楽しく書こう!戦闘シーン
戦闘シーンは読まれないとか好まれないとか、そんな話題がSNS上で流れていました。確かに戦闘シーンを書くのは難しいかもしれません。でも楽しく書いて楽しく読んでもらいたい。私はそんな風に思っています。
ということで、戦闘シーン、主に個対個(場合によっては複数人)の書き方について、まとめてみることにしました。
戦闘シーンは主に、描写、状況説明、能力説明、感情、思考、判断、あたりの要素に分けられると思って書いています。
これをある程度バランスよく配置していくと、わかりやすくかつ読んでいても苦痛の少ない戦闘シーンになると思っています。
感情や判断がなく描写ばかりが続くと実況中継になってしまいます。
状況説明や能力説明ばかりだと、臨場感が生まれません。
よってこれらをテンポ良く(これが難しいのですが)織り交ぜることが重要なんじゃないかなぁと考えています。個人的には短文メインに、時折長い文章を入れて緩急つけるのがいいのかなぁと思っています。
それに戦闘シーンの目的も大事ですね。読者を焦らせたいのか、疑問を持たせたいのか、すかっとして欲しいのか……等々。
たとえば「どうやったらこの不利を覆せるの?」といった要素が絡んでいるとわくわくしながら読んでもらえます。でもそのためには不利な状況であること、そこに置かれた感情などを読者に伝えなければなりません。
ここでものすごくシンプルな例文を用意してみました。
剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
誰でも書ける文章です。でもこうした描写がひたすら続くと実況中継になってしまいます。
それではこの描写に状況説明、能力説明、感情、思考、判断を加えてみましょう。
剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。(描写)重い。(思考+感情)一振りの重さが、これまで戦った相手とは違う。(状況説明)ただ打ち付け合っているだけでは、確実に負ける。(判断)俺の中の焦りが膨らんでいく。(感情)
それらしくなった感じがしませんか? 基本はこの繰り返し、組み合わせです。描写の度にこれらの要素が必要なわけではありませんが、特に手直しの際に意識すると読みやすくなるはずです。
では基本を押さえたところで、以下の例文を読んでみてください。
white minds 第11巻の初稿の抜粋になります。主人公とヒロインが複数人の敵を相手取っているシーンです。途中からなのでわかりにくくてすみません。
「青葉、左手をお願いっ」
判断が早かったのは梅花の方だった。(状況説明)そう言い残した彼女の持つ剣が、ひときわ長くなる。ぶんと鈍器でも振り回すような調子で剣先が軌道を描く。それを横目に、青葉は左へと精神を集中させた。(描写)早い内に相手の数を減らそうという魂胆だろう。(思考)強者を含めた大人数を相手取るのは、得策ではない。(思考+判断)ならば今のうちにというのはわかる。(思考)しかし梅花と距離が開くのは、本当は望ましい事ではなかった。
だが、仕方がない。(思考+感情+判断)
奥歯を噛んだ青葉は、目の前に迫る魔族へと神経を集中させる。ぬかるんだ草地を踏んだ彼の、その切っ先が、魔族の頬をかすめる。(描写)
「ちっ」
足場が悪い。(状況説明)これは以前にも実感したことだが、接近戦を得意とする青葉らには分が悪い。(状況説明)身体に風を纏わせた青葉の足が、空を駆るように動く。(描写)
振り向きざまに振るった長剣が、今度は一人の魔族を捕らえた。その胸を切り裂く感触と同時に、くぐもった悲鳴が辺りの空気を揺らす。(描写)
初稿なので文章が荒いですね。描写も薄いです。それにこうして分解してみると、このシーンではあまり感情や判断について触れられていないことがわかります。
まだ戦闘序盤ということで感情が動かないのは仕方がないとして、判断が少ないのはわかりにくいかなと思い、手を入れてみたのが下です。
「青葉、左手をお願いっ」
判断が速かったのは、梅花の方だった。(状況説明)そう言い残した彼女の持つ不定の刃が、歪んだと思うや否やひときわ長く伸びる。その切っ先はまるでぶんと鈍器でも振り回すような調子で、虚空に弧を描いた。(描写)なるほど、これなら魔族は不用意には近づけない。となれば大人数相手でも立ち回れる。(思考+状況説明)
ならばと青葉は左方へ神経を集中させる。こちらはスピード勝負だ。(判断)早いうちに相手の数を減らさなければ、また囲まれてしまう。(状況説明)強者を含めた大人数を一度に相手取るのは、どう考えても得策ではない。(思考+判断)とはいえ梅花との距離が開くのは、本当は望ましいことではなかった。
だが、仕方がない。(思考+感情+判断)奥歯を噛んだ青葉は、目の前に迫る魔族へと神経を集中させる。ぬかるんだ草地を踏んだ彼の、その剣の切っ先が、魔族の胸元をかすめる。(描写)
「ちっ」
つい舌打ちがこぼれた。(描写)足場が悪い。これは以前にも実感したことだが、接近戦を得意とする青葉らには分が悪い。(状況説明)それならばと身体に風を纏わせた青葉の足が、空を駆るように動く。(描写)
振り向きざまに振るった長剣が、今度こそ魔族を捕らえた。その胸を切り裂く感触と同時に、くぐもった悲鳴が辺りの空気を揺らす。(描写)
ちょっとはましになった気がします。
実はこの要素のバランスというのは、キャラクターの個性を表すのにも役立ちます。考えずに動くタイプ。とにかく思考するタイプ。感情的になるタイプ、等々。その特徴に応じてバランスをいじると、よりメリハリのある戦闘シーンが書けます。
ちなみに上記のは視点主に戦闘の知識や能力の知識がある場合の例になります。では視点主の知識が乏しい場合はどうなるのか? 別の例を探してみました。
以下は「ベアトーシャの朝星」の一部の初稿です。
いつの間にか木の上にいたランダが、瞳をすがめるのが見える。(描写)ではあの魔物をジルが倒せと? そんなことは不可能だ。(感情+思考)ジルは頭を振った。(描写)
「む、無理ですっ」
「無理じゃない」
「この剣が必要なら、ベアトーシャ様が使ってください」
「あんたの方が精神量が多いんだよ」
一体何の話をしているのか。わからないながらも、ジルは必死だった。いくらなんでも無理難題過ぎる。あれだけ身軽に動くような魔物に、どうやってこの短剣で切りつけろというのか。(感情+思考)
「守りはこっちでやるから、思い切ってやってみな」
と、不意に背を叩かれた。(描写)守り。そうか結界は全てベアトーシャが生み出してくれるということか。それならばどうにかなるのかもしれない。少なくとも、攻撃に神経を集中させることはできる。(思考+判断)
ジルはぐっと奥歯を噛んだ。(描写)考えろ。自分にそう念じるようにと唱える。いきなり切りつけて勝てるような相手ではない。ならば逃げ道を防がねばならない。そのためにはどうすればいいのか。(思考)
「っつ!」
ジルは左手を振り上げた。そうして赤い炎を放った。(描写)これは禁じ手のようなものだが、ここにはベアトーシャがいる。山火事になりかけたとしても、なんとかしてくれるだろう。(状況説明+思考)
「このっ!」
さらにジルはもう一振り。炎を左手へと放つ。(描写)その間にも降り注いでいる青い矢は、全てベアトーシャの結界が防いでくれていた。(状況説明)そう、ベアトーシャの結界は完璧だ。ジルは己の身を心配するような必要はない。(判断+感情)
動いている描写、能力説明よりも思考している時間が長いですね。そこに未熟さが出ていますが、もう少し状況説明を入れてわかりやすくしてみます。
いつの間にか木の上にいたランダが、瞳をすがめるのが見える。(描写)ではあの魔物をジルが倒せと? この剣で? (思考)そんなことは不可能だと、ジルは頭を振った。(思考+描写)
「む、無理ですっ」
「無理じゃない」
「この剣が必要なら、ベアトーシャさんが使ってください」
「あんたの方が精神量が多いんだよ」
一体何の話をしているのか。わからないながらも、ジルは必死だった。いくらなんでも無理難題過ぎる。(感情)これだけ身軽に動くような魔物に、どうやってこの短い剣で切りつけろというのか。(状況説明)
「守りはこっちでやるから、思い切ってやってみな」
と、不意に背を叩かれた。(描写)守り。そうか結界は全てベアトーシャが生み出してくれるということか。それならばどうにかなるのかもしれない。少なくとも、攻撃に神経を集中させることはできる。(思考+判断)
ジルはぐっと奥歯を噛んだ。(描写)考えろ。自分にそう念じるようにと唱える。こんな素人の剣でいきなり切りつけて勝てるような相手ではない。ならば逃げ道を防がねばならない。そのためにはどうすればよいのか。(思考)
「っつ!」
ジルは左手を振り上げた。そうして赤い炎を放った。(描写)これは禁じ手のようなものだが、ここにはベアトーシャがいる。山火事になりかけたとしても、きっとなんとかしてくれるだろう。(状況説明+思考)
「このっ!」
さらにジルはもう一振り。炎を左手へと放つ。(描写)その間にも頭上から降り注いでいる青い矢は、全てベアトーシャの結界が防いでくれていた。(状況説明)そうだ、ベアトーシャの結界は完璧だ。ジルは己の身を心配するような必要はない。(判断+感情)
あまり変わっていない? そうかもしれません。よい例がなくてすみませんが。キャラクターにあわせてこの要素の配分を変えること、極端に少ない要素をなくすことが、わかりやすい戦闘シーンに繫がるのではないかなぁと思います。
よかったら試してみてください。
では楽しい創作ライフを!