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『恋×シンアイ彼女』備忘録(ネタバレ有)

 この文章は誰かに読んでもらうためではなく、今の自分の思いを忘れないために残す。故にこれは感想記事ではない。
当然ネタバレも含むので悪しからずネタバレしかないので未プレイの人は読まないでください!!!!!

 ただ、これから恋カケをプレイする人や、やるか迷っている人に一つだけアドバイスをしたい。

絶対に体験版はするな!!!!!

 また、凛香√とゆい√については割愛し、彩音√と星奏√を掘り下げて比較していく。

1.きっかけと概要

 『恋×シンアイ彼女』はUs:trackより2015年10月30日に発売された恋愛アドベンチャーゲームである。

 僕が『恋×シンアイ彼女』を知ったきっかけはDucaさんの『記憶×ハジマリ』だった。これを機に『東の空から始まる世界』を聴いて恋カケに興味を持ち、プレムービーを見て「今すぐにこの作品をやらねばならぬ」と思ったことを覚えている。
 この記事を読み終わった時、もう一度このムービーを見てほしい。きっと、夏が待ち遠しくなる。

 ホームページに載っているあらすじを紹介する

國見洸太郎は、御影ヶ丘学園に通う2年生。

文芸部で小説家になることを夢見ながら、活動をしていた。
彼にはどうしても書けないお話がある。

「恋愛小説」

それは彼が幼い頃に経験した、がっかりな初恋のエピソードのせいらしいのだけど……。

新しい春。

『桜代学園』、『西学園』、そして洸太郎が通う『御影ヶ丘学園』

3つの学園が統合され、新たな出会いが生まれる。

幼い頃に出会い恋をして離れ離れになっていた、
姫野星奏。
数年前まで親友だったが、あることをきっかけに口をきかなくなった、
新堂彩音。

そして恋愛小説が書けない國見洸太郎。

そんな3人は、何かの偶然か、教室でも3人隣り合わせて急接近することに。

何も変わらない日常に、恋愛小説のようなお話が舞い込んでくる。

恋×シンアイ彼女 - Us:track

 この作品の根底にあるのは"初恋"だ。初めて故の初々しさや後悔を、これでもかといわんばかりに丁寧に描いている。きっと多くの人が経験しただろう甘くて切ない初恋は、初めて故の戸惑いと胸の高鳴りがあった。何もかもが初めてで、全力になれなかった後悔。あるいはだからこそ全力でぶつかることができた人もいるのだろう。
 全力でぶつかった國見洸太郎とヒロイン達。『恋×シンアイ彼女』は全力たらんと足掻いた少年少女たちの物語だ。


2.共通√

a.第一章「私が戻ってきたのはね。もう一度、星の音を聞くためだよ」

 姫野星奏と新堂彩音との再会に始まり、小鞠ゆい・四條凛香との出会い。文芸部の存続をかけた勧誘活動を中心に話は進んでいく。主に姫野星奏と新堂彩音の二人との物語がメイン。

 個人的に気になったのは洸太郎が彩音を文芸部に誘うシーン。

 この"リハビリ"という表現。恋患い、或いは恋の病などと言われるように、洸太郎は自分の異常を認識していて、彩音の服飾科で孤立していたという話を聞いてこう切り出した。初恋という猛毒に侵されてなお、どうにか克服しようとする洸太郎。星奏との再会が、再び洸太郎を全力にさせるきっかけになったのだろう。


b.第二章「君に届くものを書くよ。君を感動させるもの」

 メンバーは増えたが依然として廃部の危機にある旧御影ヶ丘学園の文芸部。新歓で起死回生を狙い映研と協力して短編映画を撮ることに。第二章では星奏と彩音との過去の話を掘り下げつつ、各ヒロインとの関係を深めていく。

 そしてなんといってもこの第二章ではこの作品においてとても大事なシーンが2つ描かれている。
 まず一つ目。

 後に判明するが、彩音は御影浜を卒業するときに洸太郎に告白していた。しかし告白されたことに気付いていない当の本人から「後悔しているか」と聞かれるシーン。奇しくも洸太郎と彩音は告白の返事をもらえなかったという共通点があった。
 告白の返事をもらえなかったことで恋愛小説を書けなくなるほど悩み続けた洸太郎と、胸の内は知り得ないがはっきりと、笑顔で後悔していないと言った彩音。このセリフを受けて洸太郎は映画のシナリオを書き上げることができた。
 悩む洸太郎とは対照に、彩音ははっきりと後悔はないといった。これは、彩音が洸太郎に対して全力であり続けたからだ。一方洸太郎は、手紙を渡すまでは星奏に対して全力だったが、返事をもらえなかったことで星奏に対しても小説を書くことに対しても全力になれなかった。少しニュアンスは変わってくるが、洸太郎自身が自分の中途半端を認めている。

 このシーンは、ラブシーンを書き上げることで中途半端だった恋愛観を脱却し、恋に対して全力になる伏線ではないかと思う。だからこそ、このシーンに必要だったのは彩音なのだろう(3.b参照)。


 次に、映画を撮り終えた洸太郎が星奏に決意を伝えるシーン。これは章タイトルにもなっているセリフで、洸太郎の気持ちの変化を表している。

 一つ目のシーンが恋に対して全力になるための伏線だったのなら、こちらは小説家という夢に対して全力になることの伏線なのだろう。そして、こちらのシーンは星奏が相手であり、「星奏と彩音」という二人のヒロインはそっくりそのまま「夢と恋」という構図に置き換えることができる。

 全力になれなかったからこそ悩み、全力であろうとする。そして大事なのが何に対して全力であるか、という点である。これらを踏まえて各ルートを掘り下げていく。


3.新堂彩音√

a.第三章「あのね。手紙、気づかないのは。たいへんなことだよ。」

 中途半端な自分を変える決意をした洸太郎は、過去を見直すことに。開いた御影浜学園の卒業アルバムから零れ落ちたのは彩音からのラブレターだった。そこで洸太郎は彩音と星奏に手紙を書くことを決意する。
 また、生徒会長の提案でラブレター代筆企画?をやることになる。


 初恋は呪いだと思う。多くの物語において、それは主人公の心を過去に縛り付ける。ずっと停滞している主人公は新たなヒロインとの出会いや、初恋相手との再会によって未来に進む。そういった流れが僕は好きだ。そして恋カケも例に漏れることなくそう進行していく。
 前へと進むための大きな一歩がこのシーンだ。過去にとらわれたままの時分を自覚し、それを打ち明ける。星奏√と彩音√の分岐がここで明確になった。要はどちらの手紙を優先するか、である。

 星奏ではなく彩音を選ぶと決めるシーン。無視される怖さを知っているからこそ、返事をくれなかった星奏ではなく、2年間自分を見てくれた彩音を優先するということ。今の彩音の気持ちはわからないが、自分の気持ちを優先した結果だった。


 彩音「気の迷いだよ」 
と、はっきりとした声で新堂がさえぎる。
洸太郎「え」
 彩音「思春期に訪れる、理解しがたい、一過性の気の迷いってやつだよ。國見君だって覚えあるでしょう?」
洸太郎「あ、あぁ……」
洸太郎「そっか」
洸太郎「それって……今も迷ってる?」
 彩音「え」
 彩音「……ば」
 彩音「バカじゃないの!?」

(中略)

 彩音
「待って」
いつかこんなことがあったような気がする。
はっきりとは覚えていないけど、帰り道で、どうしてか新堂が追ってきた。
 彩音「はぁ、はぁ、はぁ」
新堂が立っている。
急いで来たんだろう、つらそうに身体を折って、息を吐いている。
 彩音「あの、さ」
そして喘ぎながら、顔を上げてこちらを見る。
 彩音「私、うそをついた」
洸太郎「……え」
 彩音「うそ、ついた」
 彩音「本当は、さ」
……
 彩音「今も迷ってる」
洸太郎「え……」
 彩音「ううん」
 彩音「それだってウソ。気の迷いなんかじゃない」
 彩音「あのときから、私、はっきり、ちゃんと自覚してた」
 彩音「今だって……ほんとは、ちゃんと全部、自分で分かってる」
 彩音「気の迷いなんかじゃない」
 彩音「私、ちゃんといっぱい考えて」
 彩音「ちゃんとあなたが好きだった」
洸太郎「……」
 彩音「昔のことだなんて……」
 彩音「昔のことだなんて、うそだよ」
 彩音「今でも……君のこと」
 彩音「ううん」
 彩音「もしかしたら、今のほうが好きかもしれない」
 彩音「今の方が……」
 彩音「気のせいじゃないって……思ってる」

 言葉を尽くすまでもなく新堂彩音こそが我らのヒロインであった。そう悟った。

 この後、洸太郎は告白の返事をしようとするも自分の本心がわからず悩んでしまう。彩音が好きなのか、星奏のことを今でも好きなのか。そうして悩み続けるも彩音から「あんなにストレートに告白して、だけど返事がないまま、こうして二人でいるのはつらい」と突き放されてしまう。

 途方に暮れる洸太郎の前に、現れたのは星奏だった。それも、なくしたはずの洸太郎からのラブレターを手に。星奏はもう自分が持ってるべきものじゃないとラブレターを洸太郎へ返した。
 この瞬間、洸太郎と星奏の過去は清算された。初恋の呪いが解けたのだ。

 告白の返事をするシーンはぜひとも製品版で見ていただきたい。えっぐいよまじで……。


b.第四章「誰よりも、國見君の考えてることしりたいし……答えたいから」

 シンプルに彩音がかわいい。以上。

 といいつつも、彩音が服飾科から普通科に来た理由についてだけ触れておく。

彩音「私、洸太郎に会いたかった」
彩音「浦河さんの言う通り、統合されるんだから、どうせ学園で合えるのにね」
彩音「でもそうじゃなくて」
彩音「あの頃と同じ距離にいきたかった」
彩音「いかないと、どうしようもなかった」
彩音「私、重いんだ」
彩音「浦河さんの言う通り、気持ち悪いの」
彩音「でも、それだけ私にとっては大事なことだったんだ」
彩音「頭ではわかってても。洸太郎の近くにもう一度、行きたかったんだよ」

(中略)

彩音
「もう一度あんな時間が手に入るなら、なんだってするって思った」
彩音「ふられた女の子が恥知らずに追いかけてきたって思われてもいいって思った」

 彩音はデザイナーになるという夢よりも、洸太郎との恋を選んだ。言い方を変えるならば、恋に対して全力であるために、夢をあきらめたのだ。
 一方洸太郎は文芸部の部長を如月奈津子に譲り、どこかで書いて、どこかで配るところから始めると言っている。これはプロの小説家としてリスタートするのではなくゼロから始めるということだ。続けようと思えばプロとして続けることも可能なのにそれを選ばないのは、彩音にちゃんと伝えることができたから、書くための動機が変わったからゼロからやり直そうと決意したのだろうと思う。

冒頭のモノローグ


4.姫野星奏√

a.第三章「あのね。手紙、気づかないのは。たいへんなことだよ。」

 第三章の前半は彩音√と同じように進んでいく。分岐が始まるのはラブレターの代筆依頼から。墨田さんに小説を書いたりと、彩音√と大きく異なる。

 星奏を選んだシーン。彩音のときは直接的な感情表現が多かった。「恐れる」「恥をかく」「怖い」「うれしい」。しかし、こちらでは直接的な表現はない。これは、小説家により焦点が当たっているということの表れだと思う。

 そして、告白する直前になってようやく「不安」という感情が明言された。つまり洸太郎の中で、小説家という夢よりも姫野星奏という少女の存在が大きくなった。このことが後に大きなすれ違いとなってしまう。

 告白の返事は手紙で。「好き」という気持ちは書かれているが、どこにも付き合おうといった関係の変化を表す言葉はない。これこそが、姫野星奏にとっての答えだったのだろう。とか言ったら深読みしすぎかなぁ……。この後志乃に付き合ってますって言ってるしなぁ……。


b.第四章「うん……多分。さっき聞こえた」

 姫野星奏という少女との物語は、あまりにも現実的だ。この作品、もとい姫野星奏√が酷評されているのはそのあたりが原因なのだろう。星奏√はどうしようもなくエロゲではない。エロゲを求めた人にとって、それはあまりにも残酷で辛いことだ。
 とはいえ僕は、この作品が、星奏√が、心を抉った。それはもう、かつてないほどに。ホワルバ2でさえここまで心は死ななかった。まあcodaで挫折してまだクリアできてないけど。
 閑話休題。

 ここで洸太郎は、星奏と付き合い始めたことで告白したときは存在していた小説家という夢が脇に追いやられてしまったことを自覚する。
 そして、星奏はついに星の音を聞く。

 直前、洸太郎は昔、コンペに応募しようとして星奏と書いた手紙の話をしていた。洸太郎にまだ諦めてないのかと問われた星奏は顔を伏せながら諦めてないと答えた。きっと、星奏も洸太郎と同じように、夢か恋かで迷っていたのだろう。洸太郎は小説を忘れるくらい星奏に傾倒した。しかし、星奏はここで星の音を聞いた。この瞬間、星奏はきっと決意したのだろう。また5年前と同じことを繰り返す。恋ではなく夢を選ぶ。そんな決意を。

 そうして迎えたサマフェス当日。星奏がグロリアスデイズのメンバーであることが明らかとなる。
 サマフェスが終わり、星奏は洸太郎に何も言わぬまま突然転校することに。

 恋を選んだ洸太郎と、夢を選んだ星奏。そのすれ違いは、5年前と変わらず洸太郎を呪う。様々な感情がないまぜになって洸太郎を襲う。それでもなお、彼女への恋心は、いっとう大きかった。
 そして洸太郎は小説を書くことを決意する。

 そして、このすれ違いは図らずも修正される。星奏が音楽を選んだことで、洸太郎は星奏を選ぶ道が断たれ、小説家に向き合うことに
 そして刊行された『それからアルファコロン』。その発売イベントにて、二人は再開する。

 ここでいう答えが何なのか、僕にはわからない。だけど、だからこそ、この姫野星奏√はどうしようもなく現実なのだ。そう思う。


c.終章「けれど、それでも俺は、まだ、もう少し、全力で言います」

 月日は流れ、洸太郎は御影ヶ丘学園の教師になった。そしてそこで、生徒の一人、森野精華に小説家としての諦めがついたことを告げている。

 星奏との別れのおかげで再び小説を書くことになった洸太郎だったが、向き合ったがゆえに、悟ってしまった。

 グロデイの曲を作り多くの人を魅了した星奏と自分の差。あるいは、書く動機だった伝えたいという気持ちが迷子になってしまったことも大きな原因の一つなのかもしれない。

 役者としての活動に本腰を入れるべく東京に転校することになった精華。洸太郎は彼女のために小説を書いた。それを受け取った精華に次のように言っている。

洸太郎「お前は言ってたよな。東京に行くのは怖いって」
洸太郎「自分が自分でなくなっていくような気がするって」
洸太郎「俺の前では自然でいられたって」
洸太郎「だけどさ」
洸太郎「もし俺が行くなって言っても、森野は行くんだろう」
 精華「……あ」
森野はうつむいたまま、小さくうなずいた。
洸太郎「うん」
洸太郎「じゃあ、きっと振られたのは、俺だよ」
 精華「……先生」

 夢のために転校するという、かつての星奏と重なる状況で、洸太郎は教師として精華の背中を押す。精華の怖いという想いや洸太郎の前でだけ自然でいられるという想いは、ある意味告白のようなものだ。しかし、無理やり自分が振られたことにして、精華が役者に全力で向き合うことができるようにしたのだ。今の星奏が夢に全力であるように。

 涼介からの電話でグロデイが解散したことを知った洸太郎は星奏を探して走り回り、ついに見つける。以下、再開した二人のやり取りである。

洸太郎「なんで言ってくれない」
洸太郎「今回だって……」
洸太郎「チーム、解散して。帰ってきたんだろう」
 星奏「……っ」
洸太郎「それで……俺に会いたくなかったのかよ」
 星奏「……たかった」
 星奏「会いたかったよ」
 星奏「会いたくてたまらなかったよ!」
洸太郎「星奏……」
 星奏「ずっと、ずっと……」
 星奏「でも……っ」
 星奏「でも、だって……っ」
洸太郎「またか。って思われると、おもったか」
洸太郎「また、つらくなったら帰ってきて……俺を利用するつもりだって、思われるとおもったか」
 星奏「……っ」
星奏は、確かにうなずいた。
洸太郎「思うかもしれないけどさ」
洸太郎「それでも、なんで本当のことを言ってくれない……っ」
洸太郎「なんで、俺を怖がる」
洸太郎「そんなの、結局、君は、自分がかわいいだけじゃないか」
洸太郎「それが、悔しい」
洸太郎「君はきっと……」
洸太郎「俺に全力じゃ無かったんだな」
 星奏「…………そう、だね」
 星奏「私は、選んだから……」
 星奏「音楽を」
 星奏「でもつらくなって」
 星奏「一人になって……」
 星奏「でも、そうしたら……洸太郎君に会いたくなる」
 星奏「一人はいやだから」
 星奏「卑怯でもなんでも……やっぱり、好きだから」
 星奏「忘れられないから」
 星奏「でも……私は……」
 星奏「裏切ったから」
 星奏「……もう、あなたに」
 星奏「……っ」
洸太郎「……」
洸太郎「もう、終わったのか?」
 星奏「え」
洸太郎「やりきったの?」
 星奏「……」
 星奏「うん」
 星奏「いろんな曲を作った」
 星奏「いいこともあったけど、最後にはたくさん嫌なこともあった……」
 星奏「それで、もう思い残すことはない」

 星奏は自覚している。音楽と洸太郎。どちらかしか選べないのなら、自分は音楽を選ぶと。でも今、こうして戻ってきたのは、音楽に心残りがないからだと。
 こうして二人は結ばれる……かに思われた。

 二人で過ごすようになったある日、星奏は夜の海を見に行こうと洸太郎を誘う。そこで、星奏は告げる。

 星の音が、聞こえた。はい、星の音、聞こえてしまいました。ただ、僕はここで本当に星の音を聞いたのか疑問に思う。後ほど説明する。
 余談だが、やはり初恋は呪いだ。
 翌朝、星奏は手紙を残して消える。

洸太郎君
こうしてお手紙を差し上げるのは二度目ですね。
下手だった手紙も少しは上手くなってるかな。
なってたらうれしいです。
まずはごめんなさい。
また、私は繰り返してしまいました。
あなたの前から、去ります。
どうして言ってくれなかったんだって言葉、覚えてます。
でもどうしても言葉にできないことって、あるみたいです。
洸太郎君なら、できるのかな。
私に言えることはやっぱり、これだけです。
さようなら
誓って、もうあなたの前に現れることはありません。
これは私にとっての、絶対の約束です。
もう、あなたを利用したりしません。
指輪、受け取れなかったけど、ありがとう。
こんなこと手紙に残すのは、やっぱり卑怯だけど…
ずっと昔、あなたが勇気を出して、手紙をくれたこと。
そして指輪の箱をさしだしてくれたこと。
あの瞬間を、ずっと大事にしながら私は生きていくと思います。

 滲み出る罪悪感がつらい。無情に振舞おうとして、愛が溢れてしまっているのが伝わってくる。どうせなら、無情を貫いてほしかった。そこで見せる愛が、呪いなんだ。そんなことされたら嫌いになれないじゃないか……。忘れられないじゃないか……。

 そうして洸太郎は教師を辞める。自堕落に過ごす日々。そんな洸太郎に残ったのは、星奏に会いたいという想いだった。
 御影ヶ丘時代の先輩、如月奈津子に頼み込み、ルポライターとして働き始める。
 3年間の下積みの末、洸太郎はついにグロリアスデイズの特集記事を書くことに。そして、グロリアスデイズのメンバーの一人吉村さんにインタビューする機会を得る。そこで聞かされたのは、グロリアスデイズ解散の裏側と、解散後独り戦った姫野星菜のことだった。

 洸太郎のプロポーズをふいにして選んだ音楽という世界。しかし彼女はかつての輝きを失っていた。だからこそ、僕は思う。あの、夜の海を見に行った日。彼女は本当に星の音を聞いたのだろうか……と。御影ヶ丘時代、洸太郎の告白の返事で、彼女は言った。

『迷いながら何かを探し続けるあなたは、ずっと私のあこがれです』

『さよならアルファコロン』を書き、情熱のあった洸太郎を見て、あこがれて、星奏は音楽に全力で向き合うことができた。そして、星の音を聞く
 新歓で洸太郎の脚本に触れ、洸太郎自身に触れた。このとき、再び星の音を聞く
『それからアルファコロン』を機に、小説家になることを諦めた洸太郎は、きっとこのとき同時に、何かを探すことを止めてしまったのだろう。だから、星奏は再びスランプになった。憧れた洸太郎は無く、だから、星の音も聞こえなかった。それでも、彼女は音楽に全力であろうとした。そうでなければ、二度も洸太郎を見捨てたことに意味がなくなってしまう。ただ洸太郎を苦しめただけになってしまう。だから彼女は、星の音が聞こえたと、ウソを吐いた
 星の音が聞こえなかった星奏のつくる音楽に輝きがないのは、或いは当然で、だからこそウソ寒いのだろう。

 洸太郎の記事は思いのほか反響があり、それが原因で洸太郎はクビになってしまう。無職になった洸太郎は、小説を書く

なんで小説を書くんだろう。
才能もないのに。
架空の、何でもない何かを書くんだろう。

(中略)

言葉はウソだ。
ウソにウソをいくら重ねたって、君の心を震わすことはできないのかもしれない。
けれど、それでも何かになろうとして、書き続ける。
だから、どうか俺の言葉を聞いてください。
ささやかな恋を、語らせてください。

 三冊目の小説を出版する際、洸太郎は上のように語っている。洸太郎にとっての真実は、星奏に対する愛で、小説家として綴る何かはウソなのだろう。それでも、と。洸太郎はここで、ようやく、小説家に向き合う
 そして、三冊目は年始に出版され、春を迎える。

 思い出の公園で、洸太郎は思う。

今、無性に……
彼女に手紙を書きたかった。
……星奏。
「俺たちは……俺と君は……」
「似ているのかもしれません」
「いろんなものを犠牲にしながら君が駆け抜けた先には、もしかしたら、寂しさだけが待っていたのかもしれません」
「君を全力で追い求めた俺もまた、どこにもたどりつけませんでした」
「だけど思い返すと、その季節はとても美しく輝いています」
「なにものにもかえがたい宝物です」
「あなたが俺に、返事をくれなかったこと。何も言わずに去ったこと。今なら何となく理解できる気がします」
「あなたはただ、全力だったんだと思います」
「あなたが全力であるべきものに対して」
「そんなあなただからこそ、最後の最後に手紙にしたためた言葉は、きっと心からの決心を込めて書いたのでしょう」
「二度と、俺には会わないと誓うって」
「それがあなたのけじめなら、俺は、それも大事に受け取りたいと思います」
「けれど、それでも俺は、まだ、もう少し、全力で言います」
「あなたに会いたい」
「あなたが好きです」

 返事をくれなかったこと、何も言わずに去ったことが、理解できるという洸太郎。これは、夢に全力で向き合った結果なのだと思う。三冊目を出すにあたって、洸太郎はついに、全力で小説家に向き合った。だから、夢に全力だった星奏の気持ちが、たとえかけらだったとしても、理解できたのだろう。その決意の表れが、"もう少し"なのだ。

 呪いが、解けた。


5.感想

 どうしようもなく心に刺さった作品だった。

 以前友人に問うたことがある。一緒に死んでもいいと思えるのは、果たして恋なのかと。友人はそれは間違いなく恋だと言っていた。もしもそれが恋ならば、僕の初恋の相手は彼女だったのだろう。振り返って見れば小学2年生で出会ってから中学を卒業するまでの8年間、僕の心には常に彼女がいたように思う。
 中学の卒業式。僕は彼女に告白された。しかし彼女は「先に進みたいから振ってくれ」と満面の笑みで言っていた。戸惑いながらも彼女の言う通りにした。恋かけのラストシーン。星奏の決意の一文を見た時、僕は卒業式で見た彼女の笑顔がフラッシュバックした。ようやくあの笑顔の理由がわかった。だけど今更すぎる。
 僕は、洸太郎のように、全力にはなれない。だから、星奏√が、つらい。


 ラスト、公園のベンチで眠った洸太郎はこのように思っている。

目を覚ましたら美しい夢の続きが、俺を待っている。
そんな気がした。

 はたして星奏がそこにいるのか。僕はきっといないと思う。それが星奏の決意だから。それに。だからこそ、""なのだろう。でも、それでいいと思う。自らの夢を追いかけていれば、星奏はきっと、また音楽をつくる。そして、星の音を聞きに戻ってくる。そのときは、二人。夢を追うもの同士、うまくやっていけると。そう、信じてる。
 プレムービー冒頭で言われている夏は、きっと、これからやってくる。

『シンアイ』は、
親しみを感じ、愛し合った彩音との『親愛』と。
夢を信じ、その先にある愛を求める星奏との『信愛』

そういった意味なのではないかと思う。以上、長々とありがとうございました。









 ところで菜子√と森野精華√はどこ?????

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