口裂け女
口裂け女は70年代の終わりから80年代にかけて子供を中心に広まった代表的な都市伝説です。話が広まる過程でいろんな説がくっついていたけれど共通して語られるのはこんな内容。
夜道で女が『私きれい?』と聞いてくる。
『はい』と答えると『これでも?』とマスクを取る。
するとその口は耳まで裂けていた。正体は美容整形に失敗した女。
100mを3秒台で走り、『ポマート』と言うと逃げ、べっこう飴をあげると助かる。
今考えると変な話ですが当時の様子は以下の通りです。
・パトカーの出動騒ぎ(福島県郡山市・神奈川県平塚市)
・集団下校(北海道釧路市・埼玉県新座市)
・1979年6月21日には兵庫県姫路市の25歳の女がいたずらで口裂け女の格好をし、包丁を持ってうろつき、銃刀法違反容疑で逮捕された。
もちろん口裂け女なんて存在しませんでした。
ではどうしてこんな話が全国に広まったのか。CIAが日本で噂が広まるスピードを計るために青森から流して鹿児島に到着するまでの日数を数えていた、なんて説もあったけど、違います。
広まった背景には、70年代の後半という時代を反映したひとつのキーワードがありました。
それは【塾】です。
口裂け女伝説は諸説ありますが、岐阜県のひとつの家庭から始まった説が有力です。ちょうど受験戦争が激化した時代。みんな学校が終わってから塾に通っていたのに、その家庭にはそんな経済的な余裕はなかった。
でも子供は友達と同じように塾に行きたがります。
そこで母親が塾に行きたがる子供を諦めさせようとしてついた嘘がこの話だったのです。塾が終わって夜遅くなると、口が裂けた女が現れて襲われるから危険だ。だから塾になんか行かないほうがいいと。
苦し紛れの作り話でしたが、これが口裂け女の始まりなんです!
真に受けた子供は、学校に行ってその怖い話を友達に聞かせます。すると聞いた子は塾に行ってみんなに話す。塾で聞いた子供は自分の学校で話し、そしてまた違う塾へ……。
昔ならその学校か、せいぜい周辺地域で終わっていた話でしょう。
しかし学区を関係なしに子供が集まる【塾】を介して、噂はどんどん広まっていったのです。
さらに頻繁にあった転勤が噂を広める範囲とスピードに拍車をかけた。
実際この時代、ご存じの人も多いでしょうが、中部地方は日本各地に比べて塾が多く、転勤も多い土地柄だったのです。ある程度この噂が広まると、今度はラジオなどのメディアが面白がって取り上げ始めました。
こうして口裂け女は全国に広まっていったわけです。
実は広まった背景と同様、細かい設定も時代を反映しています。
・美容整形
その当時、学会が発足して第一回総会(78年)を開くなど、日本でも広まってきました。しかしまだ失敗への恐怖も強く、ネガティブなイメージが強かった。
・100mを3秒台
ロス五輪(84年)を前に、カール・ルイスという陸上界のスーパースターが現れ、超人的活躍が大インパクトを残した。そのイメージからカールより速いとくっついた。
・ポマード
当時問題になった暴走族の危険なイメージから。
・べっこう飴
77年に日本に上陸して人気になったチュッパチャップスから連想した。
このように、都市伝説は時代を映しながら発展していくものなんです。
そういえば僕が【KY】という言葉を始めて聞いたのも塾の違う学校の友達からでした。
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