踊り続けること
7回忌を迎えた。
妹は幽霊が怖くなくなったらしいし、
母はずっと強い。
兄は、、、相変わらずよくわからない。
私はというと、相変わらず書斎を漁っては、
父が読んできたであろう本を手に取っている。
父のことをこれ以上、知ることはないだろう。
どんな価値観を持ち、どんな仕事をし、どんな風に人と接し、生きていたのか。
娘の私にとって、父は父以上の何者でもなかった。
私と父は顔も性格もなんとなく似ていたので、反抗期は嫌悪感が凄かったし、
父は小っ恥ずかしい愛情表現を平気で言ってくる人だったので、その反動で反抗期はだらだらと長く続いて。
結局、面と向かってお父さんとは一度も呼べなかった。
そのことは、私にとっては1番の心残りであるかも知れない。
いつかは、お父さんと他の家の子が呼ぶ呼び名で、年齢を重ねて、恥ずかしさがなくなるくらい大きくなったら、当たり前に呼べるようになると思っていた。
なのに、その日が来る前に父は、とても急いで行ってしまった。他にも、恥ずかしさで言えなかった言葉はたくさんあるのに。
そして今、6年の月日が経って、みんなそれぞれ、前を向いて生きている。悲しみは、当時より確実に薄らいでいる。
これでいいのだろうか、と思う。
いや、こうして生きていくしかないのだろう
、とも思う。
大きな悲しみを、ずっと内に留めておくことはできないもの。自分を守るために。
初夏、木魚の音に紛れて、羊男が囁く。
「踊るんだよ 音楽の続く限り。」
彼とは、父の書斎で出会った。
父は村上春樹が好きだった。
何度も転んで、
器用に踊れないし、
周りには合わせられない。
それでも、
私は踊り続けることとする。
上手に踊れるようになったら、
また会いましょう、お父さん。
2023.6.30