定だったように思う。
どちらの方が優れているというわけではないが、配信を続ける上でキャラクター性を重要視しないのであれば無理のないキャラクター設定の方が良いと感じる。
初期のVTuber 現在のVTuber
初期のVTuberは創作されたキャラクターのコンテンツで、中の人に左右されにくいものだった。
キズナアイは賛否両論あれど中の人が複数人になってもコンテンツとして成立していた。初期のVTuberは配信者というよりもリアルタイムに接することの出来ることもあるアニメキャラ的な位置にあった。
一つの作品としてのVTuberであったからこそ、鳩羽つぐはVTuberとして受け入れられて様々な考察が飛び交った。今の時代に鳩羽つぐが出てきたらVTuberではなく映像作品として認識されていたのではないだろうか。
現在のVTuberは人気になるには箱に入るのが王道だ。箱によるが、箱ではキャラクターと中の人を切り分けて考えられており、VTuber募集の際も予め決まったキャラクターに魂(中の人)を募集する形式が多く取られている。
そうなると、創作された人物のコンテンツというより二次元のガワを手に入れた配信者でしかない。
にじさんじやホロライブが出来た頃、二次元の顔が動くだけのコレをVTuberとは呼べない! という議論があったはずだ。その頃のVTuberは3Dモデルのキズナアイや輝夜月が主流だった。私は二次元の顔が動くだけの2Dの配信者をVTuberと呼べないとまでは思わないが、今の二次元のガワを手に入れただけの配信者をVTuberと呼べるのかと言われると難しい顔になってしまう。
現在のVTuberは中の人ありきで成り立つコンテンツとなっているように思う。
薬袋カルテ 無月マリア
私がVTuberを好きになったきっかけは薬袋カルテだった。薬袋カルテが居なければVTuberというコンテンツにそこまで興味を持たなかった可能性すらある。そのくらい私にとっての薬袋カルテは大きな存在だった。
↓薬袋カルテへの愛を語ったnote
ピクシブ百科事典の引用と被るが、薬袋カルテは名取さなと同時期にナースとして個人VTuberとしてデビューした。名取さなの活発で明るい雰囲気に対して、薬袋カルテは見る鎮静剤と言われるようなダウナーな雰囲気だ。名取さなのファンの呼称が「せんせえ」なのに対し薬袋カルテのファンの呼称は「患者様」であった。
オリジナルソング「Stardust finding you」は2018年V紅白歌合戦の紅組のトリになるほどの人気があった。この曲はJOYSOUNDにも入っているのでカラオケで歌える。
『白紙のカルテ』
この配信自体は視聴者との会話で行われるが、そこに居るのは薬袋カルテのようで薬袋カルテではない女の子だった。
薬袋カルテのデビューは2月でこの配信は8月に行われた。この配信内で語られているのは1月。
〈白紙のカルテの女の子〉
1月××日時点で入院中。
在院期間は長期と思われる。
健康な身体と内蔵を欲しており、すごく好きな姉がいる。
テレビやインターネットにはよく触れておりVTuberに興味がある。バーチャルナース(後の薬袋カルテ)の設定作りやデザインを行ったり、LIVE2Dについて勉強している。ナースに隠れて病室から配信しており、YouTube初心者で配信には慣れていない。
1月××日の生配信後、外出時に事故に遭う。
〈姉〉
かつて一緒に暮らしていた。
白紙のカルテの女の子が小・中学生の頃に家を出る。
以来連絡を取っていない。少し男勝りで強い。
幼少期に身体の弱い白紙のカルテの女の子。見て「私が医者になる」と言っていた。
〈ドクター〉
白紙のカルテの女の子の主治医と思われる人物。
業務とは関係なく、白紙のカルテの女の子にLIVE2Dについて勉強し、教えている。
『剥離のカルテ』
───未来、2019年××月××日の“私”から。
ドクターの名前は「無月リリア」。
意識不明となった妹の「マリア」を薬袋カルテというバーチャルな存在とすることによりコミュニケーションを取れるようにした。
薬袋カルテはドクターが姉であることを知らない。
ドクターは昔と全く違う雰囲気だった。
「剥離のカルテ」は未来からの配信であり、30分通信できれば上出来である。
少し前に葬儀があった。
「あの子は」「私の所為」「私の所為なんだ」「薬袋カルテは、」「いや、違うね。マリアは、あの子はね、」「死んだんだ」
モールス信号
わたしはカルテが大好きです
生きていてくれてありがとう
患者様ありがとう
↓
遺影に薬袋カルテが映る
『薬袋カルテ公式隠しページ』
〉彼女はそろそろ■■くだろうか。
〉私は彼女を見て■■を目指すことを決め、
〉そしてなることができた。
名取さな 名取■奈
配信内で明言こそされていないが、配信で目にするナースの名取さなとは別に患者としての名取■奈がそんざいしており、この患者は終末医療を受けるほどの病気であることが示唆されている。私たちが普段見ている名取さなは患者の名取■奈が作り上げた虚構であり理想の存在である。
配信の部屋の背景に監視カメラが付いていること、手首の包帯を「包帯じゃない」と言い張ること等は初期から考察されていた。
この構造下ではナースを自称していながら医療知識がないことや、ハーバート卒を自称しながら英語が堪能でないこと等の嘘は患者の名取■奈のものとして解釈される。
『_』
2018年10月13日に投稿された動画。
この動画内で語られている日付は2018年2月27日。
名取さなのデビューは2018年3月16日である。
「繧上◆縺励? 縺ェ繧翫◆縺九▲縺 繧上◆縺励∈」は「わたしの なりたかった わたしへ」と解読されている。
『2011.04.**』
上記の二つの動画から考えると、名取■奈は2011年4月に入院した。数年間治療しており、2018年2月27日時点では恐らく治療は上手くいっていない。ナースになりたいと思い、3月16日にVTuberとしてナースを始めたのであろう。17歳から入院していることにより、失った青春の象徴である17歳を名乗っているのではないだろうか。
薬袋カルテと名取さなは通常の配信者に起こるはずの設定の齟齬が別のキャラクター(患者の彼女たち)に吸収されている。おざなりにされてしまいがちなVTuberの設定を利用して「薬袋カルテ」や「名取さな」を単なるアバターから背景設定のあるキャラクターに昇華しているのだ。
薬袋カルテは植物状態の無月マリアをバーチャル世界に薬袋カルテとして作り上げているのに対し、名取さなは名取■奈がなりたい自分として演じているという違いはあれど二人の共通点は多いように思う。
ライブ感想
これらを知った上で私は今回の「さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ-」に臨んだ。しかし、ライブでどのようなことが起こるかは全く考えていなかった。「さなのばくたん。」は例年とても楽しいらしいという話を聞いていたので、寧ろ初めてのVTuberライブを現地で観られることに対してウキウキしていた。
12番スクリーンに入り指定の席に着く。さなぬいのCM可愛過ぎる。ライブ制作の裏側のCMも拘り抜いて作られたことが伝わってきて、これから始まるライブがより一層楽しみになった。
CMを何周か観ているとカウントダウンが始まった。カウントダウンもお洒落だ。
※ここからはライブのネタバレしかないです。多少順序や内容等間違えている部分があるかもしれませんがご了承ください。
『メチャ・ハッピー・ショー』
ウワーッ! 皆ペンライト振ってる! ライブだ……!
見てるよ! おめでとう! だいすき!(大声)
ずっとこのストーリーを続けてくれ〜! お願いします。
私はリズム感がないのでペンライトを振るのがかなり下手だ。隣のせんせえがペンライトを上手に振っていたので終始見様見真似で振った。
これは全曲に対して言えることなのだが、ライブ中は「ゆびきりをつたえて」以外「可愛い〜! 似合ってる〜! 最高〜!」みたいな気持ちで聴いていたがライブ後に聴くと少し泣く。ライブ後から今に至るまで一生名取さなのCDに入ってる曲を聴いて叫び出したくなる日々を送っている。
『エッビーナースデイ』
誕生日出来て良かった……! \な・と・り・さ・な!/
もうずっと3月7日にしないか? この時間永遠に続けたいよ。
名取さなが誕生日迎えられたのは名取からしたらせんせえのおかげみたいに思ってるのかもしれないけれど、他でもない名取の努力の結晶なんだよな。
いつまでも喧嘩しようって普段の掛け合いのことを示しているんだろうし全てが名取からせんせえへの愛じゃん……
『happy bite』(カバー)
化物語を履修していない為今回初めて聴いたのだけれど似合い過ぎていて吃驚した。曲調がゆったりめで踊りも可愛かったね。元気いっぱい踊ってるのも勿論可愛いが。
私も帰りたくないよ〜!
『おはなし、森羅万象くん起動』
無料期間終了した途端横になる名取ってもしかして恒例行事?
というかVTuberのライブって少しの時間無料で観られることが多くて、有料になった途端怠けだすみたいなのあるあるなのかもしれない。にじさんじのライブをオンラインで見たことあるのだけれどそのときもそうだった気がする。
ペンライトで感情表現する文化に初めて触れてペンライトに無限の可能性感じちゃったな。
最高のお誕生日会の作り方を森羅万象くんに聞くの好き。森羅万象くん作れるくらいの天才はもしかしたら最高のお誕生日会の正解もわかっていて、今回の(並行世界の名取に会わせる)形で名取にお誕生日と自分自身に向き合わせたのかもしれない。
森羅万象くんは「汝の願いを叶えたくば、まず汝と向き合うべし」と言って並行世界の名取のいる場所へ飛ばしたが、名取はそれを並行世界の名取の悩みを解決すると解釈した。それを私もそういう風に受け入れていたことに後々気付いて吃驚した。森羅万象くんは最初からちゃんと森羅万象だったってことじゃん。
『王様のおはなし』
王様は国民のことを思うが故の悩みを抱えていた。国民(他者)の幸福を追求して、これって自己満足なのかもしれないと悩む気持ちは私にもわかるような気がした。でも自分がやることなすこと全て究極的には自己満足なので自分がしたいようにやるしかない。
せんせえたちの力で王様に「自分がまず楽しむことで、周りも楽しんでくれるようになる」と伝えられてよかった。こんな王様のいる国民は幸せ者だろうなと思う。
『パラレルサーチライト』
私はいよわが人気ボカロPと呼ばれるずっと前から好きだったのでいよわが作った曲を現地で名取が歌ってること自体めちゃくちゃ感動した。サビは勿論だけれどサビ前のいよわ節も感じられた。「きゅうくらりん」や「つづみぐさ」等、いよわは二次創作のような曲作りが上手過ぎる。キャラクターへの解像度が高いし愛が大き過ぎる。原作を知って聴くと本当に胸が苦しくなる。
パラレルサーチライトのパラレルは言わずもがな今回の並行世界へ飛ばされる名取のことだろう。
サーチライトとはは、夜間に遠方まで照らし出すようにした照明装置等のことだ。今まで暗闇に居た名取が自分の様々な可能性を照らして未来に踏み出すということなんじゃないの……!? となった。せんせえのペンライトをサーチライトに見立ててる可能性もある。これが無限大の可能性……ってコト?!
王様のおはなしからの流れとしても歌詞が完璧だし本当に最高。
『キョンシーのおはなし』
キョンシーの名取はコスプレイベントだと思って参加したものが本物の百鬼夜行だった。趣味の合う友だちは出来たが、本当は人間なのにキョンシーだと嘘を吐き続けていることが心苦しいということだった。
今回は水平思考ゲームで解決に導くこととなった。
答えが長過ぎるし「偽りの自分」ってワード重過ぎるだろ。
これは、アヘ・エビさん=名取■奈、着ぐるみ(偽りの自分)=ナースの名取さなと読み解くことができる。
本当のキョンシーかどうかは関係なく皆と一緒に楽しく過ごせることが大事だと教えることが出来た。友だちが妖怪でも楽しいことに変わりないなら本当かどうかは些細なことじゃん! 作り込まれたウソはホントになり得る!
『全部ホントで全部ウソ』(カバー)
これも似合い過ぎ……
袖が長いキョンシー名取の踊りが可愛過ぎたね。
全部ウソでも名取に無意味だなんて思ってほしくないって思った。名取が全部ウソだと思っていてもせんせえたちとの日々は全部ホントじゃん。ウソがホントにならなくても人間のキョンシーが妖怪と仲良くなれたことは嘘偽りないようにね。
VTuberという存在は所詮絵空事かもしれないけれど、それを真正面から「絵空事だからって無価値なんですか?」と問い掛けられる人はなかなか居ないと思った。
『学生のおはなし』
学生の名取は頭があまりよろしくなくて悩んでいて不憫可愛かった。
「この世でいちばん大切だと思うものアンケート」はほとんど大喜利会場と化していたけれど、それらによって学生の名取はこの世の中は学校や勉強が全てではなく、多様性の良さに気付けていて賢いじゃん! って思った。
学生の名取を羨んでいるナースの名取の少し淋しそうな顔が忘れられない。
『モンダイナイトリッパー!』
好き勝手しちゃうみたいな感じが学生名取とマッチしてて良い。ずっとハチャメチャしてワチャワチャしてほしいな。
『もどった!』
オンラインイベント「さなちゃんねる夏祭り」開催決定! ウオオ! 夏って随分先な気がしてしまうけれど意外とすぐきちゃうんだろうなあ。
戻ったし次回予告もしたしこれで終わりなのかなと思ったのも束の間、名取■奈が現れた。
えっなにこれ? あれ? そういえば事前に新曲二曲あるかも! って言ってなかった? まだパラチラしか新曲なくない? ばくたん。名取■奈を匂わせるみたいな噂は聞いたことあったけど本当だったんだ……
ここで並行世界の名取たちの悩みが自分自身にも繋がっていることに気付く。
今まで名取さなの「楽しい」に呼応していたせんせえが、それを受け止めて今度は名取さなを通して名取■奈を応援する番だ。さっきまでワイワイしていたせんせえ全員が息を潜めて見守っていたように思う。
「わたし」の悩みと向き合う新しい約束、決意表明としての『ゆびきりをつたえて』
『ゆびきりをつたえて』
名取■奈の苦しみや悩みが思い切り伝わってくるようだった。
流石に作詞家天才過ぎる……
全せんせえ泣いちゃうよねこんなの。
名取さなとせんせえがウソもホントも引っ括めて肯定する物語だ。
「ああ 私がどんな人だったらいつも 笑っていてくれるんだろ 優しくなればどうにかなること?」
こういった小さな名取■奈の思い遣りが名取さなを通してせんせえに伝わっているのだろう。
「似合わない服」は本物のナースじゃないのに着ているナース服、「少し増えたロウソク」は誕生日会、「鏡とクローゼットの間」で「どんなわたしが好き?」と問うのはナースや王様やキョンシーや学生のことを指しているのかなと思った。
今はロウソクが増えてはいないけれど、これから先の活動で増えることがあるならばそれは見たいと思った。
この会の最後に「わたしの なりたかった わたし」という文章に、手書きの文字で「を、みつけてくれて、ありがとう。」と書き足された。
「繧上◆縺励? 縺ェ繧翫◆縺九▲縺 繧上◆縺励∈」がこんなところで、五年という集大成で回収されるなんて想像もしていなかった。五年という集大成だからこその回収で、五年という月日を経たからこその感動だ。
いろりちゃんの客出しで「さなちゃん、ありがとう」と聞こえて本当に苦しくなった。
その後の名取さなの「今日がわたしの誕生日! これからもよろしくね!!」のツイートでも苦しくなった。名取は今までわたしって言わなかったので。
数日後に名取が振り返り配信で「(名取■奈のことを)言えてよかったー!」と言ってくれて初めて堰き止めていたものが流れたように思う。
私は小学生の頃に親とa-nationに行ったときからライブに苦手意識があった。周りと同じ熱量で盛り上がるのが不得意だから。それは何度か他人の付き添いでライブに行っても変わらなかった。
そして今回、それが完全に払拭されたかというと嘘になる。ペンライトは上手く振れなかったし、色も素早く変えられなかった。
しかし、映画や演劇と同じように、ライブにもその場所でしか経験できない感動があることをちゃんと理解出来たように思う。今回「ばくたん。」を現地で観られて他のせんせえと同じ空気を吸って同じ空気を共有できてよかった。
「ばくたん。」を観て、名取■奈が名取さなを演じていることに名取さなが目を向けたのを観て、気になったことが一つだけある。
上記の「さなのおうた。」の歌詞ってもしかして、演劇の世界では昼夜問わず「おはようございます」と挨拶するのと関係してたりするのか? こじつけかもしれないが名取■奈が名取さなを演じていることを演劇と見立てていて、だからあいさつが昼夜問わず「おはよう」の可能性もあるのかなとおもった。八割方語呂が良いからだと思うけれど。
それでは、また。