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山頂から街を見守るー高崎白衣観音

ブラジルのコルコバードの有名なキリスト像のように、山頂から大きな白衣観音像が高崎の市街地を見守っている。観音山のふもとを流れる烏川沿いを車で通るたび、緑の山を背景にした真っ白なお姿が目にとまる。市民に愛される高崎のシンボルである。

高崎に引っ越してはじめて目にしたとき、その大きさ、突拍子のなさに、正直なところ引いてしまった。信仰を持たない私は、牛久や長谷にある巨大な大仏さんを見たときも申し訳ないがありがたさより違和感を感じていたのだった。それが、この白衣観音さんについては、自分が高崎での生活に馴染んでいくにともない、だんだんと好きになってきた。

その理由は、観音さんが高崎市民の生活の中に、自然と溶け込んでいるからだろう。バレンタインデーからホワイトデーの間の一か月は、観音さんの小指から垂れる赤い糸を自分の小指に結び付けて恋愛成就を祈願する「赤い糸祈願祭」が開催される。観音さんを擁する慈眼院では、ヨガ教室やコンサートなどの小規模イベントが頻繁に執り行われる。お住まいの観音山には、広い公園がいくつもあり、若い子供連れやカップルでいつも賑わっている。

近くの染料植物園の駐車場に車を停め、そこから整備された散策道を20分ほど歩いて観音さんに会いに行く。暑い夏も、マイナスイオンたっぷりの木陰の中を歩くと心が洗われるようだ。紅葉の季節、途中のひびきばし(吊り橋)を渡るとき、足元に広がる真っ赤な景色に言葉を失う。自然の中に観音さん信仰は息づいている。

大きな大きな観音さんは、近くまで寄って見ると結構な迫力だ。そしてなんとも優しいお顔をしている。この観音さんを作ったのは井上保三郎さんという高崎出身の実業家で、高崎に音楽堂(音楽センター)をもたらした息子の房一郎さんとともに、地元の文化育成に貢献した。余談だが、井上氏の旧邸宅は高崎美術館内に移設されていて、事前に申し込めば訪問することもできる。外からは日本家屋だが中は大変モダンな洋風住宅で、天井の高いリビングには大きなガラス窓から温かな陽光が射し込む素敵な場所だ。そんな歴史的背景も、観音さんが地域で愛される理由の一つだろう。

個人的な話になるが、この年末、徳島に住む高齢の両親が東京の病院にかかるために上京する予定だったのを取りやめた。一年半ぶりに会えるはずだった。東京が危ないからといって、では逆に、感染者の少ない四国の田舎にこちらが帰ることもできない。日ごとに新型コロナ感染者が増える今、「会わない」という判断が正しかったことは間違いなかった。それでも、やるせない。会いたい気持ちには変わりはないのだから。どうにか頭で納得していても、私は、自転車の空気が少しずつ抜けていくように心がしぼんでいくのを感じずにはいられなかった。

そんなときに、ふとしたときに白衣観音さんの姿が目に入ると、手を合わせて拝みたくなる。信仰心を持たない私ですら、心の片隅でいっときだけでも、すがらせてもらえるような気持になる。山の上から見守ってくれる優しいお顔の観音さんはありがたい存在である。



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